第7話

「たった五人を殺すのに準備をした経験はないな」

「喜んでいいの?」

「別にオマエの機嫌を取るためじゃねぇよ」

「知ってる」

「俺はいつだって御方のため」

「そこだけがアナタと共同できるところ。だから、今日まで我慢してきた」

「我慢ね?」

「そう」

「確認だ。キムラの首が発見されたのが兵器三号の危険領域だった。千年近くへらへら笑ってじっとしているだけだった三号の姿が消えたのと一致する。結局アレから何も情報を吐かせられなかった」

「ワタシは無理だと言った。アレに殺しても苦痛は通じなかったのよ。喜ばせてあげただけ。逆にどれほどの兵士が狂った? 少なくともあそこの鎖に繋ぐだけで数百人は死んだ。ワタシの大切だった部下も。勿体無い」

「どうせオマエが殺すだけだったろ?」

「ワタシたち英雄は許されてる」

「拷問の実験台にされるほうはたまらんな。話がそれた。キムラが残したメッセージにはナンノ様が現れたとあったな」

「『美しかった』、たったそれだけの走り書きで解るアナタたちは変よ」

「変だったのはキムラだ。アイツは二人を同等として扱っていた」

「命令だったからでしょ?」

「アイツは命令がなくともそうしたさ」

「ふん。それであの人の『彼女に手を出すな』の命令に背いてここへやってきた理由は?」

「オマエが頼んだだろう?」

「誘いをずっと拒んでたじゃない」

「似たような理由さ。ナンノ様への嫉妬だと云って欲しいのか?」

「解ってるなら確認しないで」

「へいへい。さて、そろそろいいだろう。雨は降らせてる。ここら周囲一帯の水に触れている無機物や生物は感知済みだ。間違いなく五人はテントの中。地面を潜って移動していなきゃな」

「バラバラに殺してやる。切断した部分から氷漬けにすればバラバラのまま死んでも死ななくても同じよ。重き、氷よ。敵をこごれ」

「全員死ぬとして。破損した部位を探すのに骨が折れるな。協力者を呼ぶか? 協力してくれそうなのはヤグチかガトウぐらい。オマエどっちに頼む?」

「ははは、はははっ!」

「狂ってな」

「ひひひ、ひひゃはっ!」

「まだ、続けるのか? 顔ぐらい隠しとけ」

「いいでしょ、嗤うぐらい。それよりも止めを刺すからここら一帯を潰せる量の分厚い水を出して」

「まだやるのか?」

「やるわ」

「氷が出せなくなるまでやるなよ。ただの八つ当たりだろ」

「悪い?」

「解かったよ。ちゃんと凍らせろよ。集まれ水よ。敵を沈めろ」

「いいわ。これが落ちたら痛快ね。氷結せよ、水よ。敵を潰せ。ははは!」

「終わったけど、顔を隠せよ。それでどっちにする?」

「どっち?」

「だから……え?」

「何よ?」

「いや、オマエ、両腕、どうした?」

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