十七話 楽しさ一杯
「あああああ、もう!どうしてくれんだよぉおお!」
叫ぶ。
「まあまあ、落ち着いて。もしかすると、事態は思った以上に深刻ではないのかもしれないよ」
「んなわけあるか!事態は瀕死だよ!吉原さんの件は結局うやむやになってしまったし、絶妙なタイミングで雅が登場するわで、もうこれ以上ない絶体絶命だよ!」
あの日、雅ともエンカウントしてしまった俺は何も解決することなく帰ってきてしまった。というのもひとり帰ろうとしていた雅は俺と吉原さんの顔を何度か凝視すると顔を伏せながら駆けだしてしまったのだ。
状況を把握できていない吉原さんは頭に疑問符が浮かんでいたし、追いかけるようにして校門を出た時には雅の姿は見えなかった。
雅の家に直接訪問することも考えたが、元々なかった誤解を自分で説明しに行くのも自意識過剰な気がしてならなかったのだ。
そんな新のヘタレっぷりに居候の身である柊と魔王はブーイングの嵐だったが、結局制止したものが好転することはなかった。
「だから、一番は変に先延ばししないでその日の内に彼女とは話をするべきだったんじゃない?」
「ぐっ…………」
柊の正論が刺さる。
「いや、この一見ヘタレな行動が、時間が何とかしてくれるっていう考えの元の英断でして…………」
自分が作ったキャラクターに説教される小説家、という絵面。
…………なんて、悲しいシチュエーションなんだ。
「そんなわけないでしょ…………」
「そんなわけなかろう」
一刀両断。
「いや、考えても見てよ。元はと言えばあれは魔王が適当に魔法を使ったのが事の発端なんだから、同じように魔法で今の状況も何とかできるんじゃないの?」
「断る」
「なんでさぁ!」
「便利道具と同列視するな小僧。貴様はのび太君か」
「そんな厳しいこと言わないで助けてよぉ、マオえもーん!」
「離れろッ!何だその微妙に煩わしい語呂はッ。今、ランク上げで忙しいのだ!」
「あまり魔王の魔法頼みになってはだめだよ。本来はない力なんだから」
柊の注意に俺は即座に頷いた。
「まあ確かにな。こういうのは大抵ずるをして事態が悪化するのがド〇えもん映画の鉄則だもんな。自重は大切だ」
「いや、なんで急にメタい発言するのさ…………」
半ば呆れ気味の柊をよそに、俺は思考を巡らせる。
いや、落ち着くんだ俺。ここで事態を嘆いていては好転はぜったいにありえない。
未来を切り開くのはいつだって自分自身なのだ(これ名言)
俺がラノベ作家として、積み上げ、磨き上げてきたものを思い出せ!
一つ、アンチのコメントにもくじけない・泣かない強い精神力。
一つ、たとえ作品に行き詰ったとしても決してゲームという娯楽に屈しない固い意志力。
これだ。まずは初心に帰るべきだったんだ。
何事も最初が肝心。この言葉はいつだって物事はやり直せるという無責任な言葉ではなく、過去を振り返ることで新たな一歩を踏み出す勇気をくれる言葉なのだ。(これめいg――――)
「大丈夫だ。幸い今日は金曜日。そして明日から土・日曜日と二日間は完全に休日となる。この二日間で何としても事態の収拾、改善案を出すんだ!」
でも、だとしても何から始めるのがいいんだ?
俺は人とのコミュニケーションに関して、何かコツみたいなものを掴んでいるわけじゃない。
仲直りどころかまともな友人関係を築くことができていなかった俺が、この瀬戸際でアクションを起こせるものだろうか。
くそっ!こんなことなら自己啓発本をもっと読みこんでおけば良かった!
今まで無暗やたら自己啓発本を買い込んでいる父を「社畜w」と嘲笑っていた自分を〇したい。
どうすれば!どうすれば!
「おい小僧…………精神を乱すな。こういった時にこそ、男たるもの堂々と構えることが大事なのだ」
魔王からかけられた意外な言葉に新の意識は目覚める。
「な、に…………?」
「少しは骨のある顔になったじゃないか。新」
「魔王…………!」
感極まった俺は思わず涙ぐんでしまう。
なんて素晴らしい激励の言葉なんだ!
そして、魔王はおもむろにテレビゲームのコントローラーを手に取ると、こちらに差し出してふっ、と笑いかけた。
「やる、か?」
「…………おう!」
「あはははははははっははははははははははっはははははは―――――――!」
「あははっはははははははははっははははははははは――――――!!!」
二人して画面に向き合い、ゲームをする。
笑い合いながら、何もかもを忘れて、ゲームをする。
時には、互いのプレイに文句を言いながらも、チームプレイを大切に。
「おいっ、魔王!ダメージ管理くらいしっかりしろよ!」
「貴様こそ、何だその腑抜けた攻撃は、お主の武器は弓ではなかったのか!?」
「うっせえ!あんな遠距離しか能がない武器使えるか!時代は片手剣なんだよ!」
絆を深め、真心を育み、ゲームをする。
楽しい。こんなに無心でやるのはいつぶりだろうか。
「おい!貴様もやるぞ!早くコントローラーを握れ!」
「え、僕もやるの!?というか新。ちゃんと考えているんだよね!?」
「あはははははは…………ははっ」
ふと、スマホ画面に目をやった。
「ええええええええええええ、月曜日いいいいいいいいい!?」
築けばあったはずの休日が消え去っていた。
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