第20話

「あぁ」


 村人はナンノに見蕩れて声を漏らした。


 けれども、その笑みはすぐに止んで、村人に夢でも視ていたかのような気持ちだけを残していた。ナンノはちらりと自動車を見たのを俺は運よく見逃さなかった。


「旦那様」

 どうぞ報酬はナンノの好きにしてください。

「…………」


 居住まいを正してからの一途な声の彼女は云った。


「いつもいつもありがとうございます」


 そんな温かそうな雰囲気に水を差すごとく。


「女神様が畏まるほど。男神様は見た目以上に凄い人なんだ」

「「「!」」」


 安堵したのか子供の興味は別の方向に進んだ。


 その一言で運よく温厚だったナンノは即座に怒りを表した。


 あれ、これ、何もかも終わるんじゃね?

「旦那様、鏖ですね」

 え、ええ!

「え? め、女神……」

「私は旦那様を傷つける者は許しはしないのです」

「ご、ご、ごめんな……」

「駄目だよ、お兄ちゃん。男神様を悪く云ったら。お兄ちゃんだってみんなを悪く云われたら怒るでしょ? 親しいと思って礼儀を欠いたら駄目だよ」


 おびえている人々の中から一人だけ淡々と答えるのはクギミだった。少女はぱたぱた音をならしつつ俺のそばにやってきた。


「それに知ってるの。男神様がワタシの声を最初に聴いてくれたの。だから、きてくれたんだもんね。ね? 男神様」

 これこそご都合なのでは?

「よく解っていますね」

「はい。女神様っ」

 曲解しないで。


 ナンノはクギミと呼ばれた少女の発言で怒りを収めると冷徹な目で彼らに云った。


「旦那様を敬いなさい。このお方が許してくださるから彼方たちはこの選択肢を得た。私が救ったわけではありません。その本質はいまのように自分自身へ戻ってくるのをゆめゆめ忘れず。旦那様への感謝を絶やすことなかれ」

「ははっ」


 村人は地面に膝をついて頭を下げていた。人々には恐怖心が少し芽生えているようでナンノへではなく俺に対してなのが凄く気になったけれど、この状況を作り出した当人が満足そうなので何かを言う権利はないらしい。とういうか言えないよね。

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