第3話
サヤさんと家に帰ると、家の前にムッキムキな男が二人待っていた。一人は若そう。たぶん20代だと思う。もう一人は年配のおじさんだ。でもムッキムキだ。二人とも黒いスーツなんだけど、着ていてもわかる。なぜか、わかる。
「本日よりショウタさまの護衛につきます、コンドウとナカイです。」
サヤさんが紹介する。年配の方がコンドウさん、若い方がナカイさんだ。
「先程、ご実家は警備会社との契約を終えました。明日以降、交代でどちらか一人、ショウタさまの警備にあたります。よろしくお願いします。」
コンドウさんは渋い声だ。
「明日は10時頃私とナカイが来ますので。ゆっくりお休みください。」
サヤさんはそう言うとコンドウさんとナカイさんを連れて帰って行った。
SPってやつだろうか。
まだよく状況を飲み込めないけど、俺はこれからどうなっていくのだろう。
布団に入ったあと、将来について少し考えた。
特にやりたいこととかなかったけど、英語と化学と物理がちょっと得意な気がしていて、物理とか化学とかが勉強できる大学に進学して、合気道ももうちょっと続けたいとか、俺は俺なりにいろいろ考えていたのだろう。
皇室に入ったら、俺の人生はどうなるのだろう。やりたい研究は出来るかもしれないけど、企業に入って働いたりすることはできないのだろうか。
それに、SPはなぜつくのか。身の危険があるのだろうか。マスコミとかに写真を取られたりするのかな。数年前に皇女の結婚騒動で婚約者候補が週刊誌に撮られたりしていた気がする。
俺は、もっと、知る必要があった。少しずつ考えよう。
そうじゃないと、何かが壊れてしまいそうだ。
サヤさんは親の顔色を見て、次の日にあっただろう予定を変更してくれた。
俺の疑問にゆっくりと答える時間を作ってくれた。
「もしよろしければ、お父様も同席していただきましょうか?」
「お願いします」
ナカイさんが道場にいる父を呼びに行った。
「急に進めすぎてしまい申し訳ありません。まだ17歳なんですから、ゆっくり考えていただければいいんですよ。こちらの都合を押し付けてしまっているのですから。」
サヤさんはすまなそうに微笑んだ。
「ショウタさんがすごくしっかりしてるから、ちょっと甘えちゃってたかも。ごめんね」
砕けた口調が嬉しかった。ずっとタメ口でお願いしたいです。気付いたらそう言っていた。
見慣れたダイニングテーブルに俺と親父、その向かいにサヤさんとナカイさんがいる。サヤさんは座ってるけど、ナカイさんは立っている。座ればいいのに。
サヤさんは俺の質問に順番に答えてくれた。
大学には行けるけど企業とかで働くことはできないみたいだ。
「皇務っていう皇族の仕事が割とたくさんあって、働きながら皇務をするのは時間的に難しいと思う。でも、時間が全然ないわけじゃないから、文献を読んで研究とかしてる人はいるよ。先代の皇帝は生物に詳しくて、新種のウーパールーパーを発見したりもしてたんだよ。」
先代の皇帝ってそんなことやってたのか。知らなかった。
「研究か…。」
そんなことする気はさらさらなかったなぁ。
声に出てたのか、ナカイさんがぷっと吹き出す。
「そうだよね。俺も17の頃はなーんも考えてなかったよ。」
「失礼ですよ。」
「いいじゃん別に。堅苦しいのばっかじゃ嫌になるだろ。」
ナカイさんはニヤッと笑った。
「ランニングとか気晴らしになるよ。オレ、いつでも付き合いますんで。」
「あ、そうだ。そのことも聞きたかったんですけど。ランニングにも一緒に行ってもらわないといけないくらい何か、危険なんですか?俺。狙われてるとか?」
「いやいやいや!あ、それも言ってなかったよね!ごめんね!」
サヤさんが慌てる。
「まだ御養子のことは宮廷官の中でも内々の内々の内々だから、知ってる人はすごく少ないの。だから、危険とかはないです。ただ、交通事故とかも含めて、何かあってからでは遅いので、SPを一人だけつけることになりました。」
「あとあんまり言ってほしくない場所とかも一応あって、そういうとこはおいおい教えていくことになると思う。」
ナカイさんが言った。
俺は少し愕然とした。変なとこ行ったり変なことしないように、見張りも兼ねてるってことじゃん。そんなことする気はないけど、いい気分ではなかった。
「なれないとは思うんだけど、皇族になると移動にも30人くらいSPがついたり、交通整理をしてから移動したりとか、そういうこともあるの。徐々に慣れていってほしいな…。」
「ぼっちゃんが嫌なら見えないとこから見るっていう風にする?」
「大丈夫だ。」
それまで黙っていた親父が突然口を開く。
「息子はやましいことなどしない。よろしく頼む。」
「勝手に決めないでよ」
思わず口をついて出た。
「親父が、俺の人生勝手に決めんなよ!!俺のことなんだから。俺が決めるよ」
親父は黙った。
「すまない。」
親父は立ち上がり、部屋を出て行く。一度だけ振り返って、
「彼らも仕事なのだ。」
と言って去った。
「いや、俺は仕事じゃないし。」
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