第6話
外が明るくなって来たので身支度をしていると、ノックの音がした。
「どうぞ」
キョウさんが入って来て驚いた顔をした。
そんな姿も様になるなんて、美人は得だなぁ。
「驚いた すっかり元気なのね 何か魔法かスキルでも持ってるのかしら?」
小首を傾げながら聞いてくる。
「そこは企業秘密です」
「えー ずるいー」
あぁ可愛い(笑)
俺は深々と頭を下げてキョウさんに言った。
「改めてお礼を言います 助けてくれて本当にありがとう」
「どういたしまして 元気になってほんとに良かった」
「今の俺は訳ありの一文無しですが、この御恩はかなむむっ!」
いきなり口を手で塞がれた。
「そんなの助けた時からわかってた事だし、自慢じゃないけど私お金にも時間にも余裕があるの だから気にせず甘えてもらって大丈夫よ」
美人で優しくて金持ち・・・
生前では全く縁の無かったタイプで正直どう対応して良いか大変困るはずなのに、なぜかキョウさんにはそういう壁と言うか、距離みたいな物が最初から感じられないのがとても不思議だった。
「では遠慮なく甘えさせていただきます!」
「どうぞ!」
俺の言葉に満面の笑みを浮かべるキョウさんを人として(エルフとして?)心から大好きになった。
「あ、せっかく起きたならご飯食べてみる?」
そう言われて自分、と言うか、ウルの体が空腹状態かもと考えた瞬間、何かとんでもない怪物の呻き声のような音が腹の方から鳴り響き、しばらく笑いがとまらなかった。
「で? セイはこれからどうしたいの?」
テーブルの向かいの席に座ったキョウさんがパンをつまみながら聞いて来る。
キョウさんの用意してくれた食事は、多分小麦っぽい植物の硬めのパンと、大麦っぽい植物のお粥の様な物で、久々の食事なのでゆっくり食べるよう言われた。
俺はなるべくがっつかないようゆっくり粥をすすっていた手を止め、
「俺としては当面傭兵か冒険者を・・・」
と答えたとたん、
「えー? 意外! ケンカもした事ないのに大丈夫?」
ズバリ言い切られて正直焦ってしまった。
「あ、でもセイの中の同じ魂を持つ人は強そうね」
ど、どこまで見えているのか・・・
キョウさんは、そういうことなら、と言いながら、ポケットから親指位の大きさの水晶っぽい物を取り出し、それを額に当てながら呪文の様な、歌の様なモノを口にし始めた。
そして数秒後、水晶を俺に見せながら
「これは私の権限でセイの身分を保証する証の様な物よ 街に入る時に衛兵さんに見せるといいわ」
と言った。
俺は驚いた。
確かに今はウルではなくセイとしてここにいるし、もしかしたらウルには手配がかかっているかもしれないから、セイとしての身分証はかなり有り難い。
「・・・そ、そんな物まで作れるんですか? なんて言うか、ここまでしてもらうのは・・・」
と、モゴモゴしていると、
「いいの! そんなに大した事じゃないし、友達に何かしてあげたいって思っただけ!」
身分証魔法とか、さすが魔法文化の進んだ世界だと変な所に感心しながら、キョウさんには絶対迷惑かけない!と心に誓った。
ありがたさに涙が出そうになった(涙腺が緩みやすい年頃なんだよ)。
この後キョウさんから、明日街に帰るので一緒に行こうと言われ、俺としても街を見てみたいし各ギルドへの登録などあるのでぜひと返答し、取り敢えず体慣らしのため散歩に行きたいと言った。
するとキョウさんが、ちょっと待っててと言いながら席を立ち、帰って来た時にはエルフの細うでには似つかわしくない長剣と短剣を持っていた。
「森に入るなら必要でしょ?」
歩き出して数分経つが何日も寝ていたとは思えないほど快調で、改めて超回復スキルの有難みを感じていた。
ウルに言わせると未だ多少の違和感があるそうだが、俺にとっては生前でさえ感じた事のない身体の軽さに感動さえ覚えていた。
長剣を左腰に、短剣をベルトの背中側に装備して、飛んだり跳ねたり色々動いてみて邪魔にならないかとか試しながら歩いていると、突然ウルが
『森の方に何かいるぞ』
と言ってきた。
さらにこちらを狙っているようだと言われ、正直むちゃくちゃ緊張して来た。
街の近くだし大したのは出てこないとは言われたが、そもそも現代日本人だし、生き物を殺した事なんか無いもんだから剣を構えてみるも様にならない。
俗に言う屁っ放り腰だ。
ウルが
『あそこの茂みに隠れてる わかるか?』
と聞いて来た。
『いいか? この剣はまぁまぁの品質だが、さっきも言ったように毛皮は切れないからな 必ず刺すんだ』
道すがらウルが教えてくれたのだが、動物の毛皮や人が着てる服は意外な程丈夫で、慣れてる者ならともかくカミソリ並みに切れる刃物でもない限りスパッとは切れないそうだ。
そのかわり刺すのは有効なので、相手が丸裸で無い限りはまず刺せとの事だ。
ウルに言われるまますぐに刺せるよう剣を構え、恐る恐る茂みに近寄るが、正直どこに何が潜んでいるのかまだ見つけられず、思わず
「なぁウル、ホントにい・・・」
言いかけたその時、ザッと音を立てて黒い塊が襲って来た!
