第14話
マサトが言っていたことは半分くらいしか理解できなかった。
アサヒナさんが有力候補だということはわかっているけど、なぜ、彼ではダメなのだろう。
年齢?それだけで?
謎は深まるばかりだ。
そもそも選ばれちゃいけない人がいると思うなら、マサトが辞退せずに自分で戦うべきではないだろうか。俺に任せるとか言わずに。
今日は、他の御養子候補と一緒に受ける講義だった。
今まで皇室の歴史とか仕事とか学んできた。
端的に言うと、皇室の仕事は国事行為のみで、それだけだとそんなに多くはないのだが、友好的外交、福祉、祈りなどやらなくてもいいけどやった方がいいこと、がたくさんある。ほとんどが何かの式典や行事に参加して必要があればコメントすること。俺がやるとしたら、仕事としてのやり甲斐なぞ全くなさそうだが、皇帝が認知しているというだけでその行事には箔がつくし、必要な仕事だろうとは思う。
そういうことが高じて、手話が使える皇族も何人かいるらしい。見上げたものだ。
「今日は、お集まりいただきありがとうございます。」
円卓のような講義室で、議長席に座っていたのは、先日会ったシーファだった。シーファ、御養子候補の4人、それぞれの選定官、そしてゴンダさんが円卓に座っている。
「皆さんは、会うの久しぶり?近況報告とかしてみたら?」
「結構ですよ、シーファさま。」
即座に声を上げたのはアサヒナだった。
「彼らはここに居られることに感謝するべきだ。」
相変わらず空気の読めないやつだ。
こんなのが最有力候補?でいいのだろうか。
シーファは、はぁっとため息をついて言った。
「アサヒナさん、あなただけが候補じゃないんです。皆さんに失礼なことをおっしゃるようでしたら退室していただきますよ。」
アサヒナの顔がかぁっと赤くなる。
「む、む、ご、」
何か言いかけたが何も言わなかった。
大丈夫か?コイツ。
「大丈夫ですか?」
オトノキさんが隣のアサヒナさんにぼそっと言った。アサヒナさんは俯いてご、ご、とか言っている。
「話を進めませんか。」
ジングウジくんがシーファに言った。
「そうですね。今日は、皆さんに討論をしてもらおうと思っています。テーマは、これからの皇室について。
今まで、講義を受けてこられて、もう皇室については大分理解されてきているのかな、と思うんです。皇室の在り方は今までとは大きく変わってきています。戦後、政治的権力はなくなり、今は平和の象徴としての役割が大きい。戦前、皇室を支えてくれていた方たちも、二世代三世代前の人たちです。
リファ姉さんの一件で皇室はもう要らないのではないか、というような若者の世論も増えたと言います。
私たち、若い皇族は今後、どのようにしていけば良いのか、皆さんで考えましょう。」
シーファは本気で言っている、本気で困っているのだ、と俺は思った。
俺も本気で考えよう。とりあえず、今は。
「俺は、この養子候補に入らなかったら、皇族のこと全然知らなかったと思う。普段の生活で目にする機会がないから、何やってるのかとかも全然知らなかった。もう少し発信していったらいいんじゃないかな。」
「確かにスメラギの言うことは一理あると思う。だが、リファのスキャンダルのことは僕でも知っていた。ああいうゴシップは広がるのが速いしなかなか皆の記憶からも消えない。やはり誰もが応援したくなるような行動を取ることは大切だと思う。」
ジングウジくんが言った。
「何をやっているかは知らないが、税金が使われていることは知っている。アマルカでのリファの警備にいくらかかるかとか、そういう情報は週刊誌にすぐ書かれる。どうしたら、か。難しいね。こちらから発信しすぎるのも、言い訳をしているみたいじゃないか?」
オトノキさんが言った。
「国民におもねる必要はない。皇族は民草とは違う。国の代表なのだから、今まで通り国事行為のみやっていればいい。」
アサヒナさんが言う。その目はまだシーファをギラギラと見つめている。なんか怖いぞ。
「確かに、皇族が意見を表明する機会はそもそも少ない。自分の誕生日と年始くらいしかないかも。もっと増やしたいけど、増やしすぎて失言してしまって、それを叩かれるのも困る。」
シーファが言った。
「YouTubeチャンネルとかやらないの?日常を切り取って発信する機会があったらどうかな。」
俺も言ってみる。
「結構な再生回数になりそう。」
「貧しい民が羨んでくる可能性があるぞ。税金でそんな贅沢しやがって、とか言う奴は必ずいる。」
「そんな奴いるのか…。」
オトノキさんの言葉に俺はしょんぼりした。
「だが、祈る儀式は発信してもいいと思う。皇帝が祈る儀式あるだろ、なんていう名前かは忘れたが。」
「毎月あるわね、そういうの。」
「ああ、皇帝が何かにつけて国のために祈っていることも国民は知らないからな。」
「宗教の問題に発展…はしないか。」
ジングウジくんが自分で疑問を打ち消した。
「皇帝の祈りはパンジャーブ独自の宗教のやり方だろ?他宗教の国民もいるけど、パンジャーブの皇族がパンジャーブの宗派で祈るのは自然だし、別にいいと考える。祈る様子を発信するのには賛成だよ。」
「ただねぇ、問題は祈ってる間は他の人は立ち入り禁止なんだよね。それは、カメラで撮ってもいいのかなぁ。」
「皇帝に聞いてみたら?」
「うーん…。そうね!」
俺の問いかけにシーファは軽く答えた。
「今までそんな皇帝だーれもいなかったと思うけど、時代と共に変わっていかなきゃいけない部分あるよね。」
「アサヒナさんはどうですか?」
俺はアサヒナさんの意見も聞きたかった。
「………。」
アサヒナさんは何も言わなかった。
皇室のことを真剣に話し合うのは楽しかった。自分たちも当事者だから、無関係ではないので議論に身が入る。候補者の人たちともっと仲良くなりたい、と俺は思った。
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