第18話
「フルタ。口を出すんじゃない」
「父ちゃん。女神様の力をボクは見た。ちゃんとは説明できないけど、一瞬だった。一瞬であの屈強だった賊が。うげぇ」
フルタと呼ばれた少年は惨状を想起したのか軽く嗚咽した。カイタが下がらせようとしたけれど、少年は拒んだ。
「だ、大丈夫。それよりも女神様は凄い魔術士、なんだ。じゃなかったら、あんな強さは判らないしボクもクギミも賊に弄ばれてたと思う。女神様がいなかったら殺されてた」
「…………」
「女神様。ボクたちを助けてくれてありがとうございました」
凛々しくフルタは頭を下げると父親に視線を移した。
「父ちゃん。女神様に依頼しよう。賊はまだいる。じゃないとボクたちは」
「その心配はありません。賊は鏖にしました」
少年は簡潔に答えるナンノを見た。
「いや、賊は村を襲った奴らだけじゃなくて」
「鏖と言いましたよ。残りも邪魔でしたから遺体と一緒に掃除しました。信じられないならやってくるまで待っているか確認しにいけばいいでしょう」
あ、ちょっと確認してきます。
「旦那様そっちではありませんよ。知っているから真逆へ向かっていくのですね。そうですね、村を眺める限り被害はあっても運よく死者はいないとのこと。復興は勝手にできるでしょう。ならば」
ナンノに次の言葉を云わせないようにフルタは口を挟んだ。
「待ってくれ女神様。ボクたちはこんな状態で」
そんな息子を父親であるカイタは殴った。殴られたフルタは地面に手をついていた。
「ジブンたちの要望だけを当たり前にするんじゃない!」
空気が重くなったのを感じたのは皆同じだった。
「お、お兄ちゃん!」
「クギミはそこにいて」
フルタはクギミが近づくのを止めた。摩っている頬は赤く腫れている。カイタが加減をしているのが見て取れた。立ち上がったカイタは再び膝を付いた。
「息子が失礼しました。女神様たちの良心を利用するような発言をしようとして申し訳ありません。現状、ジブンたちのような魔術もレベルもない者たちは英雄などにはなれるはずもなく女神様に依頼をする余裕はありません。運よく我々は魔物から襲われはしないのですが今回のような事件はあって困窮していますのでお礼ができるかどうかも判らないところです。ですが、いまの我々にできる限りのことはさせていただきたいと……、女神様?」
ナンノは俺の裾を掴んだまま倒れている少年を見やった。
「ボクは村を護りたいだけなんだ。それだけなのに」
「…………」
悔しげに拳を握る彼にナンノは口を開いた。
「貴方は何故そんなにもこの村を救いたいのですか?」
フルタは見上げた。
「そんなの当たり前じゃないか。ここはボクが育った村だし父ちゃんや母ちゃんもいる。村のみんなも良い人ばかりなんだだから、あんなに強い女神様が救ってくれてもいいじゃないか」
少年はちらりと少女をみた。
「フルタ! 女神様に対して」
怒号するカイタをナンノは手で制した。
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