第11話
「公に聞かれても支障のないよう御方と呼んでいるようです。一人しかいませんが誰かが私たちを追うのを止めていたようですね。さて、セイホが逃したゴミが生きていて誰かに伝えたとして命令を変更するかしないか。過去を鑑みて相手の出方を伺っても徒労だと判断します。旦那様、言った手前から申し訳ありませんが私の努力ついてはいましばらくお待ちください」
ナンノは困った顔で顎に指を添えていた。
努力。
人の努力を否定するつもりはないけれど、彼女の強さの修行は十二分だ。断定してしまえるのはこんなに短い間柄でも伝わっている。しばらくとうかナンノに強さはもう大丈夫でこれ以上強くなってもらってはこっちが困るところだ。
追っ手がやってきたのは今回が例外で色々な不運が合致しなければ同じ事柄は起きないだろう。
うん。ナンノ、困らなくて大丈夫です。聴いてますか?
「あらら、ご主人様を逆に困らせて何をやってるの? ねぇねはいままで通りでいいのではないかしら」
艶美な声色が隣から聞こえてくる。見るといま川底から上がってきましたといわんばかりのずぶ濡れのホクトがいた。濡れたシャツが体に張り付いて色気増し増しだ。
顎に指を添えたままのナンノが訊いた。
「ホクト。貴女は何故ずぶ濡れなのですか?」
「勿論、川から上がって来たからよ」
事実だった。
「昨日、突然氷が降ってくるものだから全身で受け止めていたら埋まってしまってその際に服が泥だらけになったの。それで川で汚れを落としてきたところなのよ」
「…………」
「ねぇねは真面目過ぎるわ。良い加減ぐらいでいいのではないかしら? ご主人様は強くなっているのよ。崩壊する高所からセイホをおぶって無事で降りてくるぐらいわね」
この人一部始終見てましたね。
「旦那様が強くなっているのは承知しています。そちらに関しては何も問題はないのです。重要なのには私が尽くせているかという点です」
にやり、ホクトは笑みを浮かべ右手だけを腰に当てると自信たっぷりに云い切った。
「悩まなくて大丈夫。手前がご主人様に一番尽くせていないのだから、ドヤ」
なんという清々しさだろう。困り事がバカバカしく思える宣言だった。
ナンノは妹を見つめくすりと息を漏らすとハンカチを取り出してホクトに渡した。
「ありがとうございます、ホクト。そういうことにしておきましょう。風邪をひきますから顔ぐらいは拭いてください」
「あの、ねぇね。ちゃんと聞いてたの?」
「トウマ。朝食を作りたいのですが道具は見つかったでしょうか?」
「…………」
呆然としているホクトをよそにトウマへ話しかけてるナンノ。けれども、トウマからの反応は返ってこなかった。
「おや? トウマ?」
「お姉ちゃん! 来てきて! 変な物見つけた!」
遅れてやってきた反応は、何か不穏当な語呂が並んでいたので近寄りたくない。
「旦那様。行ってみましょう。トウマが何か見つけたようです。セイホ、そろそろ起きなさい。旦那様もお疲れになっているのですよ」
「はーい。ぬし様。自分の生太ももどう? いい感触?」
「ねぇねの優しさがあるからこそ、優しくされないときの興奮が堪らないのよね。いいわいいわいいわ。セイホもそう思うわよね?」
「姉上はいつも優しい。ぬし様。どうどう?」
「ギャップが堪らないわ。ご主人様の胸筋を枕にするのもいいけど、背筋を枕にするものいい。セイホにはそのほうが解りやすいかしら?」
「ぐりぐり。背筋の感触。解る」
「そうでしょう!」
変態会話は姉妹間でやってもらうとして。
あの、とりあえず、背中から降りてもらっていいですか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます