第15話 ターラがざまぁする

「えー、お集まりの皆さん、依頼主から一言挨拶があります。心して聞くように」


 コンランド領のギルドの前で、ギルド職員の司会によって出陣式が始まった。

 イケメンな男が台に立つ。


「コンランド領の為に駆け付けてくれてありがとう。まずは領軍がオーガに当たる。冒険者の皆さんは止めをお願いしたい」

「まだあの女と別れてなかったのね」


 隣にいるターラがそう呟いた。

 ターラからは感情は読み取れない。


「止めはお願いしたいなんて言ってはいるけどよ。あれだよな手を出すなって言ってるよな」

「そうそう、うっかり止めを刺してしまいましたなんて後から言い訳しそうだ」


 冒険者達がそう言っている。

 できるなら金を渋りたいというのが領主の考えかな。


 俺達は行進する領軍の後を大人しくついていった。

 連れて行かれたのは村で、オーガはその村を占拠して居座っていた。


「お手並み拝見って所かな」

「矢を放て」


 戦いは領軍の弓の射撃から始まった。

 矢は雨のようにオーガに降り注ぐ。

 だが、オーガは何もしない。

 矢に撃たれるが一本も刺さらない。


「魔法隊、攻撃開始」


 火の玉の魔法が撃たれるが、皮膚で全て弾き返された。


「抜剣、突撃」


「うわー」

「ぎゃー」

「ぐがっ」


 オーガは人の何倍もある手で剣士達を薙ぎ払う。

 悲鳴が戦場に木霊する。

 傷を与えた者は居ない。


 ピンクの色の髪をした女が引き連れた一団が、負傷した剣士に回復魔法を掛ける。

 うーん、決定打がないな。

 オーガは腹が減ったのか、適当に動けなくなった兵士を選んで摘まむと、鎧を剥いで飲み込んだ。


 領軍に動揺が走る。

 顔色が悪い。


 掛かって行く剣士はいない。

 オーガは次々に動けなくなった者を平らげた。


「なにをぼやぼやしてる! 戦うんだ!」


 あのイケメンの男が怒鳴る。

 一言、冒険者の皆さまお願いしますと言えばいいのに。


 オーガは何を思ったか跳躍して、ピンク色の髪の女を掴んだ。

 彼女の足首を持って逆さに吊るす。


「誰かエルリーンを助けろ」


 誰も助けようとしない。

 エルリーンから液体が滝のように落ちる。

 うわ、漏らしやがった。


「えんがちょ」

「何それ」


 ターラが首をかしげる。


「おまじないかな」

「じゃ、私も。えんがちょ。ちょっと行ってくる」


 俺は気になったので、訳ありげなターラの後について行った。

 ターラがイケメンの前で立ち止まる。


「私が助けてあげても良いわよ」

「お前はターラリア。誰がお前なんかに」

「あらあら」


 見るとエルリーンと呼ばれた女は服をはぎ取られてすっぽんぽんに。

 オーガは今にも一飲みにしそうだ。

 その時、エルリーンがなんと脱糞した。

 うわっ。

 オーガもこれは意外だったのか顔をしかめた。

 はぎ取った服で糞を拭き始める。

 オーガの癖して意外に繊細な奴だな。


「どうするの」

「助けてくれ」

「金貨100枚よ」

「払うから早く助けてくれ」


 それを聞いたターラはにんまり笑うと、オーガに向かって駆け出していった。

 大槌を振りかぶり、オーガの脛に思いっきり叩きつけた。

 砕ける大槌の柄とオーガの脛。

 大槌の柄って鋼鉄で出来ているんだぜ。

 これを聞いた時は信じられなかった。

 曲がるのではなく砕けるって、どれだけ力が掛かっているんだよって話だ。


「グガァァァ」


 オーガが苦鳴を漏らして、エルリーンを放り出す。

 リペアの魔法が掛かり大槌の柄が修復される。

 そしてターラは大槌を振りかぶりオーガの股間に打ち付けた。

 オーガの絶叫が響き渡る。


 砕けた柄に再びリペアが掛かり、ターラはジャンプして大槌を額にジャストミート。

 オーガは倒れた。

 冒険者が止めを刺す為に、オーガへ群がる。


 ターラが俺達の元に帰って来た。


「ラスター、約束の金貨100枚忘れないでね」

「なんの事かな」

「そんな事言ってもいいのかな。私、勘当はされているけど、手紙ぐらい出せるわ。エルリーンが全裸で糞まみれと、ご令嬢達に知らせたらどうなるかしら」

「くっ、汚い奴が」

「汚いのはエルリーンよ。やだうんこ臭い。ここまで臭うわ。きっと魂がうんこ臭いのね」


「エルリーンさんを放っておいていいのかな」


 決着が着きそうにないので、俺はそう言ってしまった。


「ターラリア、覚えてろよ。エルリーン!」


 ラスターは駆け出して行った。

 終わったな。

 なんだかターラの気が晴れたようだ。

 暗い所のない彼女だが屈託が無くなったような気がする。


 今回のパーティの収入は金貨200枚を超えた。

 ちなみにターラにはちゃんと別口で救助代の金貨100枚が送られてきた。

 上手くやったな。


 分け前の金は今回から一人が五分の一貰う事にした。

 余った五分の一を保険に当てる。

 今回はゾンビセットを3人に掛けた。

 これで怪我の心配はない。

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