第22話

 彼女は何を悩んでいるのかと思っていると、ふと気配が遠くからする。これはちょっとここへ来てもらうのはひち面倒なタイミングだ。あっちとしては早急に報告をしなければならないのだから根掘り葉掘り訊くに違いない。そんな相手に普通の対応できる人材がここにはいない。


 一歩踏み出してみる。


 王都、街、町、村には住民税がある。一律ではないけれど交通機関や医療機関などの公共施設が充実していれば税率は高くなり、村は一番税率が低い分色々と不便なところはあったとしても、個人の居住区を保証されるのを喜びとする人々は多くいた。


 もう一つの保証に居住区は治安維持のため近くの街や町から定期的に兵士が村を巡回することとなっているけれど、形に過ぎない。イェディのように何度も賊に襲われているのが形骸となっている実情だった。


 太陽が夕日に変わりそうなであたりは赤くなり始めていた。


「貴様! 両手はそのままだ! これは貴様がやったのか? 答えろ!」


 俺は巡回の兵士に銃を向けられていた。二輪自動車一台に兵士が二人。いまにも射殺さんとばかりの剣幕。何を言ったところで話を聞いてもらえる余裕はないようだ。もう一人は自動車に備え付けられている通信機器で連絡をとっているようだ。


「本部、本部。緊急事態発生! 巡回中不審人物を発見。性別は男、年齢はおそらく二十歳。長身痩躯に黄土色の皮服、鞄一つの身ぐるみで武器は持っていない模様。短髪で珍しい髪は黒。冒険者にしては異様な出で立ちで男は道端に立っており、その周辺にバラバラとなった何体もの人間の部位が散乱しています。身なり等からこのあたりを縄張りとしている賊の一味と思われますが殺害方法は不明。加えて氷の柱が地形を変化させるほど乱立しており遠目を確認できません。魔術ではあると思われますがこれほどの力は脅威です。現在男を捕らえ尋問中ですがあまりにも異質によりここでの処刑を見送り本部での精査と現場への応援を願います。本部応答ください!」

「貴様! 答えろ!」


 兵士の一人が報告した通りの光景が周りに広がっていた。夕日も相まって地面が赤く染まっていてなんとなく誤魔化せていると思えるはずもなく、当然のごとくバラバラ遺体の傍で俺は膝を揺らしてた。そんな姿を見て銃を構えていた兵士は少し冷静になったようだ。


 どっちにするべきか?


 捕まって逃げるか、このまま逃げるべきか。


「貴様は関係ないのか? 何を目撃した答え、ん? 何の音だ?」

「本部、本部。応答を――」


 ぶーん。


 左手には氷の柱が溶けきってはいなかった。そんな中どういう理屈か見慣れた自動車は氷の柱の上を走ってきたらしく軽快に落下しながら飛ぶと目の前の自動車へ吸い込まれるように突っ込んだ。二輪自動車と兵士二人の体重で衝撃は抑えられるはずもなく宙を舞う。自動車は円を描いてその場に停車する乱暴な着地をすると中から一人の女性が快活な笑みで出てきた。


「あるじ様! 待った?」

 待ち合わせはしてませんけど?

「ん? ほら、あるじ様。玩具が壊れてない! 僕手加減できたよ、凄いでしょ?」


 トウマが指差すほうには破損した二輪自動車と体の一部があらぬ方向に捻られた兵士が二人転がっている。けれども彼女のが云う通り死んではいないようで痙攣して存命しているようだ。あと、天井から飛ばされた見知ったど変態が転がっているのだけれどいいんですか?


 かちゃりと軽快に自動車の扉が開くと息も絶え絶えのセイホがこっちに手を伸ばしている。


「ぬ、し様の背中、に乗りたい」


 願望しか口にしない女性は置いといて反対側の扉からナンノが頭を抑えながら出てくると普段通りの佇まいで俺の前にやってきた。勝手な行動をして怒られるのかと思ったのだけれど、そうではないようだ。


「旦那様。運転をお願いします。トウマに運転させないでください。お疲れなのは解ります。ですがトウマの運転だけは運転だけは勘弁していただけないでしょうか?」


 凛々しいナンノの悲痛な懇願は初めて聞いたかもしれない。


 あ、トウマさん、トウマさん。

「どうしたの? あるじ様。僕の運転上手かったでしょ?」


 大きなお胸を揺らしながら走ってやってくる女性に伝えるのは心苦しいのだけれど嘘を伝えるのはもっと苦しい。


 俺が付き合うのでこれから運転練習しましょうね?

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