第4話
「あ、天井だ・・・」
目を開けると見覚えの無い天井が目に入り、俺は思わずつぶやいた。
ここはどうやらどこかの建物の中で、フカフカとまでは行かないが清潔なベッドに寝かされていた。
さっきまで師匠達といたとんでも無く騒がしくて荒れた酷い世界と比べると、天国と言っても過言じゃ無い。
俺は横になったまま周囲を見回した。
どうやら普通の民家のようで、木と石とモルタルっぽい素材で作られているのがメルヘンチックで可愛い。
窓はあるが小さくて、昼間なのに室内は薄暗く、ガラスの無い木製の格子が取り付けられている。
窓ガラスはまだ普及してないようだ。
師匠や駄女神が言っていたが、この世界の文明レベルは地球の中世辺りで長らく停滞しており、代わりに魔法が割と発達しているそうで、まさしく剣と魔法の世界そのままだそうだ。
ちなみに、俺やウルも魔法が使えるのか聞いた所、魔法は生まれ持った魔法スキルが必要で、ウルの一族には不思議と先祖代々魔法スキルの発現者が少ないらしく、ウルも使えないとの事。
まぁスキルも俺からすると魔法のようなものだが。
そして、この世界で苗字や家名を持つのは貴族だけらしいので、俺、
取り敢えず起きようと思い毛布をまくった途端、身体のあちこちで痛みが爆発し、思わず悲鳴を上げてしまった。
「いっっっつっ!!」
そして、自分の身体や発した声が自分の物では無い事にびっくりしてつい立ち上がってしまった。
「耳が?! いや、声が変だ! いてててて!!」
1人で大騒ぎしているとドアが開く気配がし、誰かが入って来た。
そして自分があちこちに巻かれた包帯以外何も身に着けてない事に改めて気付き、一瞬全身の痛みを忘れ毛布を頭から被った。
そして毛布に潜ったまま、
「助けていただきありがとうございます! 大変不躾ながら身に何も着けていないため、この様な状態で失礼します!」
マヌケな事この上ない。
「意外と元気なのね まだ起き上がれないって思ってた」
鈴を転がすような声とはまさにこの事だ。
今更格好のつけようが無いが、その可愛い声の主をどうしても確認したくなり、何とか最大限失礼の無いような状態になるよう痛みをこらえ座り直した。
そして、その女性を見て心底驚いた。
「エルフ!? なんて美人・・・」
思いがけず口から出ていた。
飾り気の無い露出の控えめなシンプルな服装に胸の辺りまで伸びたサラッサラの金髪、ちょっと気の強そうな、けど愛嬌溢れる薄い緑色の大きな目、透き通る様なきめの細かい白い肌、スラリとしたモデル体型、そして特徴的な長く伸びた耳などなど、昔アニメで見たエルフそのままだった。
多分かなりマヌケな顔をしていたに違いない。
口元を隠し、可笑しそうにクスクス笑う彼女に若干正気に戻り、
「ああ! いや、その、初対面なのに、なんて失礼な事を・・・」
「気にしないで 手当てしたのわたしだし」
その一言で、この美人にはなんと言うか、見た目とは裏腹な懐の深さと言うか、凄みと言うか、一生勝てない、とか一筋縄ではいかない、とか、そういう言葉が浮かんで来た。
「お名前は?」
しかし、聞いてくる仕草と声の可愛さといったら・・・
「あぁ、セイ?と言います?」
「何で疑問形?」
さらにクスクスと笑われるが、むしろ打ち解けられた感が増して楽しくなって来た。
「あ、いや、セイです、はい」
「そ」
「セイでいいのね あたしはキョウ 見ての通りエルフで、占い師をしてるの」
占い師と聞いて、なぜか現代日本の怪しげなやつが浮かんで来た。
一応ウルの身体に入る前に、月の駄女神(イオスというらしい)からスキルと一緒にこの世界の一般知識も脳にインストールしてもらったはずなのだがあのヤロウ・・・
「すみません、占い師とは?・・・」
念のため聞いてみる。
キョウさんはちょっと首を傾げ(美人がやるとこんなに破壊力があるのか!)、
「そうね わたしの場合は特別な精霊様の力をお借りして、普通の人には知ることの出来ない事を見たり聞いたりする事ができるの。まぁ部分的だけども」
結構当たるのよといたずらっぽく笑うのがまた可愛い。
「で、何日か前に、こっちに来たら新しい出会いがあるかもって精霊様が教えてくれて、やって来たら死にかけのあなたが流されて来たの ここまで運ぶの大変だったー」
「あの、キョウさんお一人で?」
「お一人で! すごい?」
ニコニコしながら得意げな顔をするが、一人で魔獣などが出る森の中に入り、死にかけで訳ありっぽい男性を川から引き上げ家まで運ぶとか、凄すぎてにわかには信じられないなぁ・・・
なんて思ったところ
「一人じゃ無理って顔してる・・・ こう見えても色んな魔法知ってるのよ? ちなみに、あなたを運ぶのに使ったのは身体強化と物体浮遊と存在隠蔽ね」
駄女神にインストールされた一般知識では通常一度に使える魔法は一つで、二つ同時に使える人ですらかなり少ないそうなのに、どうやら目の前の美しいお嬢さんは三つの魔法を同時使用できる天才らしい。
