第8話

 怒涛に降り注ぐ氷の杭は地面を串刺しにしていく。刺さり切れなくなった家屋の柱ほどのそれは轟音を鳴らして転がり地面を均していた。音は巨大な鐘を転がした不快音。美しさはなくて鼓膜を破る痛み奔るそんな中。


「くぅぴぃくぅぴぃ」


 動きのない二名は眠りの中から出てくる様子はない。大胆に仰臥に寝ている者、反して行儀よくすやすやと寝ている者。寝たふりをしている気配はなかった。


「二人は一度寝たら起きないタイプ」

 タイプとかそういう状況じゃないのでは?

「ぬし様も寝てていいよ」

 眠れませんけど。

「お。自分を手伝う?」


 表情に変化が少ないけれど、嬉しさを隠せない声色だった。


 注視すればセイホの右手の指が小刻みに動いていた。周囲が氷の杭で埋め尽くされていく中、ここだけが無事なのは彼女が護ってくれているからなのだろう。


 気づけば騒音は止んでいた。周囲に気配はない。けれど、ふと空を見上げ意識すれば気づける距離に人影が二つ。


「そこ、か」


 セイホが呟くと同じぐらいに頭上を覆う氷の地面が落下してくるのが視認できた。


 え? 次から次へと、何これ?


 そんな素っ頓狂な感想を抱くしかないほど常識外の刹那を無視するように、


「練習れんしゅう」


 セイホは落ちてきた氷の地面を糸で空中に停止させた。


 両指から透明な線がうっすら視認できる。


「切って並べて盛り付けて」


 幼稚な歌を唄いながら真角な氷の板を切り出すと、丁寧に並べていく。分厚く丈夫な丁度五人並んで寝返りを打ってもびくともしない床は階段のように螺旋を描いて空に登っていく。


「ぬし様、一緒に登る?」


 沈黙を貫いて無視すると淋しそうな顔をしそうだった。


「お散歩」


 冷えた階段を一歩ずつ歩いて登っていく、夜空には煌々と光る満月があった。ずっと月を見ていたい。階段を登っているといっても踏みしめている床は透明で真下が綺麗に見えて滑り落ちたら先程まで降っていた氷の柱に埋め尽くされている地面に真っ逆さまだ。向かっているのが天国なのか、落ちてしまうのが地獄なのか。セイホといるのが安全なのか。


「これだったらトウマより上手?」

 何がです?

「調理」

 これは解体の部類です。

「見た目が綺麗」

 いや、うーん。


 月光に照らされた氷の階段を無邪気に登る女性はそれは美しかった。


「いぐがぁ、うがぁ」


 けれども、その純白さを破壊するように、


「うーん。失敗した。壊さないつもりだったのに。調理は難しい」


 葡萄酒色の軍服に身を包んだ男性は芋虫のように地面で必死にもがき、女性のほうは捩じ切られそうな両腕に支えられ滔々と唾液を垂れ流していた。


 はい、知ってました。

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