第5話

「努力は認めましょう。しかし、作るだけ味を整えるだけでは料理は完成しないのです。トウマは手先が器用ですから見栄えは上手に仕上げられるでしょう。セイホは舌が肥えていますから上手な味付けができるのでしょう。本質というものは意図しなくても自然と全力で行い負荷をかけているものなのですが、本質から逸脱した部分は負荷がかからないため著しく熟練度が上がっていないようになってしまうのです。熟練度は見えませんが結果に反映されています。不得意な経験が一プラスされるとして得意な経験は五プラスされるようなイメージでしょうか。その結果がこのテーブルの料理ですね。


 身体が危機感を持つ実践経験ならば得意ではなくとも負荷は自然とかかって抵抗として熟練度は上がるのですがそうでなければ負荷をかけるのは意識しなくては困難であるのは仕方がないのです」


 セイホとトウマは地面に座っていて、ナンノは二人の前に立っていた。説教ではないけれど雰囲気はそれと同じで刻々と熟練度についての説明は続く。


「最近では旦那様を見るのが解りやすいでしょう。トウマは旦那様を頻繁に気絶させていましたね。ですがいまでは気絶はなくなりました。これは熟練度により攻撃を防御が上回った結果です。旦那様があざとい攻撃に対して鼻の下が伸びなくなったともいえます」

 最後の一言いりました?

「ゴミは魔術によりレベルの数値を強さとして見えるようにして価値を決めていますが、熟練度にはあまり関係のない話です。努力は都合よく見えません。ですが、続ければいつか見えます。焦らず続けていくのが賢明でしょう。私は二人の努力を見ていますからね」


 仲良し三姉妹は同じ顔で喜びを共有しているようだ。


「はい!」

「トウマ、何でしょう?」

「じゃ、セイホの見栄えが汚いままなのが可哀想だからできるだけ早く治すいい方法はないの?」

「とりあえず吊るす?」

 その云い方だとセイホ自身の見た目の話に聞こえます。

「解ってくれてるならぬし様を許す」

 なんで俺が許されてるの?

「お姉ちゃんはどうやって料理が上手くなったの?」

「全く。そこを考えるのも努力の一つですよ。ですが、いいでしょう。簡単です。彼方たちを想って作っていたのです」

「「わぁお」」

「想いには負荷と同じ効果があります。調理をする際に彼方たちに美味しく食べてもらいたい、綺麗に見てもらいたいそんな想いを込めて料理を完成させてました」

「ん? 完成させてた?」

「どうしましたか?」

「姉上、最初から料理上手かった?」

「いいえ」

「ん?」

「いまの二人と同じような物体でしたよ」

「ん?」

「できた物体はどうしてた?」

「捨ててた?」

「そんな勿体無いことしません。栄養はありますからきちんと彼方たちの体内に吸収させていました」

「うぎゃぁぁ!」

「姉上、酷い」

「何を云っているのですか? 彼方たちも旦那様に同じ仕打ちをしているではありませんか」

「「あ」」


 姉妹はここまで似るのだろうか。


「いいですか? 二人は旦那様に食べていただけるのです」

 俺が食べるという前提で話を進めてますよね?。

「旦那様を想うのは不得意ではないでしょう?」

「うん!」

「はい」

「これから旦那様が美味しく食べている姿を想像しながら気持ちを込めて作って食べてもらいなさい。私は自分で作った物を食べます」

 あれ? 良い話のようで悪い話じゃない? あれ? ナンノさりげなく食べない宣言してない? あれ? さりげなく酷くない? この前のことまだ怒ってる?

「あるじ様」

「ぬし様」

「「これからもよろしくお願いします」」

 え、いや、あ、まあ、はい。


 なんだかここで断ったら大変な未来になりそうだったのでとりあえず頷いてみた。


「さて、今日は獣の解体を見せる約束でしたから、ここで行いますよ。まずは殺す前に血抜きからです」

 うぷっ。勘弁してぇ。

「そういえば」


 とん、とトウマは手を叩いた。


「ホクトは?」

「あっ。狩場に忘れてきました」


 うん。まだ、俺の扱いは優しいほうらしい。

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