第4話 始まりの終わり

 そんな時、入社間もない彼女と、偶然車内で隣同士になった。彼の乗り込んだ電車に、隣駅で乗った彼女は、おとなしめなスーツに包まれ、白桃のようにピンクがかった頬をしていた。

どこの誰が見ても、入社したてに見える彼女は、辺りを見回しながら、彼の隣りに座った。彼女が席に着くと、フワ~っとお風呂の蓋を開けた時に立ち上がる湯気のように、シャンプーの匂いが立ち込めた。その香りを嗅いだ彼が、故郷の桃を浮かべながら彼女の一挙手一投足に目をやったのは間違いないだろう。

 彼は通常ならばもう2本後の電車の先頭車両に乗っていた。途中の駅で待つ、彼の彼女と待ち合わせを兼ね、公認の中で出勤していたからだ。今日の彼の行動は気持の複雑さを表すかのように、いつもより30分早く起き、いつものペースで駅へと向かった。

 これが二人の初めての出会い。

この後、電車の中で、彼が彼女に打つメールが、彼の気持ちを表していたのだろう。


それから、何度も同じ時間、同じ車両で顔を合わす二人が、恋に落ち、当然のように破局を迎える。テレビドラマのように、画期的なハッピーエンドの恋など、電車の中でそう頻繁に起きるものではない。 

 その後何日かして、おとなし目のスーツの女性を、電車内で見かけることはなくなった。

そして、彼も以前のように、2本後の電車で姿を現すようになっていた。

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