第9話―Day9「最終決戦」―
「ここがホワイトガーデン……? やっぱり、いつもと違う」
「そうや。強い奴が出てくるときはたいていここなんや」
彼女らはあたりを見渡す。そこはいつもの迷宮のようではなく、一つの部屋のように四角い空間だ。
真ん中に少女の石膏像があるだけで、あとは何もない。
敵の姿も見えない。
「敵はどこなんでしょうか?」
舞奈がそう尋ねた時だった。
彼女らの背にびりびりとした悪寒が走り、反射的に魔装を構える。
「来るわよ……」
「んっ!」
すると目の前の空間がぱっくりと裂け、そこから敵が現れた。
「やっぱり来たのね……」
それを黄泉は睨みつける。
現れたのは黄泉が話してくれた姿そのものの、千手の悪魔だったのだ。
「あれが、千手の悪魔……鈴音を倒したインベーダー……」
瑠璃はその姿を目にし、自然と手足が震えてしまうのを感じた。
真っ黒な身体に鋭い瞳、背に生えたおびただしいほどの腕、その存在自体が彼女らにどうしようもない恐怖を与えていたのだ。
直視してしまえば体がすくんでしまう。しかし彼女らはそれに立ち向かわねばならないのだ。
「行くわよ、瑠璃。あいつを倒すために今まで頑張ってきたんでしょう? 大丈夫、あなたは強いわ。怯えないで」
「黄泉……」
黄泉の言葉を聞いた瑠璃の心に、温かなものが湧き水のごとく溢れ出す。
彼女の声が、優しさが、瑠璃に力を分け与えてくれるのだ。
「ありがとう、黄泉……あいつを絶対倒す!」
瑠璃の声が皆を鼓舞し、そして戦闘が始まった。
まず先陣を切ったのは陽菜だ。
彼女は目に見えぬ速度で悪魔に斬撃を食らわせる。
だが、悪魔の無数の腕がそれを全て受け止めた。悪魔はにやり笑い、陽菜を投げ飛ばす。
しかし間髪入れずに背後に控えていた真宵が爪での攻撃を食らわせる。
それに合わせるように瑠璃と黄泉が銃撃を食らわせ、悪魔の動きを止める。
「これで終わりです……!」
そして最後、悪魔の背後に回った舞奈が矢を撃ち放った。
それは悪魔の頭部を正確に撃ち抜いた。頭部から紫の血を飛び散らせ、悪魔の身体が地面に沈む。
「あれ? なんだかあっけなかった?」
「それだけうちらが強くなってるっちゅうことや! ……と言いたいけど、なんかおかしいな。なぁ、黄泉。あんた、こいつと戦ったんやろ? なんか覚えとらんか?」
「い、いえ……あたしも必死であの時のことは……」
だがその刹那、黄泉の脳裏に戦いの記憶が一部蘇り、はっと目を見開いた。
「みんな! そいつから離れるのよ! いいからすぐに!」
普段声を荒げることのない黄泉の声帯から放たれた怒声。驚いた彼女らは直ちに悪魔から離れた。
瞬間、悪魔が立ち上がったのだ。
撃ち抜かれた頭部も元に戻っている。
「回復したってことですか?」
「えぇ、そうよ……思い出したわ……こいつ、死なないのよ!」
「はぁ!? なんやて!? 不死身の敵をどうやって倒せばええねん!」
「わからないわ……でも、とにかく殺し続けなければあたしたちが負ける!」
「そんなのって……でも、やるしかないんだよね!」
「んっ!」
彼女らはまた悪魔に立ち向かった。
瑠璃が銃剣で心臓を貫く。舞奈が矢で頭を射抜く。黄泉がマスケット銃で頭部を吹き飛ばす。真宵が爪で喉をかき切る。陽菜が刀で頭部を切り落とす。
けれど悪魔は何度でも蘇る。
そうして10回ほど殺されたころだ。
「よ、避けられた!?」
「ボクの弓も躱されてしまいました!」
「こいつ……ただ殺されとるんとちゃう! 死んで学習しとるんや!」
「あたしたちの動きに追いついてきてるってことね……それなら連携攻撃よ!」
お互いがカバーしあい攻撃を繰り返す。
何度か悪魔を殺すことはできたが、やがてそれも通用しなくなる。
そして20回ほど殺したころにはすべての攻撃が悪魔に通用しなくなっていた。
それに悪魔の身体が初めより大きく、屈強になっている。
