第11話
数日後、シーファと会う機会があった。
宮殿で授業を受けていたとき、シーファが現れたのだ。
「はじめまして、今、よろしいですか?」
授業を担当していたゴンダさんは、それでは休憩と致しましょう、とか言ってびっくりするほどサッと引いた。休憩とか今まで一回もなかったけど?
「ショウタさん、ですよね。シーファと申します。以後、お見知りおきを。」
そう言うと、シーファはとても丁寧な礼をとった。
「いや、あ、お、よろしく…。」
シュウトクと初めて会った時と同じだ。芸能人に会った気分。
「えーと、本日は、どのようなご用件で…?」
シーファは不思議そうな顔をした。
「あら?選定官から何も聞いていないの?」
「え?シーファ、さんのことについて?特にまだ、何も…。」
「あー私のことはまだ言わないことになっていたかもしれないわ。他の人が知っているような感じだったから。」
シーファは目を逸らした。少し恥ずかしそうだ。
「あのね、養子に入る人がもし、嫌じゃなければなんだけどね、後ろ盾ってわけじゃないけど、国民からの支持を多く集めるためにもね、」
指を体の前でくるくる回している。かなり言いにくそうだ。
「わ、私と結婚したらどうかーみたいなことが言われてるんですよ。」
ん?
思考停止。
「いや、ほら、歳の差とかもあるから?無理にとかではなくて、もし、養子に決まった人が嫌じゃなければ、なんだけど!で、まだ誰になるか決まってないし!ほら、ね?だから、今日はとりあえず、ご挨拶しとこっかなって!思って!も、もぉー!選定官の人たちが言ってあるのかと思ってえ!」
「ああ、わかりました。でも結婚とかそういうのはまだ全然考えてなかったというか…。」
彼女いるんで、とは言えなかった。リン、ごめん。
シーファはハルシャより年上だ。たぶん25とか26くらいなんじゃないか?俺にとってはかなり年上だから、正直ナシなんですけど。
「そりゃそうだよねー!だから、まぁ私のことは姉だと思ってくれたらいいから!皇室のことは歴史とかも詳しいから、何かあったら聞いてよ!」
「あ、ありがとうございます!」
「他の候補の人はさ、知ってるんだと思うんだけどさ、すっごい気持ち悪いの!なんていうのかな、もう付き合った気でいるっていうか。だから、普通に接してくれてすごく嬉しい。」
シーファはにっこり笑った。笑うと皇后様にそっくりだ。普通にしてると皇帝にそっくりなんだけど。
「なんか、俺、知らないことばっかりだな。皇室なんて全然知らなかったから、リファさんの結婚でいろいろあったとかも、俺、昨日まで知らなくて。」
「そりゃあ普通に生きてたらそうだよね。教えてくれないみんなが悪いよね。」
シーファは俺の隣に座る。
「皇室のためにいろいろ協力してくれてありがとう。パンジャーブの皇室はね、世界で一番古い皇帝の系譜。今は政治には全く関わらない立場だけど、途絶えさせるわけにはいかないの。」
シーファは俺の目をみて言った。
「私は皇帝の娘だけど、女だから次の皇帝にはなれない。でも、何もせずただ皇室が崩れていくのを見てるだけなんて嫌なの。」
「そんな、崩れそうなんですか。」
「今のままのハルシャじゃ、きっといい皇帝にはなれない。彼に成長してほしい。」
俺は何も言えなかった。先日、晩餐の席で見たハルシャは確かにいい皇帝には相応しくないように見えた。でも…。そこで養子を、なんて言ってたら、ハルシャは自分はもう要らないんだ、とか思うんじゃないか?期待されてないと思われてると思ってしまうんじゃないか?ハルシャはもっと悲しいんじゃないか?
ハルシャに味方や親友みたいな人はいるんだろうか。
俺はハルシャのことを考えた。
「ショウタくんも協力して。」
シーファは切実な瞳で俺を見て、頼りにしてるよ、と去っていった。
そのあと戻ってきたゴンダさんにシーファと養子が結婚する計画があるのかと尋ねると、目を白黒させてとぼけていた。まだ確定ではないがそういう話は出ているのだろう。宮廷官も選定官も、秘密が多すぎる。
誰かに全部話してしまいたい。
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