鏡って必要ですか?

@yuu001031

第1話

突然だが、考えてみて欲しい。

    生きるとはなんだろうか

今まで多くの人々が考えてきた問いだろう。

 かの有名なアリストテレスでさえ「生きる意味は幸せになること」とかいう、抽象的な言葉でしか表すことができていない。

 とかいうおれもその答えを知らないわけだが、生物学的に説明すると、人間・動物などが生命があり、活動出来る状態にあることを指すがもちろんそんな話ではない。

 こんなことを考えるときは大抵何か嫌なことがあったか、もしくは死を間近に感じた時か....。

 突然こんな書き出しになったのはおれが高校一年生だったときまで遡る必要がある。



「よう山ちゃん」

 メガネをかけた意欲だけ高いヤツがおれに声をかけた。

「なぁ、お前まで、はぁ、おれは山本篤だ」

 まったく、愛称は女子が言ってくれるから良いものなのに、全然わかってないな。

「いいじゃん、別に」ダメだコイツ。

「今日は早いんだな」話題を変えようか。

「まぁ、期末テストじゃん?少し勉強しなきゃな」

 このメガネはコジロウ。偏差値50そこそこのよくあるこの高校になぜ来ているのか本当に分からない。素直に聞いてみる。

「お前だけだと思うぞ?一年の1学期から本気出してんの」

「それはないだろ」いや、あるし。真面目か。

「なぁ、なんでここ来たんだ?」

「えー、そりゃここが奉仕活動たくさんしてるからだろ、ほら自分福祉士になりたいし」

さすがは真面目オブ真面目。無駄に考えて生きてるな。

 そうこうしてる内に学校へ着いたようだ。


やはり、クラスには明確なカースト制があるみたいだな。おれたち6軍(自称)は各自仲の良いクラスメイトと談笑して時間を潰した。


 担任の原田がくるなり皆席に着いた。


「はい、HR始めまーす」

 そう、ここまではいつも通りだった。

 委員長が起立と発するため口を開けた刹那

 聞いたことのないサイレンが教室中、いや、世界中に鳴り響いた。もちろんみんなのスマホからも鳴り、教室のテレビから情報が流れてきた。


 テレビの内容から汲み取れる情報を集め、おれなりに状況整理してみた。

 1.2056年6月21日、日本時間にして午前8時34分、未確認の巨体(生物かも不明)を青森、愛知、福岡、香川、の各一体の計4体を確認。自衛隊が見つけ、同時刻、緊急警報を国中で流した


 2.この未確認の巨体は世界中で目撃されており、確認されている数だけでもおそらく200は下らないだろうと考えられている


 3.この未確認の巨体は個体差があると思われるが、平均して全長50メートルはあるようだ


 テレビで流れてきた情報はざっくりこんな感じだろう。もしこんなものが都市部にでもきていたらなんてことなく大勢の人が死んでいただろう。

 大体の生徒は家族に連絡を入れ、無事を喜びあっている。おれも母親に連絡しておこう。しばらくそんな状況が続いて、担任も家族に連絡し終えたところで、職員が教室に来て担任は職員会議に駆り出された。

「山ちゃん、どうなると思う?」松下だ。

よくも悪くも思ったことを口にし、周りの目を気にしない結構な自由人だ。

「さぁな、ただしばらくは家に帰れないと思うぞ、いつどうやって巨体が出てくるか分からないわけだしな」

「たしかに、にしても本当に山ちゃん冷静だよな」

 お前こそそんな事言えてるだけ肝が据わってると思うが。

「慌てても状況は変わらないしな」

「ヒュー、女子は死ぬほど喚いてんのにな」

「ああいうのは男子に心配されたいだけだと思うぞ、本当は地震が起きたくらいにしか思ってないんじゃないか?」

「お前ほんっとストレートだな」

「見えたままに言ったんだが...」

 あ、担任帰ってきた。なんだろうか、表情が硬いな。

「さっき先生たちで話をしたんだがな、名古屋市に巨体が近づいているようだ。みんなご家族に建物から避難するよう伝えてくれないか?」なんでだ?自治体がやればいいだろ。

「今気にしたヤツもいるだろう、この件に自治体や警察は動いてくれない、いや、動けないんだ。あらゆる目撃情報が寄せられるが中にはデマやイタズラなどがあってな、下手に動くと被害が大きくなる可能性だってある。」

 なるほど、それでおれたちに。

 そこで少し頭の回る1軍の細井が手をあげて言う。

「その名古屋に来るってのもデマだったらどーするんですかー?」確かに、あり得なくもない話だ。おれは担任をみた。

「確かににそれは否めないな。だが都会と呼べる名古屋で建物から出てもすぐ入れるだろ?」雑だなぁ。

 ようは避難は自己責任ということ。

 情報を提供しているだけでもありがたいんだから、それ以上のことはしないと。

「だからお前たちから直接ご家族に連絡して欲しい。」

「っし!メールすっか!」コジロウが言った。だから意欲だけなんだよ。

「あのなぁ、避難させるのにはメールじゃなくて電話の方がいいだろ」

「あ、そうかそうか」

おれも母親に連絡するか、

「あ、もしもし、篤だけど、なんか名古屋に巨体来てるらしい建物から出て逃げた方がいいかも。崩れたら大変だからさ、うん、、わかった、じゃあ」よし、終わった終わった。

 おれはまだ知らなかったんだ。

 この5分後、地獄を見ることを。


 大体の生徒は連絡し終えたのか、不安を消すためなのか談笑し始めた。

 もちろん教室のテレビはつけっぱなしだ。

 突如、速報が来た。なんと世界中で、建物が崩壊し始め、世界規模だとおそらく1億人が亡くなったそうだ。さすがにおかしい。

 テロップが間違えたのかと思っていたがそうじゃないようだ。なら一体なぜ?

