第5話―幕間 来栖黄泉・狭山鈴音「最後の夜」―

「はぁはぁ……黄泉、気持ちいいよ!」

「あたしもよ、鈴音……気持ちよすぎて、おかしくなっちゃいそう……怖いわ」

「いいよ、おかしくなっちゃおうよ。二人で、狂っちゃおう?」

「あっ! り、鈴音……あたし、もう……」

「うん! 黄泉、一緒に……! あぁぁぁぁ!!!」

 鈴音と黄泉は互いに体を合わせ、快楽を貪るように愛し合っていた。

 もともと女の子の方が好きだった黄泉は鈴音に好意を寄せ、鈴音の方もともに死地を潜り抜けた黄泉を大切な存在と思い、このような関係となったのだ。

 そうして二人は、毎晩のようにこうして体を合わせていた。

 それは快楽を求めるためだけではない。互いの大切な人が生きている、その実感を得るためだ。

 ホワイトガーデンでの戦いでいつ死ぬかわからない、そんな相棒の生を感じるかのように求めあう。

「はぁ……黄泉、今日もよかったよ」

「えぇ、鈴音……あたしも、よかったわ。幸せよ」

「ははっ、そうだね、幸せだ」

 二人は互いの体液に塗れた身体そのままに、ベッドに横たわる。

 身体に染み渡る心地よい疲労感で眠ってしまいそう。

「あ~あ……こんなところじゃなかったらもっとロマンチックだったんだけどなぁ」

 鈴音は窓の外を眺め、呟く。外は真っ黒なインクで塗りつぶしたように一面漆黒だ。

 星や月が輝く夜とは違い、どこか不気味な雰囲気を見る者に与えるよう。

「こうしてエッチしてさ、疲れてふと窓の外を見ると満天の星空で、真ん丸の月だけが私たちを見てるの。月明かりで黄泉の身体がふんわりと照らされてさ……私はそこで思うわけ。あぁ、私の大事な人が今日も隣にいるんだ、ってさ」

「何よそれ。マンガか小説の読みすぎじゃない?」

「そうかなぁ……?」

 鈴音は横たわる黄泉をじっと見る。部屋を照らすのは小さなランプのみ。その温かな明かりに照らされてぼんやりと浮かび上がる黄泉の裸体。

 普段は雪のように白い肌が、快楽を帯びてうっすらとピンクに染まっている。

「ま、これはこれでいいんだけどさ。それにこっちに来なければ黄泉と出会うこともなかっただろうし」

「それは……そうかもしれないわね。喜んでいいのかどうか、少し複雑だけれども」

 二人は顔を見合わせ、小さく微笑んでみせた。

「あぁ、でもやっぱりこんな世界、嫌だなぁ」

「そうね。あたしもこんな世界は嫌よ。もう戦いはしたくないわ。誰かが死ぬのも、見たくない」

「それも嫌だけど……この世界じゃ黄泉とデートができないじゃん!」

「は……?」

 思わず間抜けな声を上げてしまう黄泉。その顔は鈴音が何を言ったのか理解できないとでも言いたげだ。

 一方の鈴音はこれまた大真面目にそんなことを言っていた。

「考えてみてよ? こっちの世界にあるのはホワイトガーデンとジェイルだけ! 他には何もないじゃん! 私はさ、黄泉といろんなところに出かけたいの! 映画館とか、水族館とか、タピオカも一緒に飲みたいし、服も一緒に買いに行きたい!」

「ま、まぁ、そうかもしれないわね……」

「ん? あんまり乗り気じゃない? 私と一緒にデート、嫌だった? あ、黄泉っておうちデート派? 一緒にドラマ一気見とかする? 韓国ドラマ最近面白いし」

「い、いえ、そういうことじゃなくて……こんな世界にずっといたからかしら、元の日常を忘れてしまっているようで……なんだか懐かしくて遠い光景のように思えてしまって」

「懐かしくて遠い光景、かぁ……う~ん……確かにそうかもね。それだけ私たちがこっちに馴染んじゃったってことかも」

 鈴音は溜め息を吐いたのち、黄泉の手をぎゅっと握った。

 黄泉の冷たな手が、鈴音の暖かな熱で満ちていく。

「だからさ、日常を取り戻すためにも、絶対にこの世界から生きて帰ろうね! 約束だから!」

「約束……」

「そう! それでさ、元の世界に戻ったら、絶対デートしようね! これも約束だから! 破っちゃ嫌だからね!」

「わかったわ、約束するわ。絶対に元の世界に戻りましょう。それで、デート、しましょうか」

 そして二人は誓い合うように口づけし、眠りに落ちた。

 その翌日、鈴音はインベーダーとの戦いで命を落としてしまう。

 そんな運命が待ち受けているとも知らず、二人は幸せそうな寝顔を浮かべていた。


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