第14話 旅費の確保
おっ、ランク不問の依頼がある。
俺はそれを手に取った。
オーガの討伐。
ドラゴンほどではないが、オーガは強敵だ。
3メートルを超える巨体。
はち切れそうな筋肉。
そして、魔法に耐性のある皮。
馬鹿力でタフだ。
だが、ターラなら撲殺できるだろう。
シンディの魔法も当たれば、少しはダメージになると思う。
俺の保険を使った攻撃でも仕留められるはずだ。
「この依頼を頼むぜ」
ミリーに依頼票を差し出す。
「この依頼、何人でも受けられる依頼で、報酬は活躍に応じてになっているけど良いの?」
「ああ、活躍すれば良いだけだ。査定は冒険者ギルドがやるんだろう。なら誤魔化されないはずだ」
「了承しているのなら良いわ。十日後にコンランド領の領都ギルドに集合よ。遅れないでね」
「ちょっと」
ターラが口を挟んで来た。
「なんだ?」
「まあ、いいわ」
「何か言いたい事があるなら言えよ」
「会いたくない人がいるのよ。でももう良いわ。過去は吹っ切ったから」
「納得してるなら良いさ」
「はい、この依頼票を持っていって。領主軍と合同の作戦だから揉め事は厳禁よ」
「分かってるよ」
さてと、目下やる事は金を稼ぐ事だ。
準備の為の保険を掛ける為には沢山の金が要る。
「さあさあ、並んで。マグナ教の祈祷済みのお守りだよ」
風邪に掛からないお守りを売る為にギルドの一室を借りた。
今回の保険はこれ。
――――――――――――――――――――
風邪プチキュア保険ロング
風邪に掛かるとプチキュアで何度でも治します。
保険料:銀貨1枚
保険タイプ:掛け捨て
保険対象:一人
保障期間:一年
払い戻し:プチキュア魔法を何度でも
――――――――――――――――――――
並んだ人から銀貨3枚を貰い。
お守りの葉っぱのスケルトンを渡して、保険を掛ける。
「ほえー、なんやこれ。めっちゃぼろいやん」
「言ったろ胴元だって。まあミリーの人脈ありきだけどな。こんな怪しいお守りは、ギルドに勤めている人間の紹介じゃなきゃ買わん」
「おまけにマグナ教や。どうやってお墨付きを得たんや」
「ミリーの人脈のおかげだな。葉っぱの束を祈祷してもらうのに銀貨30枚も使ったよ」
うん、儲けが少ないな。
百人ぐらいに売ったが儲けは銀貨70枚か。
生き返り1回の足しにもならない。
全然、足らないな。
お守りは口コミで効果が伝わったら金額を上げるつもりだ。
だが今はそれは出来ない。
ぱぱっと儲かるのが出来ないのかな。
回復魔法の保険を冒険者に売れれば良いのだが、クレーム処理がな。
怪我の割合に応じて回復魔法が掛かるが、これを理解させるのが難しい。
物品に掛ける保険も同様だ。
クレーム処理が出来ない。
お守りはクレームなど来ない。
お守りの効果があるなんてほとんど信じてないからだ。
そうだ。
酒だ。
――――――――――――――――――――
酒造リトライ保険
腐った場合は材料に戻します。
審査で成功率が90%を越えない場合は加入できません。
保険料:銀貨1枚
保険タイプ:掛け捨て
保険対象:掛け捨て一樽
保障期間:酒ができるまで
払い戻し:腐った場合材料に戻します
――――――――――――――――――――
これを使おう。
「ハンナ、酒を造るぞ」
「そんなん無茶や。前に失敗しとる」
「やり方が不味かったんだよ。とりあえず一樽分用意してみろ」
「うちは反対したからな」
酒の材料がそろった。
俺は材料の蒸かした小麦の団子をハンナに収納させた。
そして再び取り出した団子と材料を前に保険を掛けた。
審査で拒否された。
団子を替えてまた保険を掛ける。
何度か繰り返して、ついに審査が通る。
そして、その団子を材料に酒が出来た。
つまり堆肥箱の中では一つの物に対して一つの菌しか繁殖を許されていないのだ。
なんでこれが分かったかかというと。
酒が最初は成功したという事実だ。
酒は後から雑菌が入ると腐る。
菌が何種類も生息できるなら、理屈に合わない。
それが確定したのはパンだ。
見たところカビの種類が一つだった。
それはおかしい。
カビの菌は多数ある。
パンに一種類だけというのは、理屈に合わない。
さあ酒だ。
材料を混ぜてハンナに樽を収納してもらう。
再び出すと酒の甘い香りがする。
濾して口に含むと美味い酒だった。
後は成功した菌を取っておいて、堆肥箱の中で培養すればいいはずだ。
「こないな、簡単にできるやなんて」
「よし、もっと美味い酒の菌を探そう」
麦の団子を替えて極上の酒を作り出した。
極上の酒を酒屋に納品する。
楽々、金貨2枚を稼ぐ事が出来た。
これで交通費ともしもの時の金が捻出できた。
「よし準備は整った。出発だ」
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