第23話
事実を突きつけられ落胆している一名をおいて話は進んでいく。
「旦那様に先に動かれてしまいました。兵士がやって来るのに気づかれたのですね。イェディの村人がこのままでは何かしら責任を負わされない。それでは元の木阿弥になってしまいますから行動を起こしたと思いますが、自身を大切にされない行いはよろしくないと思います。だとしても、旦那様の本質を考えれば仕方がありません。時間と状況を頂いたおかげで一つの案を思いつきましたので実行に移そうかと思います。トウマ」
「運転が下手な僕に何か用?」
「…………」
相当落ち込んでいらっしゃった。
そんなトウマにぶっ飛ばされたままのホクトが地面に横になったまま声をかけた。
「落ち込むのは勿体ないじゃない? 手前たちが下手糞過ぎて死んでも運転させたくないと思ってるというのにご主人様はマンツーマンでトウマに手ほどきをしてくれると云っているのよ。こんな喜ばしい出来事はないと思うわ」
ところどころ毒を吐きながら人に転嫁しているのはどうなのだろう?
「おおっ! そっかあるじ様と、楽しみたのしみ」
乗せられやすい性格だった。
「それでお姉ちゃん。通信できる玩具を作ればいいんだっけ?」
気分を切り替えられたトウマは自動車の荷台を漁っている。
「造ってもらおうと思いましたがそれは使えないのでしょうか?」
「ん?」
転がっている二輪自動車に付いている通信機器をナンノは指しているようだ。
「なんだ、あるじゃん。壊れてるけどすぐに直せるよ。待ってて」
壊したのは貴女です。
「旦那様」
ナンノを見た。
「誠に勝手ながら発案させて頂きます。これから王都に向かいたいと思います」
え?
「遅かれ早かれこの決断はくださなければならなかったのです」
え? え?
「お姉ちゃん、接触不良だった。ほら、直ったよ」
え?
『こちら、本部。応答しろ』
沈黙を保っていた物体は音を鳴らし始めていた。
「お姉ちゃん、喋るときだけボタンを押して」
「ありがとうございます。トウマ」
トウマのそばに寄ったナンノは通信機器に線の繋がったマイクを手に取りボタンを押した。
「もしもし」
『あ? 女? 誰だ貴様は!』
「アナタにどれほどの対応ができるか知りませんがお願いしたいことがあります」
『我が軍の通信を無断で使用するとはただではおかんぞ! 解っているのか!』
「アスカを呼べますか?」
『あ、あ。き、貴様、どうして、その諱を。え、まさか、あ、アナタ様はナンノ様?』
「待ちます」
『しょ、少々、お待ちください』
通信機器で話していた相手はナンノを知っているようだった。彼女が口にした名前は誰のものなのだろう。二つの名前を知っていた彼は威厳を失って小間使いのようになっていた。数分待っていると応答があった。
『アナタは下がって。もしもし、ナンノなの?』
聞こえてきたのは女性の声だった。軍事機関にいるとは思えない、ましてや命令を下す権限など持ち合わせてはいないようなか弱い声色を持つ女性。けれども、誰も逆らえない芯を持った話しぶり。
「久しいですね」
ナンノが一言声にすると、歓喜極まった声がマイクから流れ込んでくる。
『ああ、その声はナンノ! ナンノ! 我が君ぃ! アナタの声が聴きたかった! 全く変わっていない! 変わるはずがない! ワタクシは嬉しい! アナタから声をかけてくれたことで胸がいっぱい! ずっと前から、アナタがワタクシの元を去ってからずぅっとぉ待っていた! ナンノナンノナンノ! 好きすきすき! ナンノナンノナンノ! 愛あいあい! ワタクシはアナタの物! どうかワタクシを呼んで! ワタクシの名前はアナタだけにしか呼ばせない!』
「気持ち悪いですよ」
『ああ、照れてる。いいわ。恥ずかしさがなくなったら呼んでね。それでいつワタクシのところへ帰ってくるの?』
「いまから向かおうと思いまして、連絡をしたのです」
『嬉しい。どうして、急に来てくる気になったの? あんなに来てくれなかったのに』
「いえ。周りで邪魔をされるのが鬱陶しくなったので、彼方を殺そうと思いまして」
『…………』
雑談の中にそっと刃が入った。
『懐かしい。昔からナンノは冗談が上手くなかった』
「ええ。昔は彼方と親友でしたね」
『…………』
昔話に花を咲かせる気は彼女には無いようだった。
「こちらの都合で彼方が邪魔になりました」
『…………』
「全てを終わらせなければなりません。彼方との出遭いから始まったのです。人殺しが賞賛される世界など認めてはならないのです」
『うん。ナンノ、ワタクシは解ってる。ナンノは汚い者ばかり見すぎた。だから、少し汚れちゃっただけなんだわ』
「…………」
『ちゃんと綺麗にするから待ってて。ナンノのためにまた世界を綺麗に洗うから。特にナンノの隣はワタクシの場所は念入りにしなくては』
ぞわり。
「…………」
『ナンノナンノナンノ。大丈夫安心してワタクシがちゃんと綺麗に戻してあげる。じゃね、ナンノ、アナタから来てくるの楽しみに待ってる』
会話は終わりナンノはこっちを見ると、安心させるよう微笑んだ。その微笑はあまりにも――。
「旦那様は私がお護りしますからご安心ください。そういえば村の者が食事だけでもしていって欲しいと云っていましたがどうされますか? お疲れになっているでしょうからごゆっくりされたらよいのではないでしょうか?」
あの一つ質問です。
「なんでしょう? 詳細はまた改めて説明させていただきますよ」
ちらりと機械をいじっている女性を見た。
デジャヴ? 似たような展開が前にもありましたよね?
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