第5話 打ち上げ
「おう、これで最後だ」
「運搬ご苦労様。さあ、査定してくれ」
ギルドの職員がドラゴンの素材を前にして査定し始める。
商人が入れ代わり立ち代わり現れて素材を買い付けて行く。
夕方には素材は余すところなく綺麗に無くなった。
「カケル様、売却ありがどうございます。ギルドでの買い取り額は金貨307枚になりました」
「うはははっ、何か知らんが勝った気分だ」
だが、生命リバイブ魔法保険を使うとこんな金はすぐに溶ける。
だが、今日ぐらいはお大尽でいいだろう。
俺はギルドの酒場に行った。
そうだ、ステータスを見ないと。
――――――――――――――――――――
名前:カケル LV16
魔力:52
筋力:62
防御:55
知力:75
器用:79
瞬発:62
スキル:保険 LVMAX
――――――――――――――――――――
おー、4つ上がった。
そりゃドラゴンとやればこうなるか。
「マスター、金貨7枚分好きなだけ飲ませてやれ」
70万円分も飲めばこいつらも俺達を妬んだりしないだろう。
「おいお前ら、ドラゴン奇裸ーのおごりだぞ」
「よっ、太っ腹。さすがドラゴン奇裸ー」
なんかみんなのイントネーションが微妙に違う。
隅の方テーブルにはエリナとターラが雑談しながら待っている。
話が弾んでいるようだ。
「約束の分け前だ。一人金貨100枚」
「やった。これでしのげる」
「大事に使わせて頂きます」
「お姉さん、エールを」
「はいよ」
俺は銀貨1枚をテーブルに載っている皿の下に置いて注文した。
これはチップを渡す時のやり方だ。
さりげなく見えない所に置くというのがなんというか文化だな。
「忙しいので私は行くから」
そう言ってエリナは席を立った。
「そうだ、パーティ名を決めないと」
「何か良いのを考えてよ」
「そうだな。天翔ける剣なんてどうだ」
「良いわね」
「俺がリーダーな」
「えー。でも、リーダーってめんどくさそうだし。いいわ。譲ってあげる。ところで、私達の悪評が流れているみたい」
「へぇ、どんな」
「獲物を横取りしただの。妙な回復魔法を掛けてぼったくるだの。インチキを使ってドラゴンを倒しただのよ」
あー、大体当たっているな。
反論できない。
噂はリコ達が流したとみてほぼ間違いない。
やつら命を助けてやったのに何たる言い草だ。
証拠を掴んで直接文句を言ってやろうとも思ったが。
金持ち喧嘩せずだ。
今日の所は見逃してやろう。
「リック達の姿が見えないけどあいつらはどこだ」
見逃すつもりだが、少し気になった。
「葉っぱの姿が恥ずかしくて、ほとぼりが冷めるまで遠征するそうよ」
いい気味だ。
「しかし、何であんな所にドラゴンが居たんだろうな」
「誰かが卵を盗んだのだろうって噂よ」
「へぇ、リック達が絡んでいるのかな」
「そうじゃないの。そうでなければ、ドラゴンと普通の森で遭わないでしょう」
ターラが手に持っているフォークをぐにゃりと曲げた。
慌てて指でフォークを真っ直ぐにする。
「ターラ、頼むから俺とハグしようとか考えるなよ」
「そ、そんな事を考えた事はないわ」
慌てて否定するターラ。
「金が貯まったら存分にハグでも何でもできるようにしてやるぞ」
「ほんと。期待しちゃって良いの」
「ああ、もちろんだ」
「えへへっ」
ターラが妄想に入り始めた。
俺は料理を食べ、エールを飲んだ。
俺の腹が一杯になってもターラは笑っている。
そんなに嬉しいのか。
おっと俺に掛かっている傷害リフレクト魔法保険を解約しとかないと。
ターラが抱きついたら自動的に反撃してしまう。
「秘密結社ポロリネンスが盛んに活動しているらしい」
隣のテーブルの男の会話が聞こえてきた。
こんな酒場で噂されているようじゃ、秘密でも何でもないだろ。
それとも諜報がガバガバなのか。
「この街にも来るかな」
「来るだろう」
来るのかよ。
行動がバレバレじゃん。
「あれは美味しいからな」
あれっ、美味しい。
会話が繋がってない。
「名物ポロリネンス焼き。今からよだれが出そうだ」
えっ、秘密結社ポロリネンスって屋台なのかよ。
もしかして、チェーン店。
うわ、経営者の顔が見たくなったぞ。
「おい、ターラ。ポロリネンス焼きって知ってる?」
「はっ、何?」
「ポロリネンス焼きだよ」
「もちろん知ってるわ。溶いた小麦粉を型に入れて焼くの。真ん中の具は砂糖で煮たフルーツから、塩漬けした肉まで様々よ」
なるほど大判焼きみたいな物か。
しかし、何故に秘密結社。
インパクトのあるネーミングだというのは認めてもいいが。
ほんとうに何なんだ。
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