十九話 メインヒロインの登場

 「なるほどね…………それは、ちょっと悪いことしちゃったかな」

  

 申し訳なさそうに呟く吉原さん。

 突然吉原さんに話しかけられた俺は、聞かれるがままに先日のうやむやになってしまったことに話した。

 まさか吉原さんのほうから話しかけてくれるとは思ってもいなかったが、事情をまったく知らなかった彼女にとっては、少し気にかかる終わり方に感じられたのだろう。

 

 「あの、元はと言えば俺がやらかした結果だからあまり気にしなくてもいいよ。吉原さんを半ば巻き込む形にはなっちゃったわけだけど…………」

 顔を俯かせる吉原さんに俺は言い聞かせる。

 これ以上、吉原さんに迷惑をかけるわけにはいかない。自分が蒔いた種なのだ。その落とし前はつけねばなるまい。

 

 「え?そんなことないよ。むしろ私にも手伝わせて!」

 「え?」

 

 予想外の反応に俺は思わず聞き返した。

 「いや、でもっ」

 「うんうん。私、雅と阿久津君は何かあるな~ってずっと前から思ってたの!まさか幼馴染とは………これは絶対仲直りしないとだね!」

 

 「あ、う、そうだね。そうしたいのはやまやまだよ…………」

 圧が、圧がすごい。

 

 「だよね!だから私も一緒に手伝うよ!」

 両手を胸のあたりにあげて、ガッツポーズをとる吉原さんは俺の予想よりもかなり気合の入った様子で、いまさら断ることもできない状況だった。

 

 「じゃ、じゃあよろしくお願いします…………」

 「うん!よろしくだよ!」

 た、大変なことになったなぁ…………。

 

 ―――――――――***――――――――


 「どうしてこうなった…………」

 『いや、案外事態は好転しているのかもよ?』

 項垂れる俺に柊が励ます。

 

 確かに俺一人では出来る事の大きさに限界があるし、その点スクールカースト上位の吉原さんがいれば雅を呼び出して仲直りのひとつやふたつ、ちょちょいのちょいのお茶の子さいさいかもしれない。

 なんならかなりのイージーゲームだ。


 だけれど、この吉原さんと会話をするということ自体が蚤の心臓である俺にとっては既に負担のかかることなんですよ。はい。

 

 『それくらい、我慢しなよ。仲直りのためでしょ』

 『話を早く進めんか、ゲームに重要なのはストーリーだ』

 魔王が何か知ったような口を聞いてはいるが、気にしない。

 

 『ま、魔王の言う通りではあると思うよ。吉原さんとの会話を進めて内容を詰めていかないと、作戦の立てようがないからね』

 柊が言うなら仕方ないか。

 『おい』

魔王がかなり不機嫌そうに呟く。

 

 「あの、吉原さん。俺女子と話したことなんてないし、こういう時どうやって仲直りすればいいのかわからないんだけど、どうすればいいのかな?」

 

 「ん?今話してるじゃん」

 「いや、それはそうなんだけど…………」

 違う、そうじゃない。

 俺が言った「女子と話したことがない」はそういうことをいったわけではない。

 

 「何、それってわたしが女の子ですらないってこと!?」

 「いやっ、そういうことじゃないよ!吉原さんはちゃんと女の子なんだけど、あまり話したことがないってことで…………」

 

 俺が彼女の言葉におどおどと否定すると、彼女はくすくすと笑う。

 

 「冗談だよ。そうだね、一番手っ取り早いのは面と向かって話すことなんだけど、ハードルが高いんならプレゼントとかと一緒に渡すのが良いんじゃないかな?」

 「プレゼント…………」


 彼女の言葉を咀嚼しながら、俺は思案を巡らせる。

 確かにその案はなかった。

 手ぶらで雅と話をするよりかは、その方が話しはじめる際の障害は限りなく少なくて済むだろう。

 だが、プレゼントか…………。

 

 「あいつが気に入りそうなものなんて、何だろうなぁ」

 俺がぼそっと呟いた独り言に吉原さんは目を光らせた。

 

 「え?なになになに、あいつ呼ばわりなの~、やっぱ幼馴染って良いねぇ~」

 ずいずいっと、距離を詰めながらにやにやとした視線を向けてくる彼女はどこかおじさんじみた感じがした。

 

 「いや、ちょっと近いって!」

 「えー、やっぱり雅と阿久津君って幼馴染以上の何かを感じるよ?うーん…………」

 

 腕組をしながら、大袈裟に悩むポーズをとる吉原さん。

 「雅とはほんとなんもないんだよ?前に話したのだって久しぶりだったし」

 「うんうん、二人の間には何か深い絆があるんだね」

 中々誤解が解けないぞ。なんなら、さらに明後日の方向に勘違いされてる気がする。


 「思い立ったが吉日!プレゼントを買いに行こう!今日の放課後で良い?」

 え、急じゃね。

 「よ、吉原さんはそれで大丈夫なの!?ほら、部活とか」

 「大丈夫、大丈夫!月曜は部活も休みだから、じゃあHR終わった正門前に集合ね!」

 

 なんて行動力なんだ。これがカーストトップの普通なのだろうか。

 それにしても――――――


 「なんか、吉原さん…………楽しんできてない?」

 「え!?そんなことないよ!?」

 

 

 

 

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ラノベ作家の俺が出会ったのは美少女ヒロインではなく強面魔王とイケメン野郎のダブル主人公だった件 らぶらら @raburara

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