ハンナとの出会い編

第11話 護衛依頼

「フォレストウルフを逃がすなんて。まったく、こんな簡単な依頼を失敗しちゃってどうするの」


 ミリーの困惑顔。


「オーバーキルだったんだよ。もっと大物じゃないと俺達には合わない」

「天翔ける剣のパーティランクはなんなの?」


「そりゃFだけど」

「一番下のF、あなたの個人ランクがE。フォレストウルフは最適よ」


 ドラゴンとジェノサイドベアーはやったが、依頼ではないのでポイントは溜まらない。

 ポイントが溜まらないと昇格しないのだ。


「くそう、ランク不問の大物依頼が出ないかな」

「出る訳ないじゃない。フォレストウルフのキャンセルのペナルティで、護衛依頼をやりなさい。隣町までだから、危険はないわ」

「危険はあっても対処出来ると思う」


「大した自信だけど、この依頼をこなさないと次は受けさせないわよ。ランクFってのは降格はないけど除名はあるの」

「ちきしょう」


 皆が待っている酒場のテーブルに着いた。

 ターラとシンディの二人は朝食が食っている。

 俺も食おう。


「お姉さん、モーニング一丁」

「はいよ」


「二人とも食べながらでいいから聞いてくれ。護衛依頼をする事になった。隣町までだから戦闘はないと思う」

「ふぐっ」

「ターラ、飲み込んでから喋れよ」

「んぐっ。いやこのパーティは運が良いから戦闘はあるさ」

「そうかな。確かにあるかも、ドラゴンにジェノサイドベアーだもんな。よし、最低限の保険は掛けよう。生き返りを掛ける金はないから絶対に死ぬなよ」

「死なないよ」


「しぶとくてすみません」


 まあいいか。

 ターラには武器リペア魔法保険が9口あるから良いか。

 シンディには魔法流れ弾損害保険が82口余っているから十分だろう。


 あと二人にはこれだな。


――――――――――――――――――――

 傷害ヒール魔法保険

  怪我に対して一度だけヒール魔法が掛かります。


  保険料:銀貨1枚

  保険タイプ:掛け捨て

  保険対象:一人

  保障期間:一ヶ月

  払い戻し:ヒール魔法

――――――――――――――――――――


 ヒール魔法では浅い傷しか治らない。

 でもしょうがない。

 今回はなんとか黒字だな。


「シンディは魔法を5回までしか撃つなよ」


 金をバンバン溶かしてもらっては困る。


「すいません」


 朝食を終え、商人の待つ倉庫街に向かった。


「おっ、あれかな」


 馬車が一台と中年の男性と少女が一人積み込み作業をしている。


「護衛のカケルです」

「ターラだよ」

「シンディです。すみません」


「商人のヤッコイとそいつは奴隷のハンナだ」

「ハンナや。よろしゅう」


 ヤッコイはどこにでもいる中年親父だ。

 脂ぎった顔で少しはげた頭。

 垂れ目ぎみの目が人の好さそうな雰囲気を作り出している。


 ハンナは赤毛で美少女の部類に入るだろう。

 目つきは垂れ目でなんとなくヤッコイと似ている。

 言葉遣いに訛りがあるから同郷ではないだろう。

 他人の空似という奴か。


「積み込みを手伝ってやろうか」

「ほな。お願いするわ」


 ヤッコイではなくハンナがそう言った。

 ヤッコイは奴隷であるハンナを信頼しているんだな。

 そう言えばハンナには鞭の痕とかが無い。

 虐待はされていないようだ。


「言っておくが、ターラとシンディは手を出すなよ」

「保険掛けてないのに壊したら不味いのは分かってるわよ」

「力になれずにすみません」


 シンディを外したのは運搬魔法を魔法威力爆上げで使われたらどんな事故が起こるか分からないからだ。

 細い腕なので力仕事には期待が出来ない。


「どれからやればいい」

「こっちや」


 積み込みは無事終わり、出発となった。

 俺達は徒歩での移動だ。

 ハンナは馬車の荷台にヤッコイは御者台に座った。


 門を抜け、街道を俺達と馬車はゆっくりと進む。

 空は快晴だ。

 普通の小鳥達が群れで羽ばたいている。

 肉食の凶悪な魔獣は現れそうにないな。

 小鳥は強者の気配に敏感だ。

 そういうのが現れると反応示す。


 虫の声、小鳥のさえずりに耳をすませろそうベテランの冒険者が言っていた。

 雰囲気を察しろとも。

 使える物は使わないとな。

 雰囲気と言えばなんとなくハンナの事が気に掛かる。

 なんでだろ。

 運命の人なのかな。

 いやそういうじゃない。

 ヤッコイとハンナの関係は何か秘密の匂いがする。

 それが気になるんだ。

 性奴隷だったなんて落ちじゃないだろうな。

 子供がもう3人もいるんですなんて言われたらなんか考えてしまう。

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