十八話 頼みの綱

 空は晴れていた。

 雲一つない快晴。


 太陽は活動をはじめ、その力を存分に発揮している。

 それに比べて…………

 

 「あぁ…………空はあんなにも穏やかなのに」

 「こら、現実逃避するな」

 柊の言葉尻目に窓からの景色に呆ける新。

 

 「もう終わった。二日もあったのに何もできなかった俺は生きる資格を失ったモルモットなんだ」

 ありがとうお母さん。俺を今まで育ててくれて。

 

 「月曜日の朝から人生を悲観しないの。別に死ぬわけじゃないんだから」

 

 柊はそう言って、布団から出ようとしない俺の足を掴んで、布団をまくり上げた。

 

 「ほら、学校に行くよっ」

 お前は俺のお母さんか。

  

 「嫌だ。今日は絶対学校行かない!寝てていいって言うまで布団から出ないっ!」

 

 「面倒くさい育ち方してるな、この人…………」

 若干、というかかなりな勢いで柊が引いているが気にしない。

 

 「ほら、今出てこないと魔王の魔法でこの部屋にあるラノベ全部燃やすことになるから」

 

 「なんてことをっ!王は御乱心かッ!」

 

 勢いよく布団より飛び出した新は、即座に臨戦態勢に入った。

 

 「そうなることを想定してやったことなのに、何故か僕はものすごく虚しいよ」

 

 「大丈夫だ少年。それが大人になることだ」

 「君と大した年は離れてないよ」

 そこで、はー、と嘆息つくと。

 

 「励まし程度に言っとくけど。人生の半分の注意は自意識過剰によるものだから。あまり気負わないで早く学校行ってごらんよ」

 

 「なんだよ、その台詞。柊でも自意識過剰なことってあるのか」

 「そりゃもちろん。なんせ僕はイケメンだからね」

 

 「うわー…………」

 「本気で引かれるとさしものの僕も少し傷つくよ?」 


 「よーし、学校行こうかなー」

 「ちょっと、待って!今の言葉はどうには聞かなかったことにはならないかい!?」

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 いつも通りの朝の風景も、いつも通りの電車内も、すべてがいつもと何ら変わらないもので、新の胸中も学校に着く直前まではいつもと同じの落ち着きを保っていた。

 

 保っていた…………!!!

 

 「がくがくがくがくがくがくがくがくがくがくがくがくがく…………」

 

 『毎度、よく緊張できるね』

 半ば呆れ気味で応える柊。

 『いい加減、見飽きたな』

 辛辣な魔王。

 二人の声が頭の中で聞こえる。

 

 「何度繰り返しても治らねえよ。陰キャ舐めんな」

 『なあ、なぜ我がそのようなことをいわれなきゃいけないのだ?』

 『治る治らないは置いておいて、誇ることではないね』

 あはは、と笑う柊を無視して教室のドアを開けようとした。

 

 『どうしたんだい、新?』 

 『早くあけんか、怖気づいたのではあるまいな』

 扉の前で立ち止まったままの俺を不審がってか、頭の中で二人が話しかけてくる。

 だが、そうしたくてもできない理由があったのだ。


 「あの、ちょっといいかな」

 突然後ろからかけられた声に俺は立ち止まる。

 俺に声をかけてきたのは吉原さんだった。

 

 

 

 

 

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