第2話 保険スキル覚醒

 宿で朝を迎えて、軽傷プチヒール魔法保険に入りたくてステータスを開いた。

 スキルの所を見る。


――――――――――――――――――――

スキル:保険 LV1 限界まで使用中

――――――――――――――――――――


 嫌な予感がする。

 保険と念じてみるも保険リストは現れない。

 レベル1では一つしか加入できないみたいだ。

 できないものは仕方ない。

 解除も出来ないって書いてあったしな。


 レベルが上がれば増える可能性もあると思う。


「なあ、スキルのレベルってどうやれば上がるんだ」


 リックに尋ねた。


「そんなのスキルを使いまくるしかないだろう」


 目の前が真っ暗になった。

 どうやら俺の保険スキルは無いも同然になったらしい。

 まあ、ゼロからの出発と思えばいいか。


 俺はそれから、パーティのお荷物にならないように努力した。

 現在のステータスがこうだ。


――――――――――――――――――――

名前:カケル LV12


魔力:49

筋力:58

防御:52

知力:44

器用:73

瞬発:58


スキル:保険 LV1 限界まで使用中

――――――――――――――――――――


 レベルが低いのは攻撃力が低くて、ダメージを与える機会が少ないからだ。

 蝶のように舞い蜂のように刺すのが俺のスタイルだ。


 今日はパーティがSランクに昇格した宴会だ。


「カケル、お前は首だ」

「えっ、俺が魔獣の気をそらして何度も窮地を救ったじゃないか。なあ、リコ」

「馬鹿な男ね。あなたは何時までたっても保険。その保険も意味がなくなったわ。私、リックと婚約したの」


 なんだって。

 俺は捨てられたって事か。

 そうか、異世界に来ても保険スキルがあったのは俺が保険だったからか。

 乾いた笑いがこみ上げてきた。


「装備は置いていけよ」


 俺はショックのあまり何がなんだか分からなくなった。

 部屋に閉じこもり、装備を受け取りに来たザイダルに放っておいて欲しくて素直に渡した。


 ベッドメイクに来た宿の従業員に酒を頼み飲んだくれて、お金を全て使い果たし宿を追い出された。


 ああ、そうだ。

 払い戻しがあるじゃないか。

 失恋をなかった事にしてくれるのだろう。

 ステータスを出す。

 払い戻し受け取りと念じる。


――――――――――――――――――――

 保険スキルはMAXになりました。

 運命の人との出会いがあります。

――――――――――――――――――――


 すっぱり彼女の事は諦めろという事なのか。

 ああ、いいさ。

 諦めてやる。


 保険リストと念じた。


――――――――――――――――――――

保険リスト:

 軽傷プチヒール魔法保険

 風邪プチキュア魔法保険

  ︙

 強敵必中必殺の一撃保険

 生き返りリバイブ魔法保険

――――――――――――――――――――


 数えきれないほどの保険がある。

 保険スキルの検証は後でだ。

 まずは生きていくために、薬草採取から始めよう。


 ギルドに行くと彼らはいなかった。

 会ったら決別の思いの丈をぶちまけたのに。


「振られ男さん」


 受付のミリーからそう呼ばれた。

 そうだよな。

 Sランク昇格の宴会の場で告げられたものな。

 知っている人間は多数いる。


「俺はカケルって言う名前がある」

「噂になっているわよ」

「そんな事は百も承知している。薬草採取の依頼票だ。早く処理してくれ」

「装備もなしに森に行ったら危ないと思うけどね」

「冒険者は自己責任」

「はい、依頼票。気をつけてね」


 森はうっそうとして魔獣がいかにも出てきそうだった。

 装備があればな。

 こんな近隣の森ぐらいソロでも楽勝なのに。

 いざとなったら俊足を駆使して逃げの一手だな。


 悪い時は重なるものだ。

 薬草が見つかってほっとしていたのが悪かったのか。

 オークと出会ってしまった。

 幸いオークは鈍足だから、逃げ切れるだろう。


 足を信じて、オークから逃げる。

 逃げる途中に大きな槌を背中に担いだ少女がいた。


「オークが来るぞ。逃げるんだ」

「もう、やんなっちゃうな。あんた、オークをなすりつけるのだから、責任を取りなさいよ」

「責任でも何でも取る。早く逃げよう」

「オークぐらい私に掛かればお茶の子さいさい。でもね、武器が壊れるのよ。あんた武器代を出しなさい」


 そんなお金はない。

 そうだ、保険スキルがあるじゃないか。


 武器リペア魔法保険と念じた。


――――――――――――――――――――

 武器リペア魔法保険

  武器が壊れると一度だけリペアの魔法がかかります。


  保険料:銀貨1枚

  保険タイプ:掛け捨て

  保険対象:武器一つ

  保障期間:一ヶ月

  払い戻し:リペア魔法

――――――――――――――――――――


「何も言わず、銀貨1枚貸してくれ」

「えー、責任を取るように言って。たかるの」

「時間がないんだ。そうだ。薬草を担保に貸してくれ」

「いいわよ。はい、銀貨1枚」


 武器リペア魔法保険と念じて、彼女が持っている槌を指定した。

 スキルが発動した時、ちょうどオークが追いついた。


「約束だかんね。武器代、払ってよ」


 彼女は背中の大槌を手に持ち、なんと片手でオークを薙ぎ払った。

 ミンチになるオーク。

 ガキっと鈍い音がして大槌の柄が砕けた。

 なんちゅう怪力。

 リペア一回で直るかな。


 自動的に大槌にリペアの魔法が掛かり元通りに。


「あんた、リペアの魔法が使えるの。私とパーティを組みなさいよ。そうすれば装備代が丸儲け」


 これが運命の出会いなのか。

 信じてみよう。


「俺はカケル」

「私はターラ。よろしくね」


 失恋保険の払い戻し初日にパーティ結成となった。

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