第6話

 一週間後、俺と親父、サヤさんとナカイさんは会場となっている宮殿を訪れた。近くを通ったことはあるけど、入ったことはない。普通に緊張してきた。

 宮殿デカすぎるだろ…。5メートルの巨人でも入れそうな玄関、大理石でできた廊下、凝った照明。別世界だ…。

 俺は舞台にマイクが置いてある、小さめの体育館みたいな部屋に来た。全部高級そうな木でできてて、土足で踏んでいいのか?という気持ちになる。

 服装は正装、ということで俺は高校の夏服。親父はそんなものどこから出したという感じのタキシード。サヤさんは礼服、ナカイさんはスーツだ。俺はただのボディガードなんでーとヘラヘラしている。俺は胃をキリキリさせながら苦笑いを返す。


 室内には2人の候補者っぽい人。そしてそれぞれに、母親っぽい人と選定官とSPがいる。一人は俺と同じくらいの年齢かな。有名私学の西海高校の制服だ。もう一人は年下だと思う。中学2年生くらいかな。こちらも見たことある制服だ。海東中学校だと思う。

 俺よりずっとすごい人ばっかりなのかもしれない。俺の出る幕はない気がしてきた。

 後から入ってきたのはどう見ても年上の人だった。20代後半とかじゃないかなぁ。ネクタイが曲がってるしちょっと目つきが悪いかもしれない。

 そして、「あ!」俺は思わず小さく声を漏らした。俺の視線の先の、薄茶色の髪の男性は俺に気づいて手を挙げた。俺の従兄弟である。伯父さんもいる。親父の兄の子供だ。たしかに普通に考えたら俺が候補者になるということはマサトも血筋的には大丈夫なはずじゃあないかっ。なぜ俺は気付かなかったのだろう。親父も教えてくれればいいのに。ちらっと親父を見たが、知らん顔をしている。


 その後2人、知らない人たちが入ってきた。小学生だ。たぶん低学年。かわいい。ザ教育ママというかんじの母親だ。

 もう一人は大人だ。大人は何を考えているかわからない。俺がまだ子どもであるという証拠かもしれない。俺の次に入ってきた人よりは、パリッとしていた。


 これで全ての椅子が埋まった。

 候補者は13人って言ってたけど、7人しかいない。あとの6人はいったい…。

「落ちました。」

 サヤさんが俺にしか聞こえない小さな声で言った。


「本日はお集まりいただきありがとうございます。司会を務めます選定官のマブチです。」

 年配の男性が壇上で話し始める。

「本日は、御養子候補の皆様のことをもっとよく知るために、この場を設けさせていただきました。発表の後は昼食を用意しております。皆様には、そう固くならず、楽しんでいただければと思います。」

 昼食の話は先日聞いた。楽しみだ。


「本日、皆様のお話を傾聴しますのは、選定官13名、宮廷官5名、皇太子シュウトクさまです。それでは、シュウトクさまよりご挨拶をいただきます。」

 シュウトクは現皇帝の弟であり、継承権第一位、皇太子であり、もしかすると俺のお父様になるかもしれない人だ。会場がざわっとした。候補者は知らされていなかったみたいだ。当たり前の話かもしれないが、もう皇族が、しかもシュウトクが来るのか…。

「えー。」

 シュウトクが話し始める。

「こんにちは。今日は来てくれてありがとう。皆さんのことをもっとよく知る機会がもらえてうれしく思っています。知っての通り皇室は今、前代未聞の危機に陥っている。養子をとる、なんていうことは、今までの皇室の歴史にないことだし、しなくて良いのかもしれない。しかし、本当の危機というものは、目の前に来てからでは遅いことが多い。より、確実な皇室の存続のために、協力していただけるととても助かります。よろしくお願いします。頑張ってください。」

 シュウトクはすっと席についた。

 芸能人に会ったみたいな気持ちだ。

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