第16話
その日も、夏季集中補講を終え、リンや友達と校門を出たところだった。
パシャパシャ、パシャパシャ
シャッター音が響き、俺は眩しさに目を閉じた。
ナカイさんが俺の前に立って遮る。
「どいてください。どいてください!」
ナカイさんが頑張って道を開けてくれる。
リンや友達とは自然と距離が空く。
「ショウタ!」
リンの声を後ろに、俺はナカイさんに引っ張られるまま走った。車に押し込まれる。車で帰る予定なんてなかったけど。
「すみません、大丈夫ですか?」
助手席にサヤさん、運転席にコンドウさんがいる。
「これを見てください。どこかから情報が漏れたみたいで。」
サヤさんから渡された記事には、『皇太子、養子縁組か?!』という記事。そして俺たちの名前や経歴などが簡単に載っている。
「え、マジか…。」
「どこから漏れたのかは只今調査中です。ショウタさま、申し訳ありませんがご安全を確保するために警備しやすい場所に引っ越していただけませんか。」
「え、そんなに危険な状態なんですか。」
「名前が出たということは、住所なども当然簡単に調べられてしまいます。」
「親父や妹は…。」
「お父様やミズホさんにも、外出時はSPをつけることになるかもしれません。」
とりあえず家に帰ると、俺の家の周りはマスコミが囲っていた。
「いいですか、何も答えなくていいですからね。どんな取材だってきちんとアポを取ってするべきなんですから。」
「俺らの声だけを聞いてまっすぐ玄関まで歩いてくださいね。」
家の前につけた車から玄関までの間、俺にはすごくたくさんのフラッシュが浴びせられた。ナカイさんとコンドウさんとサヤさんが左右と後ろから俺を囲ってくれる。
「どういうお気持ちですか?」
「玉の輿!よかったね!」
「ご家族にいくら支払われるか知ってますか?」
「将来の夢は?」
「どいてくださーい。通してくださーい。」
ナカイさんの声だけを聞こうとしながら、俺は何も答えず、まっすぐ前だけを見て家に入った。
親父とミズホはリビングで座って俺を待っていた。知らないSPの人が2人いる。
ミズホは見るからに不安そうな顔をしている。
「犯罪者の家族ってこんな感じなのかもね…。」
「ショウタさまは犯罪を犯したわけではありませんから、堂々となさっていればいいんですよ。」
サヤさんはそう言ったが、ミズホの顔は晴れない。
自分の部屋に行ってしまった。
サヤさんたちが親父と話をしている間、俺は荷造りを進める。
どっかでは帰って来られるとは思うけど、何を持っていこうかけっこう悩む。
ミズホからもらった旅行のお土産は?リンとケンショウの友情の証は?母親の形見は?合気道の道着や木刀は?
「全部持ってくか!」
俺にとっては大事なものだし。
「ぷふふ」
部屋の入り口から笑い声がした。
ミズホが覗いていた。
「ちょっといい?」
「お兄ちゃんて本当変だよね。」
「なんだよ。俺は自分のこと変だなんて思ってないけど。」
「それがいつも、なんか、面白いんだよね。」
ミズホは俺の部屋の海賊アニメのフィギュアを触りながら言った。
「お兄ちゃんは結局皇室のこととかどう思ってるの?嫌じゃないの?」
「うーん、まだわかんない。皇室のこと全然知らなすぎたから、まだ知ってる途中。」
「やめといた方がいいんじゃないの?お兄ちゃん、皇族って感じじゃないよ。」
「皇族も喋ってみると全然皇族って感じじゃないよ。普通の人間。」
「そうなの?」
「そうだよ、ハルシャ知ってる?ハルシャなんて俺より年上だけど思春期拗らせてるガキみたいだったんだよ。」
「えー!不敬ー!」
「母親にうるさいとか言うんだよ。」
「嘘だぁ。あ、もしかして、今後はお兄ちゃんの悪口も不敬ってことになっちゃうのかな?」
「ミズホは別にいいだろ。妹なんだから。」
「そうだよね!」
ミズホはにっと笑った。母親が死んでから、ミズホと俺は本当に一蓮托生って感じで生きてきた。まだ一年生だったから、当時5年生だった俺が一緒に学校から帰ったり、夕ご飯作ったり。離れるというのは少し寂しいかもしれない。
「お兄ちゃん、今まで、ありがとね。」
「こちらこそ。」
しんみりした雰囲気は秒で終わった。
「でさ、私、記者の人から言われたことがずっと引っかかってるんだわ。」
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