第13話

 俺は今まで何も知らずに生きてきたんだなぁ。

 そう思うよ。

 マジで。


 家に帰ってから、親父に頼んでマサトの電話番号を教えてもらった。

 親族関係のことをいかに疎かにしてきたかわかる。

 妹のミズホに聞いたら、マサトのLINEを知ってるって。

 なんで交換した時に俺を呼ばないの?

「お兄ちゃんはレナちゃんとかとゲームに夢中だったんじゃない?」

 とミズホは言った。レナも従姉妹で、マサトの妹だ。

「いっつも誰かとぐぁーって遊んでるんだよね、お兄ちゃんて。」

 ミズホは楽しそうな顔をした。そして、俺にマサトの連絡先を送ってくれた。

 親父、なんか、ごめん。

「いいんじゃない?昔の人っぽくて。」

 なんかこう、全力ーなかんじがさ、とミズホは続けた。

 それは…何だ?褒めてるのか?貶してるのか?



 マサトとビデオ通話で話す。

 マサトの妹で俺の従姉妹でもあるレナ、カナ、ミナも寄ってきた。

「ショウタじゃーん!ウケる!」

「久しぶり!だね!」

「なんか大変そうだよね〜がんば〜」

 マサトは4人兄妹の長男だ。羨ましいが俺にもミズホという素晴らしい妹がいる。羨ましくはないぞ。

 妹は妹同士話したいことがあるらしく、ミズホは自分のスマホでレナたちと繋いぎながら、自分の部屋へ入っていった。

「どう?調子は」

「想定外なことばっかりだよ。俺は何にも知らなかったなぁって痛感させられてばかりだ。」

「その方がいいんじゃないか?先入観をもって接してしまうと、友達にはなれないのでは?」

 マサトは先入観をもっていたのだろうか。

「選考試験のときさ、意味深なこと言ってただろ、それについてもうちょっと教えてほしくてさ。」

 そうだと思ってた!とマサトは笑って、アサヒナ コウキという候補のことを話してくれた。


 御養子候補は男系男子しか認められていない。しかし、男系男子は今の皇帝と血が近い宮家には存在しない。みんな女系だから。女系の親族は結婚とともに皇籍を離れ、一般人になる。

 4代前の皇帝の子孫も一般人として暮らしている。そして、会社を経営している。

 〇〇製薬って知ってるか?あと××。

 マサトは誰もが聞いたことのある製薬会社、そして大手広告代理店の名前を言った。

 その二社は4代前の皇帝の親族が代々やってるってことはわりと有名な話なんだよ。

 それがアサヒナと何の関係があるのだろう。さっぱりわからない。

 4代前の頃からなんだけど、国の事業とかやるときに、皇帝の血筋がやってる会社を通すことが多いんだ。中抜きでめちゃくちゃ稼いでいて、皇帝の暮らしを運営してるのは税金だけど、何かあった時のためというか、私費として使える金はその会社を通って国から出ているっていう構図なんだよ。

 それが本当なら大問題じゃないか?

 みんなわかってることだよ。気付こうとしてないだけでね。

 国営事業の下請けみたいなことをする会社は他にないから実質的に独占、それ故に暴利。そしてその会社を管理している人たちっていうのは、4代前の皇帝の子孫。

 そんな人たちがだよ?君たちみたいな誰ともわからないやつが御養子になることをどう思うか?

 嫌がるに決まってるって思わない?

 たしかに。

 アサヒナコウキは××の社員で、今の××の副社長の息子なんだ。一人だけハルシャより歳が上で、明らかに合わない。なのにねじ込まれた理由は、ただ一つ。


 彼らの息がかかった者を御養子にしたいからさ。


「本当に男系男子なのかも怪しいと僕は思う。」

 マサトは言った。

「まぁ、さすがにそこは誤魔化せないと思うけど。でも御養子になってから発覚しても遅いからね。なるまで隠し通せばいい、と思ってるかも。」

 え、こわぁ。

「俺も本当に血が繋がってるのか怪しくなってきた。」

「君はつながってるよ。僕たちの家系は文献が残ってるから大丈夫だよ。」

 マサトは笑った。

「でも無理ないよね。そんなこと全然知らなかったし。珍しい苗字だとは思ってたけど。」

「俺もその程度だよ。」

 俺は苦笑いした。

「アサヒナさんは後ろ盾?に皇室の地を継ぐ製薬会社と広告代理店がついてるってことはわかった。じゃあもう、アサヒナさんでよくない?」

「そうはいかない。」

 マサトは真顔になる。

「まぁ、ショウタがこのままでいいと思うなら、それでいいけど。」

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