十四話 驚き桃の木あの子の気持ち

 「ふう…………ぎんぢょうじでぎだ…………!」

 俺はただ一人、校舎裏にて幼馴染を待っていた。

 それは決して愛の告白をするためではない。全くもってその逆、既にマイナス値である好感度を±0にしたいだけなのだ。

 

 『そんな緊張でどうするのさ。もっと余裕を持ちなよ』

 

 リア充主人公の柊が頭の中に直接語りかけてくる。これは元々魔王の魔法によるものなのだが、半ば接続しているだけで柊のほうがこの非日常的この状況を活用している気がする。


 うちの高校。それ自体はごく平凡そのものの進学校であるのだが、校舎の造り自体はそこまで古びているわけではなく、比較的新しい部類に入るはずだ。


 けれども、辺りを隈なく探せば、使われていない部屋や人通りのない通りは見つかるもので、校舎裏もその一つに当たる。

 

 謝罪の場としてこの校舎裏を提案したのは自分なのだが、それにはいくつかの理由がある。

 まず第一条件として彼女――――雅の友達の目に付く場所での接触は避けたいという思いがあった。だが、却って人気のなさすぎる場所は彼女自身の警戒心や良からぬ疑いをかけられる可能性があったので、この場所となった。

 

 それも校舎裏は実質的に校舎裏という言うには少々異なっていて、すぐ先に自転車置き場があるのだ。

 

 そこを利用する人はもちろんいるし、そこからあまり離れていない場所であれば生徒たちの喧騒が少し遠くに感じる程度で彼女の違和感も紛れると思ったのだ。


 「だ、大丈夫なはずだ。ここまで考えたのもあいつと仲直りしたい一心のことで何もやましいことはないはずだ。でも、実際に魔が差したのも事実なわけでそれに関して彼女の気が晴れる保証はないし…………あああああああ!どうすればいいんだぁああああ!!!!!」

 

 『だから、そのために呼び出すんでしょ…………』

 

 校舎裏に一人、俺の叫び声が響く。

 

 「はあ、はあ…………それにしても雅のやつ、遅くないか…………?」

 

 確か柊の話によると、魔王の魔法であいつの友達が軒並み急用で一緒に帰れなくなって、それで校舎裏に誘導するっていうことだったのだが、いくら何でも遅い気がする。

 あまり時間が経つと、他の生徒達も帰ってしまう。それではここに呼び出すメリットが薄らいでしまう。

 

 『そうだね。少しおかしい気もする。ちょっと、聞いてみるよ。………魔王ー』

 

 遠くに感じる微かな生徒たちの話し声。鳥のさえずる音と風の吹きすさぶのが混ざり合って独特の雰囲気が出来上がっていた。

 じめじめとしたイメージとは違って、校舎裏は意外にも悪くない場所であった。


 傾いてきている陽の光も、心地よい風と共に流れでてきて、頬を撫でる。

 穴場スポットを見つけたという高揚感で緊張が少し和らいだその時。

 

 『ちょ、ちょっと!えっと、新?聞こえてる?今魔王に問いただしたところなんだけど、大変な手違いがあったみたいなんだ!』

 

 耳奥で何か喋りかけている柊に対して俺は思わずこう言った。

 

 「…………ああ、聞こえているよ。そしてその手違いが何かも理解した。これはまずい」

 

 『え!?どうしたんだい?』

 

 声を荒げて、問いかける柊。

 けれど。

 

 「あれっ?阿久津くん?」

 彼女の声が俺の意識を刈り取った。

 

 木漏れ日の影から顔を出した一人の天使。

 それは久しぶりの邂逅を果たしたあの幼馴染ではない。

 

 「吉原さん。どうしてここに…………」

 

 紛れもない彼女のものだった。

 

 

 

 

 

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