第7話 風邪保険を売る
「よし、この依頼にしよう」
俺はフォレストウルフの依頼を掲示板から剥がした。
「よっしゃ腕が鳴るぜ」
「自信満々ですみません」
「ミリー、この依頼を受ける。処理してくれ」
「あの封印魔法を使って儲け話があるのよ」
「病人を治してくれって言うんだろ。却下だ」
保険スキルはあくまで損害が発生する前に掛けないといけない。
病人に掛けても無駄だ。
ミリーのは治まっていたところに、花の花粉を吸って病状が現れたからセーフだ。
「ちっ、マージンとってウハウハだと思ったのに」
「ちっちっちっ」
俺はミリーの前で指を振った。
「何よ」
「諦めるのはまだ早い。風邪に掛からなくなるおまじないがある。それを販売してみないか」
「そんなの無理よ。おまじないのおかげで風邪に掛からなかったってどう証明するの」
「ふっふっふっ、お守りを売れば良い。効力は一年だと言ってな。お守りを売る時におまじないをこそっと掛ける。これなら、おまじないの効力なんて気にしないだろう。お守りも最初は効果があるなんて信じないはずだ。だが、次第に効果を実感するさ」
「変態の癖によく頭が回る」
「誰が変態だ。健康に過ごせればお守りの効果。買った何人かが効果を実感して、口コミしてくれれば良い」
この儲け話に使うのはこの保険だ。
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風邪プチキュア保険ロング
風邪に掛かるとプチキュアで何度でも治します。
保険料:銀貨1枚
保険タイプ:掛け捨て
保険対象:一人
保障期間:一年
払い戻し:プチキュア魔法を何度でも
――――――――――――――――――――
この保険はとにかくお得だ。
効果もそれなりだが、とても良い。
何が良いかと言うとプチキュア自体は魔力が沢山必要な魔法ではない。
分類は生活魔法だ。
俺も使える。
だが、病原菌の種類をイメージして使わないと効果がない。
風邪の病原菌なんて何種類あるか分からないほどある。
使うのに技術が要る。
だから医者でもない者が使うのは魔力の無駄だ。
保険ではこの問題がクリアできる。
医者に掛かれば銀貨1枚は確実に取られるからお得だ。
「乗った。話に乗った。まずは冒険者に声を掛けてみるわ。お守りの値段はいくらにする?」
「お守りは木の葉っぱで良いやと思ったが、高級感が出ないな」
「任せて。伊達に受付嬢やってないわ。魔獣の事ならお任せよ。スライムを絞った液を薄めて葉っぱを漬けるの。するとあら不思議。葉っぱのスケルトンの完成よ」
なるほど、葉脈だけ残すのね。
小学生の頃にやった事がある。
たしか重曹で煮るんだったっけ。
この世界ではスライムの絞り汁か。
スライムの原価はほとんどゼロだし、葉っぱも安い。
「よし、お守りは銀貨3枚だ。ミリーの取り分が1枚で俺が2枚だ」
「いいわ、商談成立ね。まず私にそのおまじないをただで掛けなさい」
「なんで」
「馬鹿ね。風邪に掛からないお守りを売っている人間が、風邪に掛かったら可笑しいでしょうが」
「それもそうだな」
保険スキルで風邪プチキュア保険ロングにミリーを加入させた。
「ふっ、風邪に悩まされる事がもうないのね。この世の春よ天国だわ」
「大げさだな」
「受付を休むと罰金を取られるのよ。酷いと思わない」
いや、日給計算の給料なら、働いてなくて賃金が減るのは当たり前だろ。
「仕事が終わったら飲んだくれて、あられもない姿で寝てたりするからだ」
「ど、どうして知ってるのよ」
「他の受付嬢から聞いた」
「ぐぬぬ、どこのどいつよ。えげつないネガティブキャンペーンね。担当の冒険者を引き抜く工作だわ」
「ティアだよ。だけど喧嘩するなよ。男って馬鹿だからさ。だらしない恰好をたまにさらす女を好きになる奴もいる。そういう奴に言わせるときちっとして隙がないと息が詰まるんだって」
「需要があるのね。安心したわ」
「依頼を処理するのに何時までかかるんだよ」
ターラがしびれを切らして口を挟んだ。
「待ちくたびれてすみません」
「お詫びに一年間、二人が風邪を引かないようにしてやるよ」
俺に保険を掛けて、二人にも掛けてやった。
「依頼の処理できたわよ。気をつけていってらっしゃい」
よし、パーティの初依頼だ。
気張っていこう。
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