第7話

 最初の候補者は誰が見ても緊張していた。足と手が一緒に出ていた。そして、

「よろしくお願いします!!」

 とりあえず、でかい声を出す。そうすると、緊張がほぐれるのだ。そして、一呼吸。呼吸を整えるのは合気道でずっとやってきたことだから。

 そう。一番のど緊張ヤロウは俺である。

 シュウトクの挨拶の後、くじ引きが行われ、俺はめでたく一番を引いたというわけだ。


 自分が何を話したか、全く覚えていないが、練習通りできたんだろう。うん。サヤさんは笑顔でいてくれてるし、ナカイさんが親指を立ててくれたし。

 あーもう終わった!あースッキリした。


 俺は他の候補者の発表に耳を傾ける。

「はじめまして。私はジングウジ リョウダイと申します。」

 二番目は西海高校のやつだ。二年生で、生徒会長をやっているらしい。やはり。そんな感じしたわ。真面目なにおいがしまくってるもんな。俺もかもだけどさ。

「西海高校で生徒会長を務める私なら、パンジャーブの未来を担う、皇室の一員としても、努力をし続けられると自信を持って、言うことができます。」

 すごい自信だ。政権放送かな?と思ったが、こういうスピーチは大人にウケる。コイツが選ばれるかもな。俺は早くもそう思った。


 三番目は大人だ。

「アサヒナ コウキといいます。26歳です。広告代理店で働いています。」

 ん?26歳ってハルシャより年上だ。サヤさんが言っていた条件を満たしてない。俺はチラリとサヤさんを見るが、強く唇を噛んで眉間に皺を寄せている。なんだ?何かあるのか?

「私は大学では史学を専攻し、我がパンジャーブの歴史について深く学んできました。パンジャーブと皇室は切っても切り離せない、皇室こそパンジャーブと、そう言ってもいいほど。」

 ちょっと偏ってないか?と俺は思った。俺はまだ17年しか生きてないけど、皇室なんて最近まで意識してなかったよ?

「昨今、皇室は神性を失い、平和の象徴と成り下がった。国民も皇族をただの人だと思っています。」

 すごく睨まれた。すみませんね、ただの国民で。

「スキャンダルなぞ吹き飛ばすような威厳を取り戻し、皇室の権威を取り戻しましょう。」

 とんでもないやつなんじゃないか?こんなのがここまで残ってて大丈夫か?サヤさん、ねぇ、選定官のサヤさん!俺ですら不安になるスピーチだった。


 四番目は小学生だ。

 かわいい。しっかりした子で、夏休みの自由研究のことを発表してくれた。三年生にしては面白いことをやっている。かわいかった。


 五番目は俺の従兄弟。スメラギ マサトだ。

「僕は皇室にはあまり入りたいと思いません。」

 え、いきなりすごいこと言うな。

「ここまで来させていただいたのは、どんな方が候補者として選ばれているのか知りたかったからです。僕は、父親の仕事に憧れをもっています。父は様々なスポーツで使うシューズやウェア、ボールなどを作る会社の副社長です。ただ作るだけでなく、実際にプレーする選手に話を聞いたり、時には一緒にプレーしてりして、みんなで一緒にグッズを作り上げていってるんです。僕もそんな会社でいつか働くんだ、そう思って生きてきたんです。」

 伯父そんはうっすら目に涙を浮かべて聞いている。嬉しそうだ…。

「それに、僕は従兄弟であるスメラギ ショウタのことをよく知っています。」

 突然俺の名前が挙がった。急に注目を浴びて、ドバッと汗が出てくる。

「彼がいるなら、パンジャーブはきっと安泰です。ショウタは人のことをよく見ているし、誰に対しても諦めず一生懸命ぶつかり続けるんです。さっきのスピーチを聞く限り、本人はあまり自覚していないようだけど。ショウタは今の皇室に必要な人物だと思う。パンジャーブのことは彼に任せて、僕は自分の夢を叶えます。」

 キラッ。マサトの白い歯が光った。イケメンスマイルを俺に向けられても。

 三番目のアサヒナさんから恐ろしいほど睨まれているのがわかる。マサト…。後で話そう。


 六番目は海東中学校の子だ。15歳。中3だ。レイゼイ レオンと名乗った。

「自分に皇族の血が流れているなんて全く知らなかった。こんなチャンスないぜ!これはパンジャーブ人の中でも限られた人しかなれないことで、なりたくってもなれないことで、それに選ばれて、すっごく嬉しいです。」

 ドヤ顔だ。拗らせている気配がする。

「SPとかがつくと、プライバシーがなくなるから嫌だとか、僕は絶対に言いません。皇帝になれなくても、皇帝を支えるために皇務に尽力します。」

 俺も中学生の頃こんなかんじだったかもな…。よかった、中学生の時にこの話持ってこられなくて。

「でも、もし皇帝になることになっても、堂々と努めてみせます。」

 選定官の空気が変わった。皇帝になりたい、とかは仮定の場合でもNGワードだったようだ。ハルシャにもしものことがあった場合を連想させるわけだから。うーん、どうなるやら。


 最後、七番目はネクタイが少し曲がった大人だった。22歳。ハルシャと同じくらいかな?

 オトノキ トウハンと名乗った。

「税理士をしてます。税理士事務所に所属しているんです。」

 ってわかります?とオトノキは有名な税理士事務所の名前を言った。俺はちょっと知らなかったけど、周りの大人はうんうんと聞いている。

「社会人経験を皇室運営に生かしていきたいと思っています。よろしくお願いします。」

 税理士って何するか知らないけど、すごい人だと思うんだけど、あまりそうは思えなかった。俺はね。




 合格者は後日通知、かと思いきや30分ほどした後に発表されるとのことだった。

 選定官のサヤさんたちは話し合いがあるそうで退室した。

 部屋には、候補者と保護者、SPだけが残る。

 俺はマサトに文句を言いに行った。

「いやいや、本当に思ったことを言っただけだよ。うちの選定官には、あとでかなり怒られそうだけどね。」

 俺の恨みつらみをさらりと流し、マサトはウインクする。それがまた様になるから不思議だ。血が繋がっているとは思えないイケメンなのだ。というか、土壇場でスピーチ内容を変えたらしい。よくできるな、そんなこと。

「僕の予想では合格者は4人だ。君と、二番目のジングウジくん、最後のオトノキさん、あと右翼のアサヒナ。」

「そんなにいるの?」

「まだこれから絞っていくんだと思うよ。血筋の関係で候補者の母数はこれ以上増えないんだから、決定打がないと落とさないさ。」

 なるほど。

「養子を何人取るか、聞いたかい?」

 たしかに、一人しか取らないとは言ってないかもしれない。マサトは頭がいいなぁ。

「アサヒナはコネだよ。選定官も切るに切れない相手からの推薦を持っている。」

「え、だれ?」

「また今度話そう。ここでは少しね。」

 俺の肩をポンと叩いて、ナカイさんをちらっと見ると、マサトは席へと戻っていった。


 合格者はマサトの予想通り。

 俺、スメラギ ショウタ。阿武坂高校2年。

 ジングウジ リョウダイ。西海高校2年。

 アサヒナ コウキ。大手広告代理店26歳。

 オトノキ トウハン。税理士22歳。


 合格しなかった、レイゼイくんの「なんでだよっ」という声とすすり泣きがいつまでも耳に残った。

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