お金こそ力の保険スキルチート~二度も彼女に裏切られた俺は失恋保険の払い戻しで覚醒する。死には生命リバイブ魔法保険。敵わない敵には強敵必殺の一撃保険。俺は保険スキルで無双する~

喰寝丸太

始まりのざまぁ編

第1話 俺は保険

 悲しい、涙で前が見えない。

 俺は仕事帰りに恋人であるリコの浮気現場を目撃してしまった。

 いや、あれは何かの勘違いだ。

 週末のデートの終わりに俺はおずおずと切り出した。


「男とラブホテルに入っていくのを見たよ」

「いやだ。見てたの。しょうがない人ね」

「君にとって俺は何なんだ」

「そうね。あなたは保険」

「二股をかけていたのか」

「勘違いしないで、あなたは二番目。彼に何かあった時の保険よ」


 俺は訳もなくフラフラと道路に飛び出した。

 トラックが俺に突っ込んで来る。

 もう良いんだ。

 俺は跳ね飛ばされ、なんと後を追ってきたリコを巻き込んだ。

 不思議とざまぁみろという気持ちはなかった。

 無理心中するってこんな気持ちなのかな。


 意識が途絶え、目を覚ますとリコと二人して森の中に横たわっていた。

 ここはどこだ。

 何があったのだ。

 トラックに跳ねられたのに、体の痛い所はどこもない。


「起きろ」


 リコを揺さぶる。


「ここどこ」

「俺にも分からない」


 狼の遠吠えが聞こえる。


「さっきの保険の話だけど。ここに来る前に私、改心したのよ。あなたが一番。彼とも別れるって言おうとしてたの」


 そうなのか。

 なら、元通りだな。

 浮気の一つぐらい許したくはないが、許さないと。


「分かった信じるよ」


 ガサガサと藪をかき分ける音がする。


「怖い」

「俺が守ってやるよ」


「お前達なにやってるんだ。装備もせずにこんな所にいたら魔獣の餌食だぞ」


 森の奥から現れたのは皮鎧を着た4人組だった。

 リーダーらしき男が話し掛けてきた。


「分からないんだ。気がついたらここに居た」

「噂に聞く転移トラップかな」


 弓を持った男が訝しげに言った。


「ねえ、お金を払うから安全な所まで連れてってくれない」


 リコがそう言った。


「連れってってあげましょうよ」


 杖を持った女が気遣う素振りを見せた。


「そうだな。お金も貰えるって言ってるしな。俺はリーダーのリック。弓師はザイダル。女魔法使いはエリナ。無口な奴はドンク」


 魔法使いって言ったか。

 どうやら俺達は異世界に飛ばされたようだ。

 なぜか言葉は通じるのか分からないが、ありがたい。

 急いでバックボーンを作らないと。


「俺はカケル」

「私はリコよ」


「よろしくな。事情は街道に出てから聞くよ」


 おっかなびっくり森を進んで行く。

 街道にでるまで気が気でもなかったが、無事辿り着く事ができた。


「申し訳ないのだが、この国のお金は持ってない」

「いいよ異国のお金でも、好事家に高く売れるだろう」

「俺たちは異国の出だ。さっき話に出ていたけど転移トラップとやらに引っかかったらしい。国が違うと常識が違うから、そこは大目にみてほしい」


 リコが変な事を言い出さないか不安だったが、今のところ黙って話を聞いていた。


「ああ、いいぜ。国が違えば常識は異なるのが普通だからな」

「魔法ってどう使うんだ」

「何だ魔法の事をしらないのか。魔法使いは魔力が多い奴がなれる。魔力が低い奴は生活魔法ぐらいだな」

「魔力ってどうやって確認するんだ」

「おいおい、そんな常識も知らないのか。まあいい。ステータスって言うか、念じれば確認できる」

「ステータス」


――――――――――――――――――――

名前:カケル LV1


魔力:15

筋力:21

防御:17

知力:28

器用:30

瞬発:21


スキル:保険 LV1

――――――――――――――――――――


 出たな。

 異世界である事が確定したな。

 俺のスキルが保険。

 なんだリコに言われたからか。

 俺の心が自分は保険だと思ってしまったからか。

 まあいい。


 保険スキルを使うと念じればいいのか。

 念じたぞ。


――――――――――――――――――――

保険リスト:

 傷害ヒール魔法保険

 失恋保険

規約:

 故意に損害の状況を成立させた場合は払い戻しは行われません。

 解除を申し出ると特別な規定がない限り、その時点で契約は無効となります。

――――――――――――――――――――


 保険リストが出てきた。

 傷害ヒール魔法保険と念じてみる。


――――――――――――――――――――

 軽傷プチヒール魔法保険

  怪我に対して一度だけプチヒール魔法が掛かります。


  保険料:銅貨10枚

  保険タイプ:掛け捨て

  保険対象:一人

  保障期間:一ヶ月

  払い戻し:プチヒール

――――――――――――――――――――


 なるほど怪我を一回なかった事にしてくれるのか。


 ここでは怪我をする危険はないだろうから。

 失恋保険と念じた

 前に保険と言われた時に失恋を覚悟した。

 あのような目には遭いたくない。

 失恋をないことにしてくれるのなら。


――――――――――――――――――――

 失恋保険

  失恋すると、一度だけとっても良い払い戻しがあります。

  契約の解除はできません。


  保険料:銀貨1枚

  保険タイプ:掛け捨て

  保険対象:掛け捨てカケル専用

  保障期間:一生涯

  払い戻し:不明

――――――――――――――――――――


 払い戻し不明か。

 でも、なかったも同然にきっとしてくれるのだろう。

 銀貨1枚か。

 百円玉でどうかな。

 財布から百円玉を取り出し保険加入と念じる。

 百円玉が消えてどうやら保険に加入できたみたいだ。


「私、回復スキルがあるみたい」


 リコがそう自慢している。


「それは凄いな。覚醒者か。リーダー、この人を俺達のパーティに誘おうよ」

「悪い事は言わないから、俺たちのパーティに入れよ。そうしないとギルドでごろつきパーティに加入させられかねない」

「女の子が増えるのは歓迎よ」


「覚醒者ってのは何」

「スキルを持っている奴をそう呼ぶ。一般人の百倍は戦闘能力があると言われている」

「カケルは何のスキルだったの」


 俺は保険スキルだと言うのがなんとなく恥ずかしくなった。

 転移前にリコに言われてたのがまだ頭の中にあるからだ。


「スキルはなかった」

「そう、でも落ち込まないで。一緒にこのパーティに入りましょ」

「ああ、そうするよ」

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