第3話

 四姉妹との出遭いから筋力トレーニングと実践訓練と呼ぶに等しい《ごっこ遊び》の二つに休息日を加えながら熟練度を上げる修行は続けられているけれど、俺に目に見えて変化はなかった。軍からの追っ手もないのに鬼ごっこで追いかけられる本末転倒な日々。


 まんまと口車に乗せられて平々凡々な生活を送れているような雰囲気だけで実際死に物狂いで逃げている今日この頃。


 なんで俺は逃げれないのだろう?

 うん、四人よりも弱いからです。


 自問自答を繰り返しながら俺以外が笑顔あふれるアットホームな地獄は彼女たちには恙ない憩いの場となっていた。


 けれども、大きく見た目は変化しなかったけれども、熟練度により大きな変化はある。それは気絶をしなくなったことた。


 破壊神トウマ。間違いなく俺を気絶させるスペシャリスト。何度ナンノに叱られても何故か巨乳を顔面に押し付け気絶させてくる乳力を持ったあざとい女性にも、俺は何度も死線をくぐらされた結果の変化。


 ありがたいと感謝すべきかきちんと指導すべきだったのか、判断に難しいところだった。


「旦那様、雑念を抱いていると怪我をしますよ」

 怪我って何? これは筋トレですよね?

「もう少しですよ。いま九千九百九十九。とりあえずあと一回です」

 とりあえずって何?

「いいなぁ、いいなぁ、いいなぁ。ご主人様、羨ましい、羨ましいぃわぉ! ねぇねを背中に乗せて腕立ていいなぁ。辛そうでいいなぁ」

「…………」

 …………。


 隣にいる変態ホクトは喘ぎ喜びに満ちた表情で、誰にも頼まれもしないのに自動車を背負って俺と同じ腕立て伏せをしていた。


 …………。

 俺の心を折りたいんですか? 折りますね、逃げますね。


「ほら、旦那様。隣のホクトは無視してあと一回ですよ。それとも重いのでしょうか。私が重いのでしょうか。私が一番軽いはずなのにやっぱり重いのでしょうか」

 違う意味で重い。


 体から滴り落ちていく汗が貴重と思える。全身に残っているエネルギィを絞り背中に集中させて地面すれすれから距離をとると背中が急に軽くなった。


「ぱちぱち。旦那様おめでとうございます。一万回達成ですよ」


 ふらつく背中を地面に押し付けるとナンノの表情がよく見えた。微笑んでいるけれど目頭に拭ったあとがある。


 ホントに泣いているじゃないですか? 嬉し涙ですよね?

「ああ! あるじ様がお姉ちゃんを泣かせてる。僕はそんなあるじ様に育てた覚えはないぞ。泣かせた回数分罰ゲームだ。な、セイホ」

 ごっこ遊びがしたいだけでしょ。

「頭が逝ってる? 姉上を泣かせた数ならトウマが上。ぬし様はっきり伝えて、トウマの胸の脂肪が一番重い真実。ジブンを軽くて乗せたくなる事実」

 それもやっぱり願望。

「こら、二人共。旦那様はお疲れになっています。あまりにもぎゃぁぎゃぁ云っていると旦那様にあそこで自動車に潰されのたくっている変態と同じ扱いにされてしまいますよ」

「「それはお断り」」

「ああぁ。最高の扱いぃぃ!」


 うん。早く逃げたい。

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