第17話

「やり方は真似できませんでしたが、旦那様ならこうされると思いました」

 なるほど。俺には心当たりがないので逃げさせてもらいますね。

「これから旦那様は村人を救いに行かれるのですね。承知しました。トウマ、セイホ、ホクト。この二人の村へ向かいます。旦那様、運転をお願いします」

 誰の心を視ているんですか?


 おそらく気絶してから寝てしまった二人を自動車に乗せ、男たちがやってきた方角へ走らせた。グレードアップする前の自動車の名前はすぽちゃんだったなぁ、と過去を振り返って現実逃避をしていると村に到着した。子供が必死に走った距離とはいえ車ではそんなに遠い距離ではない。村の入口に住人らしき男たちが十数人立っていて、自動車を見て驚いた顔をしている。トウマの自作の自動車だったし、変態が屋根に乗っているのも見た覚えはないだろう。自動車を停車させて下りると、ナンノが声を出した。


「子供たちの血縁者はいますか?」


 ナンノが少女を車内から抱き出すと二人の男女が走ってやってきた。次に少年を抱きかかえる前に二人の男女が願うようにしてやってくる。ナンノが抱き渡すと四人の大人たちは大粒の涙を流しながらお礼を口にしていた。


「お礼を伝えるのは私にではありません。旦那様に。旦那様?」


 俺は自然と下りてしまったけれど、後悔して車の影に隠れていた。トウマとセイホは賢い。車から降りずに隠れている。


「旦那様」

 がっちりと衣服を掴まれた。

「こっちです」

 止めてくださぁい。俺は関係ないですからぁ。

「全くシャイなんですから」


 抵抗も虚しく人々の前に引きずり出された俺は、衆人環視の中さも何かしたとして持ち上げられる。自身が努力した結果を評されるわけでもないのに、他者の力を自身で行使したなどと自慢ができるなんてホクトぐらいだろう。村人に頭を何度も下げられお礼を云われ続けられるのは罪悪感を募らせるだけだった。


 ナンノ、もういいでしょう?

「旦那様が私たちの感謝をいつまでたってもお受け取りにならないから、こうなるのです」

 いや、だから。

「あ、女神様」


 そんな中、助け舟の声色が一つ。聞き覚えのある声は泥まみれの少女のものだった。抱きかかえられていた少女は立とうとして片方にサンダルがないのに気づくのと同時にぽとり空から何かが落ちてくる。それは少女が履いている物と同じに見えた。自動車の天井にいるホクトがにやにやと笑っている。彼女のがやったのは明らかだった。


 少女はその光景を見て明るく笑みを浮かべた。


「わぁ。凄い、女神様ぁ!」

「いいえ。旦那様の力です」

「え、男神様?」

 違います。いまの仕業はホクトです。ナンノも見てたよね?

「そうです」

 どっち?

「二人が賊から村を助けてくれたんだね。ありがとうございます」

「正しなさい、旦那様が助けたのです」

「ありがとうございます。男神様」

 ずぎーん。


 そばにやってきた少女の健気な姿勢が心をえぐる。


「怪我人がいないかと旦那様はおっしゃています」

 言ってません。

「あの、女神様」

「私にではなく旦那様に」

 女神様、もう勘弁してほしいです。

「う、旦那様に名前を呼ばれないと。解りました。旦那様の代弁を私が行います」


 ナンノに声をかけてきた男はさっきの少年の父親らしかった。地面に膝を付き頭を下げる。


「男神様、女神様。改めて賊から村を息子を救っていただいたことをお礼申し上げます。おかげさまで村人に死者はおらず怪我人はいますが治療は終えております。村の名はイェディ。ジブンはカイタと申しましてここの村長をしております。状況は」

「昨夜の氷により村が弱っていたところに賊が攻めてきた。賊に人質を取られ村は降伏していたが助けを呼ぼうと少女が逃げ出す。賊が少女を追う。少女を追った賊に異変が起こり貴方の息子が連れて行かれた。そんなところでしょうか」

「は、はい。その通です。見ていたようにおっしゃられて驚いています。あの、魔術の力なのでしょうか?」

「私たちは魔術が使えません」

「そ、そうなのですか?」

「そんなのは嘘、だ。女神様は凄い魔術士だ」


 声の主は母親に抱かれていた村長の息子だった。気がついたらしく疲弊した表情のまま父親の隣にやってきてナンノを見上げた。

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