「マジかいな……あいつ、死んでつようなっとるやんけ」
「ん……」
「もうボクたちの攻撃は通用しませんよ……どうしますか?」
魔法で身体強化しても悪魔にもう攻撃は届かない。
「ねぇ……あいつ、復活するまでに少し時間がかかってるよね? もし復活してすぐに殺したら、どうなるかな? いくら不死身だからって、制限はあるんじゃない?」
「その制限が来るまで殺し続けるというわけね……あくまで、制限があれば、ということだけれど」
「それにまたあいつを殺さないといけないんですよね? もうボクたちの攻撃も通用しませんよ?」
「せやけどやるしかないやろ……最悪、刺し違えてでもうちが」
前に出ようとした真宵を、陽菜が止めた。
「陽菜?」
「んっ!」
陽菜が悪魔を睨みつけ、得物の切っ先を敵に向けた。
ギラリ、冷ややかに輝く刀身。それが彼女の思いに呼応するように熱く揺らいだ。
いや、刀身だけでない。彼女の周辺の空気が、ぐらり揺らいだのだ。
それは彼女の魔力が起こしたもの。練り上げられた強大な魔力が、彼女を今包み込んでいるのだ。
「んっ!」
「陽菜! あんた、魔力全部使いつくす気かいな!?」
「そんなことをしたら動けなくなるわ! そうなると誰もあなたを守れないわよ!」
「ん」
陽菜はこくり、頷く。その頷きには大丈夫だ、という思いが込められていた。
彼女は柄を握り締め、悪魔を鋭い瞳で睨みつける。
いつものふわふわとした雰囲気はもうどこにもない。今の彼女は敵を切り裂く刃のように冷徹に、それでいて仲間のために明日を切り拓く優しい意志に満ち溢れていた。
「んっ!」
彼女が唸り、悪魔に立ち向かう。
今まで以上に素早い斬撃が悪魔を襲う。
だが、やはりそれは無数の腕に防がれてしまう。
しかし陽菜も負けてはいない。素早く動き回り相手の攻撃をかわしながら、斬撃を食らわせている。
その打ち合いはまさに光速。瑠璃たちには何が起こっているのか目で追えていない。
援護しようにも陽菜の足を引っ張ってしまうかもしれない。
故に彼女らはただ祈るしかなかった。陽菜の勝利を。
「んんー!」
陽菜が叫び、悪魔の身体に袈裟斬りを食らわせた。刀身が、悪魔に届いたのだ。
あとは陽菜の身体に残る魔力をすべて絞り出し、目にもとまらぬ斬撃で悪魔を切り刻んだ。
そして次の瞬間には、悪魔は手のひらサイズの肉片にまで切り刻まれ、その体がばらばらと地面に崩れ落ちたのだ。
「やった! 陽菜ちゃんが勝ったんだ!」
「やったな、陽菜! あんた、最高や!」
あまりの嬉しさに陽菜に駆け寄る彼女たち。
「んっ……」
陽菜は彼女らのほうを向き、ニコリ、ほほ笑んだ。穏やかで、やり遂げたとでも言いたげな誇らしげな顔だ。
だが、その顔が首からぐらりとずれて、ぼとり、地面に転がり落ちる。
「え……?」
はじめ、瑠璃たちは何が起きたのかわからなかった。
やがて陽菜の身体がばたり、地面に倒れ伏した時、ようやく気が付いたのだ。
彼女は自分の命と引き換えに、悪魔を細切れにしたのだ、と。
「陽菜ちゃん!」
倒れた陽菜に駆け寄る瑠璃。
「瑠璃! あかんで!」
だが、真宵の怒号が瑠璃の足を止めさせた。
「どうして!? 陽菜ちゃんが……陽菜ちゃんが死んじゃったんだよ!? 頭と体が離れちゃって……かわいそうじゃない! せめてそれだけでも」
「あかん! あんた、陽菜が自分の命かけてまでやったこと、無駄にするつもりか?」
「でも」
「陽菜は自分を囲んで泣いてもらいたくて死んだんやない! うちらに、あいつを殺してほしかったんや! 自分の命を差し出してでも、うちらを生かそうとしてくれたんや! やから……」
真宵の声に涙が混じっている。それはそうだろう。
陽菜と一番長くいたのは真宵だ。どんな時も陽菜とともに戦い抜いてきた、大切な相棒なのだ。
そんな彼女が死に、一番に駆け寄りたいのは真宵ではないか。
