第5話

 恐る恐る目を開けると、嵐こそ無かったがそこはウルの精神世界そっくりの空間だった。


 そして、少し離れた所に光っているモノがあったので、お師匠様である事を期待しながら近づいてみると、そこには神々しく光輝きながらまるでインチキ宗教画の様に手を広げてドヤ顔でたたずんでいる駄女神ことイオスと、その前に片膝をつきかしこまってるウルがいた。


 俺は何かウルが騙されてるような気がして思わず、

「ちょっ! 何やってんのーっ!!」

 と怒り気味に問いただしながら二人に近づいた。


 横でオロオロしている使い魔の黒猫が可愛い。


「ウルー! そんなのに跪く事はないってーっ!」

 そう言いながらウルを立たせようとすると、ウルは一瞬何が起こったかわからない顔をしたが、すぐに

「おお、その声! あんたセイか! 意外とおっさ・・・ いやいや、こんな顔してたんだな!」


 ウルの気遣いに若干傷つきながらも、彼女が例の駄女神で、祈ってもご利益は無いと説明した。


 するとウルは、

「いやいや、こんな世界に連れて来られるとかやっぱり神様ではあるだろ それなら礼儀はちゃんとしないと!」

 との事。


 これを聞いて駄女神が、

「ウルとやら、ソナタが正しい セイもウルを見習うべきですよ」

 とかドヤ顔で言いながらホホホなんて笑いやがる・・・


「それに、神様なら色々・・・ 色々無かった事にしてくれるかも・・・」

 ウルが何かをひどく我慢しながら吐き出すように言った。


 確かに、あんな残酷で悪夢のような目に遭った場合、神に縋る以外にどうしようもないかもしれない・・・


 すると珍しくイオスが神妙な顔をしながら、

「け、敬虔なる我が信徒ウルよ、残念ながら過ぎ去った時を戻したり起きてしまった事象をやり直す事は、神の力を持ってしても容易な事ではないのです・・・」


 その言葉を聞いてウルが聞き返した。

「容易ではない? なら方法はあるのか?」

 そう突っ込まれるとは思って無かったようで、イオスがあからさまに焦った表情をした。

 やっぱり付け焼き刃な神の威厳なぞ長続きしないようだ。


「方法はあるんだな?」

 イオスの肩に手を回しつつ問いただす。


「まぁ! 神に向かってなんて態度ぅっ・・・」

 思わず力が入ってヘッドロックの形になり、イオスの顔色が変な色になって来たのをウルと使い魔が慌てて止める。

「ちょっ ごめっ ふざけてみただけだから!」


 首締められながらふざけるとか面倒くさいにも程があるわ!

「いいから早く!」

「ブツブツブツ・・・」

 イラっと来たのでどうせ死にゃしないんだろうと思い、さっきより本気で締めてみた。

「・・・・・・!!!」

 イオスが慌ててタップする。


 何で女神がタップとか知ってるのかちょっと不思議だったが、取り敢えず緩めてやった。


「ゼェゼェ・・・ 方法って言うほどのもんじゃ無いのよ

 一度死んでやり直すの。 ただ、生まれ変わる時間や場所は選べないからその辺をちょちょちょいっとあたくしの力で・・・」


「出来るのかっ?!」

 ウルが食い気味で聞く。


「い、いや、出来たらいいな〜って感じで・・・ 何か大きな代償とか無いと・・・ いや、あっても・・・ 私には無理かな〜」

 イオスが手を頭にやりながらテヘヘとか言っている。

 さすが長生きしてる神だけあって、いちいち古臭い。


「出来ないのか・・・」

 多少なりとも希望が持てそうだっただけに落胆の幅も大きく、ウルはガックリと項垂れてしまった。


 俺はついギロリと駄女神を睨みつけ、「で? そもそもなんの用で呼んだんだ?」

 と問い質した。


「そうそう、それなのよ! 危なく忘れて帰らせる所だったわ!」


 どうにもポンコツ過ぎる。

 師匠出て来てと本気で祈った。


「今回呼んだのは事のあらましや今後についてサクッと説明してあげようと思ってね!」


 なるほど、ちょうど聞いときたかった事だ。


「実はね、今のウルとセイの状態って、多重人格に近い感じなの で、本来はウルのほうが優勢なはずなんだけど、セイにお師匠様や私が加護って言うかなんて言うか・・・ ほら、色々付けてあげたじゃない? だから、今はちょっとセイの方が優勢になってるってわけ テヘペロー」


