ターラざまぁ編

第13話 ターラ婚約破棄される

Side:ターラ


 この風景は、ああ懐かしい。

 5年前のあの時、これは夢ね。

 庭の果実を採ろうとして、握りつぶしてしまった。

 異変に気付いて慌てて原因を探る。


「ステータス」


――――――――――――――――――――

名前:ターラリア・チェスター LV1


魔力:3

筋力:19×2

防御:16

知力:9

器用:15

瞬発:22


スキル:筋力ムキムキ LV1

――――――――――――――――――――


「お母さま、ターラリアは覚醒者になりました。褒めて下さい」

「素晴らしいですね。スキルはなんです。魔法に関係した能力でしょうね」

「それが筋力ムキムキです」

「なんて野蛮なスキルでしょう。他人にばれたら駄目よ。隠しなさい。いいですね」


 チェスター家は魔法使いで財を成した貴族だ。

 魔法使いこそ至高と信じる家で、今にして思えば馬鹿だったなと思う。


「ごきげんようラスター様。そのお方はどなたですか」


 戻った学園で婚約者のラスター様をお見かけした。

 ラスター様の隣にはピンクの髪の私の目で見ても可愛い女子が居る。


「ターラリアには関係ないだろう。僕の交友関係に口を挟むな」

「申し訳ございません」


 ラスター様と一緒にいた彼女はエルリーンという名前らしい。

 それから、ラスター様とエルリーンの噂は私の所に頻繁に飛び込んで来た。


 そうよ、この時はまだラスターを愛していたんだわ。

 私はうっぷんを晴らすように隠れて鍛錬をした。

 スキルが育てば見返してやれると思ったのね。

 愚かだったわ。


 レベルこそ上げなかったものの、スキルは瞬く間に成長。

 入っていた学園の最終学年になる頃には、スキルレベルは5になっていた。


 筋力は19×16で常人の16倍。

 日常生活にも支障が出るようになっていた。


 階段を上った踊り場で後ろから声を掛けられて、私が振り向くと誰かが背中からぶつかってきた。

 とっさに手を突き出して、軽く突き飛ばしてしまった。

 不味い。

 助けないと。

 更に手を伸ばすが届かない。

 スキルのせいもあり突き飛ばされた者は階段を転げ落ちた。


「ターラリア、君はなんて事をするんだ。エルリーンを亡き者にしようとするなんて」

「違う。違います」


「私見たわ。ターラリアが突き飛ばすところ。更に追い打ちしようと手を伸ばしていたわ」

「違う。あれは助けようと」


「ラスター・コンランドはターラリア・チェスターとの婚約を破棄する。殺人未遂で訴えるからそのつもりでいろ」


 私は裁判の日まで家で謹慎していた。

 訴えは何日か後にとりさげられた。

 理由なら分かる。

 私は無実だからだ。

 精神魔法の自白に掛かれば事態ははっきりする。


「ターラリア、勘当する。この家から出て行け」

「お父様、私は無実です」

「そんな世迷い言をこの期に及んで言うのか。被害者が告訴を取り下げたから良かったが。証人だって揃っているんだ。事実は動かせない」

「分かりました。出て行きます」


 私はあてもなく街を出て、商人がゴブリンの集団に襲われている現場に出くわした。

 ゴブリン達は私にも襲い掛かってきた。


「来ないで」


 突き出した拳はゴブリンを死体に変えた。

 なによ、簡単なのね。


 近くにあった子供の大きさほどの岩を掴むとゴブリンに殴り掛かった。

 次々にミンチになるゴブリン。


「助かりました。これはお礼の金貨1枚です」


 私は半ば放心状態で金貨を受け取った。

 お金もらっちゃった。

 私って魔獣殺すのが合っているのかな。

 これからは魔獣を狩って暮らそう。


 目が覚めた。

 ずいぶん長い夢を見た気がする。


「うなされていたのを起こせないで、すみません」

「いいのよ、シンディ。懐かしい顔も見れたし」


 私が宿の食堂に行くと、カケルが声を掛けて来た。


「ターラ、泣きそうな顔をしているぞ。何かあったか」

「昔の夢を見ていただけ」


 そう言えばラスターの事をもう何にも気にしていない事に気づいた。

 何時からでしょう。

 そうなったのは。

 そんなに昔じゃないわね。


 そうよ。

 カケルに出会ってからだわ。

 毎日がハプニングの連続で楽しくって飽きがこない。

 この人と何時までも一緒にいたいな。

 『男には甘い顔を見せたら駄目よ』と親しくなった宿屋の娘に言われた事がある。

 『どこまでもつけ込んでくるんだから』だったっけ。

 冷たい態度を取らないといけないのかな。


 何となくカケルの事は目で追ってしまう。

 この気持ちはなんなのかしら。

 なんとなく恥ずかしくって誰にも聞けないわ。

 しばらくこの気持ちは無視しておきましょう。


「どうした。顔が赤いぞ。おかしいな風邪は引かないはずなんだが」

「もう、じろじろ見ないで」


 何となく毎日が楽しい。

 今日も頑張れる気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る