その殺気にびびってしまい思わず剣を突き出すと、ソイツの胸元の辺りに剣が吸い込まれて行くのが見えた。
しかし勢いは落ちる事なく、ソイツは鍔元まで剣が刺さったまま俺の首に噛みつこうとした。
咄嗟に避けようとした瞬間、周りの動きがゆっくりになり、自分の体が限りなく動きにくくなった。
『セイ! 超反応スキルが発動してるぞ!』
頭の中でウルが叫ぶが、目にする全てがスローモーションだわ、魔獣にのし掛かられて後ろに転びそうだわ、手も足も動かすのにやたらと力がいるわ、魔獣のナイフみたいな牙が近づいて来るのがスローモーションではっきり見えるわでそれどころじゃなかった。
「くぁwせdrftgyふじこlp!!」
自分でも意味不明の叫びを上げながら、渾身の力を振り絞って腕を伸ばし魔獣の口を遠ざけようとした。
魔獣の勢いそのまま俺もろとも後ろに転がってしまったが、全ての動きがゆっくりな事もあり、なんとか牙を避ける事はできた。
そして、剣を離して逃げるように立ち上がると、魔獣は血の泡を吐きながら瀕死の状態になっていた。
改めて見るとクマ寄りの犬って感じだ。
ただ牙や前足の爪は地球産のものより明らかにデカイが・・・
超反応スキルもいつのまにか解除され、魔獣を倒せたと思い剣を抜こうと近づいた瞬間ウルが
『待てっ! まだ・・・』
ほとんど動かなくなっていた魔獣が、不用意に伸ばした俺の左腕にガッツリ噛み付いていた。
こんなにびっくりした事は人生の中でも初めての事で、とにかくビクーンッ!と体がこわばって頭が真っ白になり、俺はほとんど失神しかけていた。
実際ちょっとの間気を失っていただろう。
いきなりウルの意識が膨れ上がり、半ば強引に体の主導権を取り戻したと思ったら、そのまま流れるように腰の短剣を逆手で抜き、魔獣の首を切断した!
ウルが主導権を持ったのはそんなに長い時間では無いようだが、意識がハッキリして来るにつれ主導権が戻り噛まれた左腕が痛み始めた。
『バカッ! 完全にトドメを刺せてない相手に近づくやつがあるか! 特に魔獣はあの位じゃ普通に生きてるぞ!』
ウルに思い切り叱られてしまった。
『そのケガを教訓にして次からは・・・』
気がつくと超回復スキルが発動し、腕の傷や魔獣にいつの間にか引っ掻かれた傷、転んだ際の擦り傷などがあっさり消えて行き、破れた服と返り血以外は出発した時と変わらない状態になった。
「いや〜ホントにごめん 死んじゃうかと思ったよ」
『あんな何処にでもいるザコに殺されるとか有り得ないんだが・・・ 取り敢えずもう何匹か狩って慣れるぞ』
ウルの言うまま森に入ろうとしたが、気になる事があったので聞いてみた。
倒した魔獣には金にはならないのかって事だ。
ゲームや小説などでは敵を倒すと金目の物や経験値が手に入ったりするが、そういうのは無いのかと聞いた所、確かに魔獣の中には肉が食用になる物や、毛皮や角や牙など売れる場合もあるが、さっき倒した犬の化け物はザコ過ぎて何の得にもならないとの事・・・
どうやらこの世界で生きるのは思った以上に厳しそうだ・・・
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