しかし彼女はそれをこらえ、細切れになった敵を相手にしている。
「ごめん、真宵……それに、陽菜ちゃん……絶対あいつを倒して、戻ってくるからね」
瑠璃は陽菜の亡骸の傍を通り、細切れの悪魔へ。
「陽菜ちゃんの、鈴音の、仇!」
そして怒りと憎しみを込めて引き金を引いた。何度も何度も。
復元しようと蠢く肉塊に向けて、彼女らは自らの得物で攻撃する。
それこそ幾度となく、だ。
その間、瑠璃の脳裏には陽菜の笑顔が蘇っていた。
まだ幼かった陽菜、言葉は話せなかったが愛らしく人懐っこい笑顔を浮かべる彼女。そんな彼女を思いながら、瑠璃は引き金を引き続ける。
「こいつ、再生が早うなっとる!」
「このままではまた復活されてしまいます!」
「わかってるわよ! まだ諦めていないわ……!」
「うん、諦めるものか!」
何度も肉片をバラバラにした。だが、それが復元しようとさらに早く蠢き始める。
肉片が繋がりあい、瑠璃たちがそれをバラバラにする。しかしいつの間にか瑠璃たちよりも、肉片の回復速度が上回った。
「いくら回復が早くてもたかが肉片よ! まだいけるわ!」
だが、そう言った黄泉の身体が後方へと吹き飛ばされた。
見ると肉片から腕が生えていた。それが黄泉を吹き飛ばしたのだ。
「すぐにバラバラにするんや! やないと復活」
真宵の言葉が終わる前に彼女もまた、後方へと飛ばされる。今度復元されたのは足だ。
四肢が復元され、彼女らを襲う。
瑠璃と舞奈はそれを何とか避けるが、その隙に悪魔は徐々に姿を取り戻し、やがて完全に復活してしまったのだ。
「舞奈、いったん退くよ!」
「えぇ!」
瑠璃も舞奈も悪魔と距離を取った。
悪魔は今までさんざん殺してくれたな、と恨みを込めた瞳で彼女らを睨んでいる。
「おかしくありませんか? あの悪魔、腕が減っています」
と、舞奈が悪魔の背に生えた腕を指した。彼女の言うとおり、初めよりも腕の数が減っている。
今では初めの半分ほどまで減っているのだ。
「わかったわ、復活の制約が。あいつは復活するごとに腕が一本減っているのよ。さっきあたしたちが何度も殺したから、腕が半分にまで減った」
「じゃあ、ここで折り返しってわけやな。けど、終わりの条件が見えたんは大きな一歩やで。そうとわかれば、あとは攻撃あるのみや!」
真宵は勢いをつけて悪魔に駆け寄った。自慢の爪をお見舞いしてやるつもりだ。
だが、悪魔はノーガード、受け止めようともしない。
「なんや? 死にすぎて感覚が鈍ったんか? 防がんとはなぁ! お望み通り、何べんも殺したるわ!」
真宵が勢いよく腕を薙いで爪の一撃を悪魔の首元へとお見舞いした。
ばぎり、嫌な音が響き渡る。
その音は悪魔の首から、ではなく真宵の爪の魔装から響いたのだ。
「な、なんやて……?」
驚きに目を真ん丸くする真宵。それもそのはず、悪魔の首へと薙いだ爪が、折れてしまったからだ。
先ほどの嫌な音は魔装が壊れた音だったのだ。
もう一方の爪で切り裂こうとするが、それも悪魔の肌に触れただけで壊れてしまう。
「やったら牙で!」
噛みついた真宵。しかしその牙も、あっけなく壊れ落ちてしまった。
何度も悪魔を殺したせいで、その体は彼女らの攻撃に適応するように硬質化したのだ。
魔装を失った真宵にもうなす術はない。
力なくうなだれた真宵の首を、悪魔の腕が握りしめる。
「ぐはっ……」
苦し気にうめく真宵。しかし、彼女は抵抗しなかった。
抵抗する技がもうないのだ。
魔装もない。魔装がなければ安定した魔法を使えない。
それにもし魔法が使えたとして、岩よりも硬質化した悪魔の肌に通るとは思わない。
ならばもう、彼女に残されたのは諦めだった。
「ぐっ……すまんな……陽菜……うちは……もう……」
「諦めちゃダメ!」
瑠璃はそう叫び、悪魔の腕に盾を投げつけた。
盾が命中し、悪魔は思わず手を離し真宵を解放した。
