第15話

「シーファ様はご存知かもしれませんが。」

 それまで聞いていた宮廷官長のゴンダさんが口を挟んだ。

「祈る儀式、というのは朔祭のことですよね。その日、皇后は何をしているかご存知ですか。」

 シーファは黙っている。

「何をしているんです?」

 ジングウジくんが尋ねた。

「お篭りになるのです。皇帝が祈っている間は誰も邪魔をしてはならんのです。カメラで撮影なぞもっての外。」

 俺たちの話し合いは振り出しに戻ってしまった。


「やっぱりもっと公務を増やすしかないのかもな。」

 ジングウジくんが言った。

「例えば、スポーツの全国大会を視察するとか。」

「たしかに、自分たちの大会を見にきてくれてたら、おっ嬉しいって思うかもしれない。」

 俺も同調する。

「どうやって区切るつもりだ?サッカーは見に行って野球は行かないなんてことはあってはならんだろう。」

 アサヒナさんが言う。いちいち偉そうなんだよな。

「スポーツだけに限らず、文化系の大会にも行かなければならないだろう。」

 オトノキさんが言う。

「そうなると皇族がたくさん必要になりますね。」

「そうなのです!」

 俺の発言に被さるようにシーファが言った。

「皇族を増やさないといけないの。でも私も結婚したら皇族ではなくなるでしょ、リファもサイファもいなくなってしまった。今、私も父も母もシュウトクさんもキョウカさんも大忙しなの!」

「ハルシャさんは?」

 俺は聞いた。

「ハルシャは気に入った公務しか行ってくれなくて。」

「公務に気に入るとかあるんですか?」

「興味ってあるでしょ、手話の弁論大会とか彼はそういうのに興味がないの。基本。」

 じゃあ、何なら?という質問を俺は飲み込んだ。

 周りの反応を見るにハルシャに会ったことがあるのは俺だけのようだ、ということに気付いたから。

 ジングウジくんは驚いた顔をしているし、オトノキさんは顔を顰めている。アサヒナさんは無表情だ。

「今は皇族の数が少なすぎて、伝統と歴史のある活動や障がいや福祉の面において意味のあるものにしか行けていないんです。」

 シーファは一呼吸置いた。

「皆さんも公務に参加してもらえませんか?」

「シーファさま!」

「シーファさま」

 ゴンダさんをはじめとする選定官達が慌てる。

「まだ彼らは候補でしかありません。公務を担うということは皇族の一員と認めるということですぞ。時期尚早です。」

「まぁ、そうです、よね。私の気持ちを皆さんが理解してくれて嬉しくて。」

 すみません、とシーファは小さい声で言った。

「シーファさまが謝ることではありません。早くだれを養子にするか決めてしまえばいいだけのこと。」

 アサヒナさんが言った。

「はやく決めればそれだけ早く公務にも参加できます。まぁ、未成年はそうはいかないと思いますけどね。学業がありますから。」



「もっと早く解決する方法があるでしょ、シーファ。」

 音もなく会議室のドアが開いた。

「私を皇族に戻したらいいのよ。女性宮家を作って。」

「リファ姉!」

「リファ様、なぜここにいらっしゃるのですか!」

 シーファと選定官たちが慌てる。

「リファさまぁっ!!」

 幼い子供を肩車した男が走ってきた。

「何してるんですか!勝手にどこかへ行かないでください!」

「あら、結婚したってたまには実家に帰ってきちゃダメなの?あるでしょ、育児に疲れて実家に帰ること。誰だって。」

「すみませんが、部屋を移動してください。リファさまを動かすのは骨が折れそうですから。」

 サヤさんが小声で俺たちに声を掛ける。

 気まずい。

「リファさま!私が貴方の義弟となった暁には、リファさまも支えていく所存です!お見知り置きください!アサヒナ コウキと申します!」

「まぁ、頼もしいわ。」

 アサヒナさんはSPに引っ張られて退室していく。

 俺たちも後に続いた。

 初めて見たリファは記事で見た写真より少し太っていたが、美しかった。


 皇族を増やす方法は、俺たちのような養子を取ること。それか、女性宮家を作ること?リファが離婚しているなら可能なのか?

 国民はどう思うのか?

 どちらも今まで前例がないことだ。妾が産んだ子以外の養子は今までいなかった。女性宮家もなかった。

 だが、今のままでは皇室は衰退する一方なことは確かだ。

 俺の思考はぐるぐると廻った。



 そんなことを考えている間に、歯車は廻っていく。

 俺たちの知らないところで。

 思えば、俺たちの運命はこの日から狂い出していった。

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