世の中にはいるんだなぁ、天に二物も三物も与えられてる、転生者以上のチートキャラってのが。
美人との他愛の無いおしゃべりをもっと堪能したかったが、不意に強烈な目眩がし、フラつくと同時に身体のあちこちから激しい痛みが襲って来て、自分が酷いケガを負っているのを改めて思い出した。
「いてててて・・・」
「そうそう! のんびりおしゃべりしてたけどセイは死にかけてたのよ! 見つけてから今日で5日間、ずっと意識が無かったんだから!」
キョウさんに、ほらほら寝てなさいと子供をあやす様に言われくすぐったい気持ちになりながらも、やはり身体は限界状態だったらしく、毛布をかけられた途端意識が飛んでいった。
次に意識が戻ったのはどうやら夜のようだった。
真っ暗闇のはずなのにちょっと日が暮れ始めたくらいの明るさに感じるのは、駄女神からもらった暗視スキルのおかげだろう。
駄女神にはその他にも色々スキルを貰った事を思い出した。
詫びの気持ちとか言ってたが、余った物を押し付ける雰囲気の方が強かった気がする(持ってけドロボーとか言ってたし・・・)。
そういえば、ついさっきまで見ていた夢の中で駄女神にスキルについてやかましく説明されていたので、頭の中で色々整理してみる。
まず師匠から授かったのは、魂の螺旋から何か(スキルや経験、時には人格など)を取り出せるスキルで、欲しい能力などをイメージしながら発動するとそれに応じた何かが使えるようになるという、若干運に左右されるが強力なものだ(お師匠様感謝です)。
そしてイオスからもらったのは(イオス様だろと声が聞こえた気がするが無視)、まず怪力スキルと超回復スキルで、怪力スキルは読んで字の如く発動している間筋力が上がり、超回復スキルは発動するとある程度キズが無くなるまでずっと回復し続けるという、どちらも使い勝手の良いものだ。
ただしこの二つは魔力をエネルギーに使うスキルだそうで、魔力が尽きたら発動しないとの事。
そもそも魔法が使えないのに魔力を持っているのか聞いたところ、ウルも俺も魔法が使えないだけで魔力は全ての生き物が保有しているらしく、しかも駄女神が、これもオマケと言いつつ保有量を増やしてくれたそうだ。
さらに暗視や隠密、壁登りなどをオマケとか言われつつもらった(泥棒になれとでも言うのか・・・)
ちなみにスキルには、とくに消費するものもなく常時発動しているスキルと、意識的に発動する事により効果が発揮されるが、スタミナや精神力、魔力など、何らかの消費が必要になるスキルがあるのだ。
とにかくまずは超回復スキルを発動してみた。
するとすぐに体全体が暖かくなり、あちこちにある傷口の辺りがむず痒くなって来た。
ボリボリと掻きたくなるのを我慢しながら、取り敢えず左腕の包帯を取ってみて驚いた。
あれだけ酷かった傷口がすっかり目立たなくなっているじゃないか!
他にもあちこちにあったケガが治っていたのを確認し、しかも魔力がまったく減って無い感じで、思ってた以上の性能に自分でもびっくりしてしまった(駄女神のドヤ顔が浮かんだ気がする・・・)。
他に変な所がないか確認していると、ある事に気付いた。
「わ、若返ってるなぁ・・・」
そりゃ十代後半のウルの体に入ったと頭では理解していたが、改めてウルの鍛え上げられ引き締まった身体を確認すると、今更ながら実感がわいて来てついニヤニヤしてしまった。
『気持ち悪い・・・』
不意に頭の中で声がした。
「ウ、ウル?! いつから目が覚めてた?!」
『あんたが目を覚ましたら俺も目が覚めた 自分が自分じゃ無くなってるわ、変にニヤニヤしてるわで、気持ち悪くて様子を見てたが・・・ これは一体どうなってるんだ?』
「うん、何て言うか・・・ ごめん」
俺は自分に起こった事、ウルの精神の中で体験した事、ウルの身体と精神が死に限りなく近くなった時、吸い込まれるようにウルの体に乗り移った事などを話した。
ウルはしばらく考えこんでいたが、
『俺は俺に戻れるのか?』
と聞いて来た。
「んー、今のところわからないとしか・・・ その辺聞いてないからなぁ・・・」
『おいおい、えらく間の抜けた女神さんだな』
「そうなんだよ ほんとに神なのか疑わしいね」
なんだかんだで根っこの所で同じ魂の持ち主なので、最初から互いにとても話しやすく感じた。
親友同士でもここまで心底打ち解けられる事は無いかも・・・
ただ、やはりウルはかなり弱っているようで、会話していてもどこか無気力だったり投げやりだったりで心配になった。
とにかく、ちょっとでも元気が出て欲しくてさらに駄女神の悪口を言おうとした瞬間、パァッと光が目の前に広がり思わず目を閉じた。
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