第5話
「さて、ショウタさんの気持ちも定まったところで!」
次の日、ゆっくりと眠れた俺はリビングでサヤさんとコンドウさんと向かい合っていた。
タメ口で話してくれたのは昨日だけだったのかと尋ねると、仕事に関わる話は敬語にならざるを得ないと言われた。
「いよいよ選定式の準備に参りましょう!」
「何したらいいんですか?」
「はっきり申し上げます。作文です!」
「作文?」
「テーマは何でも構いません。ショウタさまのお人柄がわかるエピソードを紹介していただきます。それを、我々選定係の前で音読していただきます。」
作文も音読も苦手だ。俺は理系なので。
「理系も文系も関係ないですよ。要は、プレゼンです。スメラギショウタはこういう人間だよーっていうのが伝わったらいいんです。理系が集う会社でもプレゼンは必要ですよ。皇族になろうがなるまいが、やってみる価値はあるんじゃない?ね?ね?」
サヤさんはナカイさんから俺とリンの話の報告を受けているのだろう。俺がまだなるって決めたわけじゃないことを理解して話してくれるので、助かる。
とりあえず、俺は書くことにした。
時間は5分くらい。人生を5分で、と言われるとなかなか難しい。たくさん話すには短いけど、端的にまとめるには長い。
俺の人生か。
まずは、家族のこと。親父と妹。あとお袋。
合気道は入れたほうがいいかも。親父がやってて、小一から始めた。やりたくない日もあるけど、最近はちょっとわかってきて楽しくなってきた。
幼馴染はリンとケンショウ。小学校の頃からずっと一緒だった。受験を乗り切れたのは二人のおかげだ。ケンショウは違う中学だけど、うちの道場で合気道を習っているのであまり離れてしまったという感じはしない。
あとは学校。俺は中学から共学の私立、阿武坂中高一貫校に通っている。すごいやつらばっかりで、めちゃくちゃ面白い。俺は家のことがあるのでいつもそんなに遅くまで残らないけど、放送部とファイナンシャル部に所属している。部員のメンツがすごく濃くて面白いんだけど、言わない方がいいかもなぁ。
あとは、皇室に対する想いとか、か?
それこそない…。
「ハッ…」
第一稿は鼻で笑われた。
「本気を出してください、ショウタさま。助っ人をお呼びしましたので。」
ピンポーン
やってきたのはリンとケンショウだった。
「よお。なんかすげぇことになってんだってな!」
ケンショウにはまだ御養子候補のことは言ってなかったはずだけど…。
「リンさんにお声をおかけしたらケンショウも一緒の方が絶対にいいから、とおっしゃるので僭越ながら私からお話ししておきました。」
僕は、スメラギショウタと申します。阿武坂高校二年。学校ではショッカーって呼ばれてます。仮面ライダー好きな友達にそんなあだ名をつけられました。
「それいる?ショッカーって敵じゃん。皇室入りするかもしれない奴が敵じゃダメだろ。てゆーかショッカーって呼ばれてんの?ウケるwww」
僕は、阿武坂高校では放送部の一員として活動しています。先生へのインタビューなどでみんなが楽しめる企画を考えています。
「昼の放送わりと面白いよね。けっこう聞いてる人多いよね」
「え、俺の学校もあるけど誰も聞いてねぇよ」
「そうだったんだけど、ついつい聞いちゃうというか。ラジオパーソナリティが面白くて」
「ショウタ、ラジオパーソナリティなん?www」
「いや、俺は裏方」
「裏方かい!」
俺が書くものは普通の域を超えないどころかつまらないらしく、二人に突っ込まれた。
「てゆーかショウタ、私、ショウタの人生はあのことなしには語れないと思うよ。なんで書かないの」
唐突にリンが言った。
「お母さんが亡くなったことだよ」
「うん、まぁ、書くけど」
「あのとき、大変だったじゃん。辛かったとは思うけどさ」
「たしかに。」
大変だった、とケンショウは少し笑った。
一礼。
俺はスメラギショウタ。阿武坂高校二年。俺の人生はまだ17年しかない。たった17年のことを5分で話せって言われても、何を話したらいいのかわからなくて、正直難しかった。
だから、俺を形作っている、俺の根幹にある考え方の話をしようと思う。
それは、鳥の目で見るっていうこと。
自分の目から見えるものと、頭の上を飛んでいる鳥の目から見えるものは違う。
俺が無理だと思うような出来事も、上から見たら大した事なかったりする。
このことを強く思うようになったのは、母親が死んだ時から。俺の母親は舌癌という癌で、発見から半年で亡くなった。亡くなったのは、俺の受験の1週間前。絶望しました。
そもそも、癌がわかって余命宣告された時、俺はそれまで頑張ってた受験勉強に、全く手がつけられなくなった。勉強なんかやってる暇があったら、母さんの側にいて、一秒でも長く一緒にいたいと思ってた。でもある日言われたんです。
「私がいなくなってもあなたの人生は続くんだから、私のために今までしてきた努力をやめないで。」って。
俺はイライラしました。母のために塾に行かずに病院に行ってたのに、と思った。受験なんかどうでもいいとまで思っていた。そして、本当に亡くなるまで気付かなかった。
受験の1週間前、お袋が亡くなったとき、お袋のの言葉をやっと思い出した。幼馴染で俺の同門でもあるケンショウから言われたんだ。
「ショウタ、鳥の目だ。」って。
鳥の目っていうのは俺とケンショウの師範でもある親父の言葉で、合気道の稽古で教わった言葉だ。自分を鳥の目から見て、稽古しろって言われる。要は自分を客観的に見ろってことだと思う。できてると思ってたことも、客観的に見るとできてなかったりするんだ。ただ、俺はその時はまだあまり意味が分かってなかったから、ただ鳥の目から見たらどんな風かなって考えたんだ。
俺の人生は道みたいにずっと続いていて、俺の隣にずっとあったお袋の道はここで終わっている。ただ、道が途切れた後も、お袋はこうして見ていてくれるだろう。鳥になって。そう思った。
1週間、俺はケンショウに手伝ってもらいながら、死ぬ気で勉強した。阿武坂中学という素晴らしい学校に入れた。お袋もきっとほっとしたと思う。ケンショウには本当に感謝している。
それからは、鳥の目から見たり、他の人の目から見たらどうだろう、と考えるようになった。
今回、俺は、人生の大きな選択肢を迫られようとしている。鳥の目から見ても、皇室に入るってことは、大きな別れ道になっている気がする。
でも、全部がなくなるわけじゃないとも思う。俺にはリンやケンショウという大切な友達や学校の仲間がいる。育ててくれた家族がいる。妹と、親父と、お袋。皇室に入ることになったって、それは変わらない。いままでの自分を大切にしながら、俺にできることがあるなら頑張りたい。そんな気持ちです。
「いいと思います。」
サヤさんは言った。コンドウさんは目に涙を浮かべている。聞くところによると、最近第四子が生まれたばかりらしい。パパの心に響いて良かった。
「硬い口調にしない方が、ショウタさまの良さは出るかもしれないですね。」
「じゃあずっとこれでいくわ。」
「TPOはわきまえてよ。」
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