第21話
「お礼はこの模造本についての情報にしましょう。何か知っていることを話してください。妹たちが興味を持っているのです」
「あ、それに似たような物でしたら家にあったかと。フルタ、持ってきてくれるか?」
「解った」
「これは何なのですか?」
「いえ。詳しくは判らないのですが。ジブンが生まれたときの話を死んだ親父から聞いたのです。あるとき一人の旅人が村にやってきてその人が置いていったと聞きました」
「父さん。持ってきたよ」
「ああ、助かる。どうぞ女神様。男神様。これは差し上げますのでお受け取り下さい。ジブンたちには解読できない物なのでお気になさらずに。でも、その、これがお礼でいいのでしょうか?」
「ええ。旦那様が私が選んでいいとおっしゃいました。ホクト、二人で仲良くみなさい」
「はぁーい!」
自動車の天井からホクトはすらりと降りてきた。ナンノとはまた違ったなめかかわしい雰囲気をまとった彼女は村人の視線を集めている。返事をしたのはトウマだったけれど、人見知りな彼女は車内に隠れたままだった。
「ありがとう。ねぇね」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
ホクトは軽く笑みカイタから模造本を受け取る。
「ご主人様、ありがとう」
「あるじ様、ありがとう!」
自動車へ向かっていく後ろ姿は臀部が強調されている。ホクトが車内に入るのを見終わるとナンノは口を開いた。
「それで話は終わりなのですか?」
「……あぁ。これはこれで」
「聞いていますか?」
「ああ! すみません! その、いえ。話はまだありまして、その旅人が父親に告げた預言がありまして」
「預言ですか?」
「はい。そうです。その旅人、預言者は〝いつかここは村人の性格の良さが故に滅びを招く。だが、運がよければ黒髪の女神が現れ村を救う〟ジブンたちにはそれが女神様だと思ったのです」
「曖昧なそれは預言なのですか?」
「これはもう三十年以上前の話です。ですから、納得するには預言だと思わないと辻褄が」
「解りました。その預言者はどちらからやってきてどちらへ向かったのですか?」
「王都からやってきたと。それから南西に向かったと聞いています」
「そうですか。ここから北東の集落について何か知っていますか? 模造本はそこにあったのです」
「それも仄聞で申し訳ないのですがジブンが物心着く前には廃墟だったかと」
「なるほど」
「はい。ナンノ様」
え?
考え事をして片手を顎に当てていたナンノはカイタを見た。
「いまなんと云いましたか?」
「つい。あまりにも似ていらっしゃったので」
「何にですか?」
「女神像のお姿にです」
「はい?」
「ご存知ないのですか? 村にはありませんが王都には勿論。町にも建てられている女神の金像です」
「…………」
「セットと呼ばれた街がありまして、その街を崩壊させたのがそのナンノ様だといいます。崩壊させたとだけ言うと聞こえは悪いのですがセットは死者の街だと噂されていたのでした。ぞっとしますが、崩壊した街には遺体は遺体でも随分と前に死んでしまっていた遺体だけがあったそうです。事実そうだった街を支配していた死者の王は、軍勢を率いて世界を襲う前にたった一人の英雄に倒された。世界を救った女神、それがナンノ様です」
「…………」
「あの?」
「…………」
「女神様?」
「…………」
「あの、男神様、ジブンは何か気に障る発言をしたでしょうか?」
黙ってしまったナンノを気にしてカイタは訊いてきたのだけれど、当然首を横に振ってしまう頼りのない俺だった。
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