閑話休題 ①
「新しいゲームがやりたい?」
俺が半ば顔を歪ませながらそう問い返すと、そいつは自慢げに答えた。
「そうだ。今度この我がぷれいしてやったアクションゲームの新作が発売されるのだ。どの程度進化したものなのか審査してやろうとこの我が直々にぷれいしてやるのだ」
まあ、最近ずっとゲームばっかしているもんなぁ、こいつ。
俺が学校で日々頑張っているというのにその発端である魔王はいつまで経ってもゲーム三昧の毎日。
別に自分の努力を棚に上げているわけではないが、毎日が休日のこいつは勝手に家のお菓子を食べて、気に入ったものがあると買ってくるように上から目線で言い寄ってくるのは正直ウザい。
あと、日に日に魔王の口調が幼児化してきている気がするのは、気のせいだろうか。彼の横柄な性格は改善できる類のものではないと柊と二人して理解してるので、何も言うまい。
ただ――――――――――
「お前、まだその前作クリアしてなくね?」
「うっ…………」
言葉を詰まらされる魔王。
こいつ、ゲームが好きな割にとてつもなく弱い。
一応職業で小説家をしているために、取材も兼ねてゲームを買うことはよくある。
それもあまりジャンルに頓着しているわけではなく、アクションゲーム、リズムゲーム、恋愛シミュレーションゲームなどなど、多岐にわたるのだがこれらが魔王には存外得意ではなかったのだ。
そのくせ、どんなゲームでもそこそこはまって俺や柊に挑戦してくるので(それもコテンパンにすると拗ねる)正直なところ、辟易しているのであった。
「確かに、その新作ゲームは俺も注目しているから買おうとは思ってるけど、前作もろくにやってないのにそれをほったらかすのは見過ごせないな」
「ぐぅ…………」
ぐうの音は出せるようだ。
「ち、違うのだ!ラスボスのところまではいけたのだが、あいつ無駄に必殺技をぼかすか撃ちまくるし、そのくせMPの回復が馬鹿みたいに速い!チートにもほどがあるだろ!」
口調変わりすぎの図星の焦りを見せる魔王。
「まあ、わからないくはないけどな?あそこは急に難易度が跳ね上がって、またレベルを上げて来いって言う一種の負けイベントなんだよ。だから、一からレベルとスキルを見直せば倒せるんだよ」
通常のアクションゲームとしても名作だが、今魔王が苦戦しているゲームはストーリーとアクションとの兼ね合いが素晴らしい。
クソゲーと違って、理不尽なムーブがあるわけでもなく、初心者の人でもクリアできる内容で焦らずきちんと見直せば下手糞な魔王でもクリアできるはずなのだ。
…………本当はストーリーシナリオの後に、追加のクエストがあってそっちは玄人向けとしてそれはそれでやりがいのある奥が深いものになっているのだが、魔王には言わないでおこう。
「まあ、今日は土曜で休みだし、俺も付き合うからクリアできるようにしようぜ。これ複数でもプレイできるやつだし」
「おお!礼を言うぞ!」
魔王はそう言って、ウキウキ気分でゲームを起動し始めた。あいにくコントローラーはたくさんある。
実を言うと、一時期、妹もこれらのアクションゲームにはまっていた時があったのだ。今では全くと言っていいほど興味を示さなくなったが。
「何やってるの?」
「ん?いや、魔王がラスボスで苦戦しているみたいだから、手伝ってあげようかと」
「へえ。いいね、僕も混ぜてよ」
急遽加わった柊と新。それに魔王を加えた三人パーティーでクエストを進めていくことになった。
今回の三人にでプレイするゲーム「モンスタースピリッツ」は、一人プレイから複数プレイまで可能な幅広い年代でも可能なアクションゲームで、今回の新作でシリーズ四作品目となる。その前作なのでプレイするのは三番目の「モンスタースピリッツサード」だ。
ゲーム内容は、個々に選んだ武器で敵モンスターを倒していく、というものだが、複数人の場合それぞれのプレイヤーの戦績とチームへの貢献度が出てくる仕組みとなっている。
カタカタカタカタ―――――ドカーンドカーン――――カタカタカタカタ
画面で敵のアクションがあるたびに、体を左右に傾けてすっかりゲームの世界にのめりこむ魔王。その顔色は毎秒事に変化していて、好調な時もあれば大ダメージを受けて、青ざめている時もある。使用武器は大剣。その形状が勇者が使用していた武器に似ているように感じる。
新はこのゲームを一度クリアした経験からそこそこ戦えてはいるものの、突然の攻撃に対応しきれず被弾。時折、集中力の乱れが目立ち、微かに上体が前傾姿勢になりがち。ある程度戦えている。使用武器は弓。最近はこの手の長距離武器がマイブームだ。
一方、柊は、姿勢よし、戦況よしの絶好調で本当にゲーム経験が浅いのかと疑いたくなる戦いっぷりであった。冷静沈着に敵モンスターの行動パターンに合わせた最適の動きで対処する。ぶっちぎりの好成績。使用武器は片手に剣、もう片方に盾を装備した片手剣。
「なっ、なんだ今の動きは!明らかにこの怪物の動きを読み切っていたはずだ!」
トロール型のモンスターによる棍棒攻撃を被弾し、苦悶する魔王。
「へっ、大剣なんて大ぶりしてるからだぜ、魔王さんよー」
ステージ端で回復している魔王を嘲笑いながら、弓を使用した遠距離攻撃に徹する新。
「ぐぬぬ、貴様こそ人間らしい姑息な動き。一度に少量のダメージしか与えられぬではないか」
「ふん、言ってろ。ダメージ効率は弓の属性武器が一番だ!あああああ!被弾した!」
「馬鹿め!油断しているからだ!な、なんだ!?我の体が動かなくな、る………!」
トロール型のモンスターにはただ一つの遠距離攻撃があり、棍棒を投げ飛ばしてくることがあるのだ。使用階数こそ少ないがモンスターとの距離が遠いほど回避が難しく、ダメージがでかい。
魔王が受けた石化攻撃は、トロールの大技である。相手の動きを止めた後、ゆっくりと近づき、大ダメージを受ける。
「二人とも、少しは真剣にしなよ」
「「お前(貴様)はなんで攻撃を受けないんだ!」」
新と魔王が、ステージ端で大回復している中、未だ少量の削りダメージのみでほぼ体力満タンの柊。
ほとんどモンスターとタイマン状態だ。
「一々大ぶりの攻撃をしすぎなんだよ二人とも。こういうのは少しずつ少しずつが大切なんだから」
そう言い残して、柊はトロール型のモンスターを倒しきってしまった。
「なんという剣捌きだ………盾をほとんど使用していない」
「一応片手剣って、このゲーム内の激ムズ武器で使用率最下位なはずなんだけど…………」
「次、ボス戦だから気を引き締めていくよ」
「「は、はい…………」」
さりげない柊のお兄さん風に惚れそうになる二人だが、ボス戦もちゃっかり足手まといになり、結局ほとんど柊一人で倒しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます