第5話 ミルクバター
その各駅電車が過ぎると、2本続いて通勤快速が通る。
一本目の快速に乗っている、髪の毛量が若干薄い、いつもグレーのハーフコートを着ているのは、僕が小学校の時の、隣のクラスの担任の先生だった。
今は四つ隣の駅の小学校の、副校長をしているらしく、当時よりも歩き方が誇らしげに見える気がした。
2本の通勤快速の後には、高校生や大学生の満タンに詰まった、各駅電車が通る。
ほとんどの生徒が隣駅にある、幼稚園から大学まである俗に言うエスカレーター式の名門校の生徒達だった。
私立には、都立の小学校などに見られる、集団登校や下校が無い為、六車両ある車内の半分以上が、同じ学校に通っている生徒で埋め尽くされいている時間も少なく無い。
紺色の帽子に白のシャツ、サスペンダーで上げたズボン。車で送る家庭も多い中、一際目立つ、姿勢の良さで必死に手摺に捕まらずに立っている、小学生がいる。
家の裏にあるマンションの、6階の家の一人息子。
学校から帰ってくると、先ず初めに、宿題をし、終われば塾の予習をする。帰宅して、1時間後には駅前の塾に行き、2時間の授業を受け帰宅。帰宅後すぐに復習をして、風呂に入り、ご飯を食べ、明日の学校の復習をする。
人が言うほど裕福ではない家庭に生まれ、人が羨むほど幸せとは言えない家庭で育ち、金持ちには負けるなと育てられ、遊ぶ時間を押し殺し寝る時間も削り、それでもこれ以上頑張れと叱咤する言霊は、歯を食い縛って生きている彼には、羽をむしり取られた蝉が木によじ登り、再び飛ぶ為に鳴き叫ぶ、鳴き音に聞こえているのかもしれない。
彼の乗る電車が通り過ぎると、僕の大好きなピーナッツバターも口の中で余韻だけを残し、牛乳にすべてを飲み込まれる所だった。
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