第4話
セプテムの東。そこには元々村があったようだ。随分と前に人が住まなくなったらしく家屋は倒壊したり、自重を支えられなくなった屋根が落下して残った柱が建っていたりしている。丈夫だった家屋は残ってるけれど、人工物には緑の自然が住み着き苔や草木、蔓や花が生えて人が再度やってくるのを拒んでいるように見えた。だとしても、俺たちはそんな場所で転々と生活しているのだけれど。
四人以外の人の声を聞いたのはいつ依頼だろう? ホクトに出会ったときが最期でそれから村人おろか道中の商人にすら会ってはいない。お金ってどうやって使うんだっけ?
「全然上達しない。何、これ?」
「それはこっちの台詞だ! 僕に訊くんじゃない」
「トウマが原因?」
「僕は何度も実演しただろう? セイホは何を観てたんだよ!」
これから大自然となる荒れ果てたその場所で場違いな格好だと誰もが口にしそうな二人が並んで調理をしていた。一人は巫女、一人はゴスロリの衣装に身を包んだ二人は相手を罵り合いながらも和気あいあいと調理に勤しんでいる。勤しんでいるのはいいのだけれど。
「あるじ様、これ見てよ。全然美味しそうじゃないでしょ? 何度セイホに見せても覚えないの」
そうですね、見た目も大事です。
場違いな二人と同じように頑丈なテーブルには食欲がそそられる料理が並べられ、その隣には全く食欲のそそられない料理とは思えない床に置いていたら廃村のオブジェとして機能しそうな黒い物体がある。
「ぬし様。酷い。自分の料理を物扱い。でも、事実」
見た目はあれですけど、味はいいですよね。
「うん、うん。ぬし様。よく食べてる」
「ああ。セイホ。あるじ様の前では良い子ぶってる。僕だけ悪者にするつもりだな」
「見た目が良くても味が駄目なのは駄目」
「僕の味付けはそんなに酷くないもん」
いいえ、トウマの味付けは酷い。
「あるじ様ぁ! 正直すぎる!」
見た目が良いけど、味の不味い料理。
見た目が不味いけど、味が良い料理。
二人が調理をするとこのようになる。ナンノから継承された調理法はどうねじ曲がったのか半物ずつしか継承されなかった。けれども、言い換えれば二つを一緒に食べるとナンノの料理のような気がすると信じていないと、食べられない。
慣れは怖い。随分と前だったら栄養を摂取すれば大丈夫だった体が一人の女性の料理を食べ続けた結果贅沢な体質へと改善されてしまった。
「いいよ。もう一回見せてあげるから覚えろよ」
「こっちの台詞」
うぷっ。
勤しむのはいいのですが、こっちの許容量が限界なんですよ。
二人で協力して一つの料理を作ればいいのでは?
「大丈夫大丈夫、ぬし樣」
「ファイト、ファイト!」
いや、頑張るとかそういう問題じゃなくてお腹破裂します。
椅子に座っていた俺はテーブルに倒れ込んだ。空腹に限界はないものの満腹に限界があるのだと今日知った。
どすん。
一人悶え苦しんでいると地面が揺れ視界が真っ暗に染まった。いまは夜が突然やってくるはずもない時間帯。現に見上げるまでもなく陽は射している。体を震わせながら理解した。目の前のそれは大きなおおきな家屋のサイズの野生の獣だった。それも虫の息だけどまだ生きている。
「旦那様。狩りを終えただいま戻りました」
獣の傍に慇懃に状況を説明してくれるメイドさんは汚れ一つなく潔白な姿で頭を下げると周囲を観察し云い合いを続けている二人に困った表情でため息を吐いた。
「それで二人は旦那様を困らせて何をやっているのですか?」
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