 途端、おれのケータイが鳴った。母親からだ。時事ネタ好きかよ。電話を取った。

「....」

「?何?おーい」

「あつ..し、つよく..生.きな..さいね」

「は?なに?どゆこと?」

    ドガーーン!!!!

 電話越しでもわかる異常な程の爆音。何かが崩れたように....。

 頭が理解するのに2秒かかった。

「は...?おい!!!!母さん!!!」

「..........」

 何秒、何分無言の電話が続いただろうか。

ただ、覚えているのはそのあと教室を出て走って名古屋駅まで行ったことだけ。

そして目に焼き付いて離れない、大切な人の亡骸がそこにあった。



 何時間経っただろう、気づいた時には瓦礫の下敷きになった母の顔が血液と夕日で真っ赤だった。

 そして一つの通知音で我に返る。

 変な仮面をつけた男が何か言っている。

「我々は純地球人だ。今から言うことをよく聞き、理解して、従って欲しい。」

「私の名はマグシューゼ、先程言ったように純地球人だ。君たちとは違う、ね。」

「結論から言おう、君たち全世界の自称人類には消えていただきたい。」

 は?何を言ってるんだコイツは。

「まだ分からないかい、君たちの世界はすべて、偶然にも生まれてしまったパラレルワールドなのだよ」

 は?なんだよこれ、テレビ局乗っ取ったのかよ。誰か止めろよ。

「パラレルワールドは知っているよね?つまり我々とほぼ同じ世界と言ってもいいんだよこの世界は。本来ならパラレルワールド自体存在を否定することはおろか、観測すらできないのだよ。」

 男は自慢げに手を広げて演説をする。

「しかーーし!我ら純地球人はこの世界を観測した。大発見もいいとこだよ。当初は干渉しなかったんだよね。」

 なんなんだこの男は、本当にこの話が本当なのか。ダメだ、冷静になれ。

「だけど、それがこっちの世界で知れ渡ってしまってね、そりゃあ、もう凄い議論を繰り広げたよ、この世界を資源として使うか、滅ぼすか、干渉しないか、でもやっぱり結論は同じなんだよね。」

 こっちと向こう側の世界?んだよそれ。それでこの世界を滅ぼす?アニメの設定でもそんなのないぞ。理解出来ない言葉と現実に目を背けたくなるがおれは必死に考えた。

「結局人ってのは未知の存在に恐怖するんですよねー、私は資源として活用しようと言ったんですがねぇ、みんな聞かないんですよ」

 さらに男は続けて恐ろしいことを言った。

「まず、なんでパラレルワールドができたか気になりません?普通なら並行世界は生まれやしませんよね。でも『言霊』って分かります?そう、我々純地球人がパラレルワールドを信じ続けることで生まれたんですよ。」

 男はニヤニヤしながら愉快に話した。

「今さっき1億人がそっちで死にましたよね?そのプロセスは言霊にあります。死んだ1億人に対して誰かが不幸なことを言ったのでしょう。例えば『建物が崩壊する』とかね」

 なんだって?じゃあそれが原因で母さんは、おれが...こ、ろしたのか...?

 胃から熱いものが込み上げてきてそのままおれは吐いた。冷や汗と嘔吐が止まらない中男はこう続ける。

「この世界と我々の世界は今言霊で繋がっている状態です。あなた方が巨体と名付けたアレは私たちが作った破壊兵器、『シヴァ』ですよ。この世界にシヴァを216体送りました。」

 あいにくもう興味がない。

「まぁ、シヴァと言っても少し強い程度ですが、この世界では言霊が絶対です。そんな中どうやってシヴァを倒すんですかねぇ。」

 どこかで烏が鳴きながら沢山の死体を啄み始めた。胃酸で喉が痛い。

「あ、余計な抵抗はしないでくださいね、私らも無駄は省きたいので。それではまた。」

 もうそいつのことばは聞こえなかった。



 2日後、国連で一時的に学校を避難所にすることが決定された。おれは次の日こそ何もできなかったものの、避難所には行こうと思い

学校へ向かった。やけに体育館が騒がしかったので回り道しようとした。

「おい」コジロウだ。正直、今友達と話したくない。

「なん..!」

 バキッッ!!と音がした。

 数瞬後、気づいたらおれは倒れていた。

「お前!!おまえのせいで!母さんが!!」

 コジロウは、泣いていた。そこで理解する。自分が昨日人を二人殺してしまったことを。口の痛みと情けなさで謝罪の言葉すら言えない。

 コジロウは大粒の涙で地面を濡らしながらつぶやいた。

「絶交だ。」

 おれは何も言えないまま、コジロウがゆっくり歩いていくのを見ていた。



 












 










 

















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鏡って必要ですか? @yuu001031

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