「る、瑠璃?」
「真宵! 陽菜ちゃんが繋いでくれた命だよ! 諦めちゃダメだよ!」
「はは、せやったな……陽菜が命懸けでうちらを守ってくれたんやから……諦めたらあかんよな……」
真宵は何とか立ち上がり、悪魔との距離を取る。
「真宵が助かった……これでよかったけど……その後どうする?」
瑠璃は仲間たちを見る。
真宵は魔装が壊れ戦闘はできない。
舞奈は敵の強さに諦めたような表情を浮かべている。何とか戦おうと弓を構えているが、その手は震えていた。
そんな中黄泉だけは強く悪魔を睨みつけていた。
大切な鈴音を殺した相手なのだ、彼女は諦めずに立ち向かうだろう。しかし彼女に勝算があるとも思えない。
「私は、何ができるの……?」
瑠璃は考える。自分のできることを。この戦いを勝利に導くことを。
しかしそのビジョンは何も浮かばない。浮かぶのは、残酷なくらい未来だけ。
「ねぇ、教えてよ、鈴音……私には何ができるの? どうしたら、みんなを守れるの?」
ギュッと瞳をつぶり、胸の中の鈴音に問いかける。
その思いが届いたかのように、彼女の胸は温かなものに包まれる。
(瑠璃、あなたはまだ私の力を全部引き出せてない。私の最後の魔法よ)
「最後の魔法……?」
瑠璃はそこで思い出した、黄泉の話を。
鈴音が魔法を使うと、違うホワイトガーデンにいた、という話だ。
そして彼女はもう一つ思い出す。自分が鈴音と初めて会った状況を。
出会った鈴音は何かとてつもない敵と戦ったみたいにボロボロだった。その相手は千手の悪魔。
そんな彼女がなぜ現実にいたのか、それは彼女が最後に使った魔法の正体だ。
「空間転移……?」
(そうよ。私もなんで使えたのかわからない。けれどこの力が、みんなを助けるカギになる)
「この力があれば、みんなをもとの世界に戻せるの?」
(えぇ、できるわ。今のあなたならね……私の時は残った力が少なかったから黄泉がまだこの世界に取り残されてしまったけれど……まだ力の残ってるあなたならできる!)
鈴音の魔力が全身を駆けまわっていると瑠璃は感じた。優しくて暖かくて、とても安心できる。
鈴音の魔力が瑠璃の魔力と混ざり合い、彼女に力を与えた。
「そうだね……私なら、みんなを助けられる! この戦いに、終止符を打てる!」
瑠璃は銃剣を構え、舞奈の足元に向けて引き金を引いた。
銃弾が着弾すると、彼女の足元に大きな穴が開く。
「え……? 瑠璃さん!? これはどういう」
「舞奈、これで現実に戻れるんだよ? 今まで一緒に戦ってくれてありがとう。あなたがいて、心強かったよ。もう戦わないで済むから、お父さんのところで安心して過ごして」
「瑠璃さん!」
舞奈はそう叫びながら穴の中へと消えていく。
この穴の奥は現実に繋がっている、確証はないが、瑠璃にはそう感じられた。
「次は真宵の番。真宵も現実に戻って」
「うちはまだ戦える……って言いたいけど、こんなんやし無理や。陽菜が繋いでくれた命や、あいつの分まで生きなあかん。なぁ、陽菜の仇は、取ってくれるんやろな?」
「うん、仇は取るから……安心して」
「わかった、ありがとな。でも、ちょっと待ってや」
真宵は陽菜の亡骸に駆け寄り、彼女がいつも持っていたウォークマンを握り締めた。
「こいつだけでも、現実に戻してあげたいんや」
「わかった。真宵、ありがとうね。元気で」
瑠璃が真宵の足元にも大穴を作り、元の世界へ戻してやる。
「最後は黄泉の番。本当に、今までありがとう……」
「ねぇ、あなたも現実に戻ってくるのでしょう? 最後の別れ、なんてことはないでしょうね?」
「あいつを倒したら、帰るよ。だから安心して」
瑠璃はニコリ、ほほ笑んで見せた。だが、黄泉の瞳にはその笑みがひどく脆いものに見えた。
触れれば壊れてしまいそうな、そんな脆さだ。
「ねぇ……ならどうしてそんなに悲しそうに笑っているの? あなた、戻らないつもりじゃないでしょうね?」
