第12話 ハンナ、パーティに加わる

 道中は何もなくてあくびが出るぐらいだった。

 途中、休憩の為に野営地に馬車を停める。


「うちが奴隷なのはしっとるやろ。それでな。助け出してほしいんや」


 ハンナが馬の世話をしているヤッコイの目を盗んでそう言ってきた。


「人間なら助けるべきね」

「助けたいと思ってすみません」


 二人はハンナに同情的だ。

 だが、犯罪奴隷っていう線もある。

 流石に殺人ってことはないだろうが、盗みだとかの可能性は十分ある。


「見たところ虐待されている訳ではないよな。何が不満なんだ」

「前に立ち寄った街の宿のベッドでも、『ここが気持ちええやろ。もっと強うしたろう』なんて言われまして。もうここからは口には出来まへん」


 そう言ってハンナは涙を流した。


「許せない」

「魔法を撃ち込みたいと思ってすいません」

「うーん、助けるって具体的にはどうするんだ」


「簡単や。金貨一枚貸してくれたらええ」


 うん、金貨1枚。

 安いと言えば安いな。

 でも金貨1枚貸したら、散財して助かったなんて言われたら堪らないな。


「どうして金貨1枚なんだ」

「うちの借金が金貨1枚なんや。それがあったら自由の身になれる」


「貸してあげようよ」

「貸してやってと言って、すみません」

「仕方ない。後で働いて返せよ」


 俺はハンナに金貨1枚を渡した。

 俺達は興味津々でハンナの後からついていった。


 ハンナはヤッコイの前に立ち、金貨を突き付けた。

 そして。


「ヤッコイ伯父さん、借金はチャラや。これでうちは自由の身や」

「お前達なんて事をしてくれたんだ。騙されたんだろうが、こうなったら仕方ない」


 なんか雲行きが怪しいぞ。


「俺達が騙されたって」

「なんて言われた」

「助けてほしいってそれからベッドで『ここが気持ちいいだろ。もっと強くしてやろう』ってヤッコイさんが言ったと」

「それは宿で肩が凝ったからマッサージしてほしいって言われたからだ。ハンナはな。俺の姪だぞ」


「姪を奴隷にしてたのか。何で」

「ハンナの両親、弟夫婦は商売で騙されて自殺同然に亡くなった。それで引き取った訳だが、こいつ商売で博打みたいな事をやったんだ」

「なんだってー」

「店の金にも手を付けて、身内だから犯罪者に出来なくて。しょうがないから奴隷にしたんだ。性根を入れ替えて金貨1枚稼いだら許してやろうと」

「ハンナ、金返せよ。今すぐだ」

「返済期限を設けなかったあんたが悪いんや。伯父さん、商売の約束は絶対や。金貨1枚稼いだで」


「こんな事になりそうだから、護衛はFランクにしたのに」

「ヤッコイさん、すいませんでした」

「ごめんなさい」

「すいません、すいません」


「起きてしまった事は仕方ない。ハンナ、お前どうする。言っておくが、手を付けた店の金の借金は、棒引きにはしないぞ」

「そら返す。金づるも見つかった事やし」


 もしかして俺って金づる認定されてる。


「冗談じゃない。俺は金なんか出さないぞ」

「うちの能力を聞いても言えるかいな」

「言ってみろ」


「うちのスキルはアイテムボックスの親戚や。冒険者にとっては垂涎の的やろ」

「ハンナ、お前」

「伯父さんはだまっといて。これはうちの商売や」

「そうか好きにしろ。もう言わん」


「どれぐらい物が入るんだ」


 俺は尋ねた。


「家一軒は確実やな」


 欲しいけど、どうなんだろ。


「アイテムボックスとはどう違うんだ」

「生き物が入るのと、時間が止まらんところやな。契約金を金貨100枚で手を打ったる」


 考えようによってはハンナの能力は便利だ。

 欲しいと思ってしまった。

 だが、実物を見るまでは何とも言えない。


「よし、とりあえず、パンを入れてみろ」

「ぐっ、ええやろ。こうなったらやけくそや。ほな、いくで」


 黒い穴が現れてハンナは俺から奪い取るようにパンを取ると投げ込んだ。


「さあ、出してみろ」


 黒い穴が再び現れてパンと一緒にスライムが現れた。


「こら、スラ吉。いつも言うとるやろ。勝手に食うなと」


 スライムからパンを取り返そうとして、ハンナはスライムに飲み込まれた。

 そして、服だけを溶かされすっぽんぽんに、慌ててハンナはスラ吉を収納した。


 スライムが生きているのだから。

 それなりに使えるな。

 生き物が入るのは嘘じゃなかったのか。


「きゃー、見んといて。うわーん」


 ハンナは馬車に隠れた。


「酷い目におうた。伯父さん服、売って。はよう」

「見て、このパンかびてる」


 ターラがパンを拾い上げてそう言った。

 えっ、どういう事。

 スライムに齧られてかびる事はないよな。


「ど・う・い・う・事・だ。話せ」


 俺は着替え終わったハンナにアイアンクローをかました。


「いたた。うちのスキルは堆肥箱や。もうええやろ。手を放してや」


 堆肥箱というとあっと言う間に腐るのか。

 雑菌がうようよいるのか。

 素材を入れたらもれなく腐りそうだ。

 だが、俺の保険スキルと組み合わせれば大丈夫だと思う。


「契約金はゼロでいいなら、雇ってやろう。しかし、農家垂涎の能力だな」

「そら言わんといて」


「農家も楽しいと思うがな。ちなみにどんなギャンブルやって店の金に手を付けた」

「うちのスキルで酒を仕込もうとしたんや。試しにやったら上手ういったさかい、大規模にやったら失敗した」


 そうなるよな。

 たまたま上手くいく事もあるだろうけど。


「伯父さんを楽にしたやりたかったんや。おとんの借金まで背負って苦しいのは分かっとった」

「それで契約金を吹っかけたのか」

「そうや」


 やり方を間違ったな。

 だが、更生してやり直すなら考えなくもない。


「どうだ。俺のスキルは金になるぞ。一緒にくるか」

「どんな能力や」

「簡単に言えば、胴元だな」

「そらえげつない。儲かるのが、確実やわ。ええやろ、一緒に行く」


 ハンナをパーティに加えて俺達は4人になった。

 しかし、今回のスキルもポンコツだな。

 俺がいないと冒険の役に立たない。

 運命の人なのか。

 違うと思いたい。

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