 未だかつてこんなにイラつくテヘペロを見たことがない・・・


「けどね、やっぱりセイって・・・ そのぅ・・・ なんて言うか・・・」

 何かモゴモゴ言いづらそうだから助け舟を出した。


「死んでるんだろ?」


「そうそれ! 死んでるの! ハッ!」


 ポンコツ女神がウルの顔に気付き微妙な空気が流れた。


 ウルが不思議そうな顔をしながら、

「死んでるって誰が? セイが? 俺が?」

 と聞いてくる。


「俺だよウル。 そこの駄女神のせいで俺は死んで、なぜかウルの体に乗り移ったんだ。」

 さすがにウルも驚いた顔になり、

「いや、そんな事・・・ けど目の前に生きてるし・・・」

 かなり混乱させてしまったようだ。

 まぁ現代日本ならともかく、ウル達の文明レベルで魂とか多重人格とか異世界転生とか言ってもなぁ・・・


 俺は若干慌てて、

「あーなんだ、その、あれだ 体は死んだけど心だけは生きててウルの体に間借りさせてもらってるんだ」

 と、分かり易くなるよう説明してみた。


「んんっ?・・・ よくわからないけど生きてるのは生きてるんだな? 良かった」


 まだウルの頭の中に疑問は残っているみたいだが、取り敢えずごまかせたようだ。

 人の心配してる場合じゃ無いってのに、ほんといい奴。


 取り敢えず駄女神が言うには、今は俺が優勢なのでメインの人格になっている事、代わろうと思えば代われる事、スキルは魂の螺旋以外はどちらでも使える事、俺の今後については現在検討中との事だそうだ。


 色々納得行かないが、お師匠様なら悪い様にはしないだろうと思いながら精神世界を後にした。


 しばらくしてから思い出したが、俺は最も肝心なウルの村が襲われた理由を聞くのを忘れていた・・・

 なんてマヌケなんだ・・・



 目を開けると、不思議な事にちゃんと布団に入っていたが、まだ薄暗かった。


 精神世界で過ごした感覚では昼過ぎていてもおかしくない位に感じたのだが、あちらとこちらでは時間の流れが違うらしい。

 某有名漫画の設定は正しかったんだなぁ・・・


 などと考えていると、どうやらウルも起きたようで、それもわかるようになったのがちょっと変な感覚だった。


『セイ、ちょっと話していいか?』

 今は俺が優勢なので、ウルは頭の中から話しかけて来る。


「あぁいいぞ」

 俺はヒソヒソ声で答えた。

 同じ体で状況も分かっているのに律儀な奴だ。


『セイの事や今後の事とかで気になる事があるんだが・・・』

 ウルが聞きたがったのは、俺のスキルや実力、その他どんな生い立ちなどで、今後どう生きて行くにせよ金を稼がないと飯も食えないし、働くにせよウルの特技は戦う事位で、そうなると傭兵や冒険者位しか働き口は無い。

 俺が何か金になるスキルとか持っていれば・・・って事だ。


 んー・・・ 生前読み漁っていた漫画などだと現代日本の技術を持ち込んであっさり大金持ちになったりするんだがなぁ・・・


 ググれば大抵の事が解る世界に住んでいた、ただの派遣社員だった俺の知識でいきなり役に立つモノなんか・・・


 無いなぁ・・・


 我ながら情け無い・・・


 取り敢えずウルにこの事を説明し、当面はウルと一緒に傭兵や冒険者をして行く方向となった。


『よし、そうと決まればセイよ、明るくなったらどんな戦い方になるか試すぞ!』

「そうだなぁ 正直ケンカすらした事ないし・・・」

 これを聞いてウルがうーんと唸った。


『今更だがセイ、大丈夫か?』

 心配そうにウルが聞いて来た。

「ん?何が?」

『いや、セイはよほど平和な世界から来たようだが、はっきり言ってこの世界は死や暴力がかなり身近だし・・・』


 情け無い事に、ウルにそう言われて本当に今更ながら怖くなって来てしまった。


「だ、大丈夫じゃないかも・・・」


 我ながら情け無い声を出してしまったが、ウルは気にせず、

『そうは言っても、ま、すぐ慣れるよ 俺もついてるし 明るくなって来たら試してみようぜ』

 と、頼もしい事を言ってくれた。

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