「ううん、戻るよ……だからさ、先に帰っててほしい」
「そんなの嫌よ! あたしはあいつを許せない! 鈴音を殺したあいつが死ぬのを見届けないと、現実になんて戻れない!」
「鈴音はそんなこと望んでないよ? あの子は、あなたが現実で平和に生きてくれることを望んでるの。私もだよ? だから、ね?」
瑠璃は黄泉の足元にも大穴を作る。
徐々に穴へと引きずり込まれていく黄泉。
「ねぇ、黄泉……最後に言いたいことがあるの。私、あなたのことが」
だがその言葉が終わる前に黄泉が叫んだ。
「危ない、瑠璃!」
瑠璃の背後に迫った悪魔。黄泉はそれに向かい、ポケットから取り出した魔装を投げつけた。
それはブーメランだった。吐瀉物を飲み込み死んでしまった少女のもの。
それは瑠璃に迫った悪魔の腕を切り落とした。
だがその間に、黄泉の身体はほとんど大穴の中へ。
「さよなら、黄泉」
瑠璃の別れの言葉とともに、黄泉も穴の奥へと消えていく。
瑠璃の頬に、つつぅ、と涙が零れ落ちた。キラキラと輝くそれが地面に落ち、はぜる。
「ごめんね、黄泉……嘘ついた。私、やっぱり帰れないよ」
(瑠璃、あなた、人柱になるつもり?)
「うん……私がここから帰っても、インベーダーの侵略が終わるわけじゃないんでしょう? そしたらほかの女の子が魔法少女に選ばれてこんな辛い戦いをさせられちゃう。だから私がここに残って、その役割を全部担う。いつ終わるかわからないけど、その時まで戦うの」
(はぁ……本当にお人よしね)
「私ね、両親が死んじゃって一人で寂しかった。でも、施設の人たちが優しく受け入れてくれたの。見ず知らずの私のことを本当の家族みたいに扱ってくれて、嬉しかった。だから私もこの人たちみたいに優しくなりたいって思ったの」
(だからって自分の命まで投げ出すかな?)
「そうしないと優しくなれないなら、ね……それじゃ鈴音、あなたともバイバイしなくちゃ。あなたがいてくれて、本当に心強かった。でも私はもう一人で大丈夫だから」
瑠璃はそう言って鈴音のネックレスを外し、穴の上へと掲げた。
手を離せばネックレスは現実世界へと帰っていく。
(瑠璃、ひとつ教えて。あなた、最後に黄泉のこと、好きだ、って言おうとしてたでしょう? それって自分の心? それとも私の心に引きずられて?)
瑠璃は溜め息を吐いて、それに答えた。
「もちろん、私の心に決まってるじゃん」
そうして彼女は手を離す。ネックレスは穴の奥へ奥へと消えていく。
きらり、最後に輝きを残して穴は消えて行ってしまった。
「さてと……それじゃ残ったのは私とあんただけ。残念だけど、すぐに終わらせてもらうから!」
瑠璃が銃剣を構えると同時に悪魔が襲い掛かってきた。
ものすごい速さだ。しかし陽菜と比べると大したことはない。
「みんなの、仇だよ!」
瑠璃は引き金を引いた。銃弾が着弾したところは空間が裂け、悪魔の身体の一部がどこかへと転送される。
続けて引き金を引く瑠璃。悪魔の身体が見る見るうちに転送され、最後には肉片ひとつ残らずばらばらの世界へと飛ばされてしまったのだ。
「私だってどこの世界に飛ばされたのかわからない。いったいどれだけ体のパーツが離れてるか……そんな状態でも復活できるのかな? もし復活したら、私に復讐しに来なよ。ずっとここで、待ってるから……」
その瞬間金が響き渡った。頭を割るほどの鐘の音だ。
瑠璃の視界がぐらりと揺らむ。ジェイルに転送されてしまう。
「陽菜ちゃん……仇は撃ったからね……ありがとう、お休み」
瑠璃は薄れゆく視界で、陽菜の亡骸を見送った。
その後、ホワイトガーデンに送られてくる魔法少女は誰もおらず、瑠璃の孤独な戦いが始まるのだった。
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