十三話 本当の本当の本当?

 「なあ、柊。これで本当に大丈夫なのか?」

 俺は不安でいっぱいの胸の内を、この作戦を伝授してくれた者へと尋ねる。

 

 『んー、多分?』

 曖昧な返事だなぁ、おい。

 

 『まあ、大丈夫だよ。死にはしない』

 「別に俺は死ぬ以外ならどうなってもいいってわけじゃないからな?」

 

 痛いのは嫌だよ。

 俺は自分の視界に広がる景色を見て、嘆息する。

 「これじゃあ、告白するみたいだよな…………」

 

 新がいるのは校舎裏。

 ここまでに至った経緯を辿ろう。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――


 『まずは、具体的な状況を考えよう。君が今しなければならないことは彼女との完璧な和解だ。それにはもちろん昨日新がやらかした失態も含まれる』

 

 柊の言葉に俺は無言でうなずく。

 『じゃあ、次。君は今、彼女がどんな気持ちでいるか想像できているかい?』

 

 『…………どんな気持ち』

 想像していたものと少し違う質問に、俺は驚く。


 『まあ、怒っているだろうなぁっている漠然とした思いは第一条件として、だよ?君は元幼馴染、明石雅が君に対して今どう怒っているのか、想像したことはある?』

 

 そう問いかけられると、口から出るはずの答えは中々に出てこなかった。

 雅がどう怒っているか。

 そりゃ、まず昨日その場の勢いと突然のことで久しぶりに会って間もない彼女に触れようとしてしまったこと。それは女性である彼女にとってとても嫌悪感の抱く出来事である、くらいは思いつく。今考えても俺最低だな…………。


 『そう。まずそれができないと謝ったところで同じことを繰り返してしまうんだよ。たとえ自分がしてしまった何が悪いかはわかっても、それが相手の何を不快にさせてしまったかは、想像して理解しないとわからないよ。もちろん最終的には本人に聞いてみないとわからない場合もあると思う』

 

 なるほど…………。

 確かに、人が嫌がることは常識の範疇は当たり前としてもそれ以外は千差万別だ。

 何気ない一挙手一投足が相手からの好意を底辺まで落としてしまうこともあるだろう。


 他に、何か俺がしたことで悪かったことはあっただろうか。

 あの日は俺の家に来たのも殆ど何もせずに帰ってしまったしなぁ。

 過去に何かとんでもないことをしでかしていた、とか?いや、それならさすがに覚えているだろうし、何か………昨日………何もしないで………遊ぶ?

 

 『そういや、雅は昨日、家に遊びに来たんじゃなかったっけ?』

 そうだ。

 確かに雅は家の前で俺に話しかけた時、そう言っていた。

 それがどれだけの重要度だったのかはわからないけれど、それが実現できなかったのも事実だ。

 

 いや、でも家で遊ぶって何をする気だったんだ?

 自慢じゃないが、家に最近の女子高生が好きそうな遊びなんてないもないよ?あるのは、せいぜい漫画やライトノベル、あとゲームくらいなものだし。

 

 『…………別にそこについてはまだ考えなくていいでしょ。それに君も男子高校生だよ』

 半分呆れた口調で柊が言う。

 

 『でも、方向性は決まったね。仲直りの印って感じで遊ぶ約束でもしたら?何をするかは本人に聞けばいいじゃん』

 

 「それもそうだね。じゃあ、えーっと、今度はどういう状況で話しかけるのかってことだよね?」

 

 『そうだね。本当ならここはあまり難しくないところなんだけど…………最初から説明したほうがいい?』

 

 『はっはっは、柊。あまり俺のポンコツ具合を舐めないでいただきたい』

 

 『いや、全然威張るところじゃないし。というか、なんで誇らしげなの?』

 万年、友達恋人いらずの「鴨かも?先生」だよ?

 これ以上ないってくらいにエコ。友達と遊びに行くこともないし?恋人とデートに行くこともない。もう超エコ。今地球に必要とされている人材を具現化したようなエコ加減だ。

 

 『まあ、いいよ。新のポンコツ具合は今に始まった事じゃないしね』

 柊が既に諦めたような口調で前向きになる。あんまうれしくないよぉ。

 『じゃあ、手っ取り早く行こう』

 「おう」


 俺はそのまま頷き、柊の次の言葉を待った。

 ちなみに柊の後ろからは魔王がオンラインゲームで負けて絶叫しているのが聞こえている(が気にはしない)

 

 『もう、さっさと引き留めて約束しろ』

 はっきりと言った柊。

 

 「あの、柊さん」

 『何かな新君』

 「秘策は?とっておきの秘策は?」

 『ないよ?そんなの』

 「ごりごりの脳筋プレイじゃないですかぁ」

 『そうだね』

 

 「…………」

 『…………』


 「またまた御冗談をーw」

 『嘘じゃないよ☆』

 

 「…………」

 騙された!?

 これ以上なく普通に騙されたよ!?

 

 「そこをどうにかならないですか…………?」

 『ったく、そう言うと思って今魔王に彼女を呼び出すようにしてもらってんの』

 「柊先輩、マジぱねえっす」

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

『いいかい?もう少ししたら、彼女の友達が軒並み急な予定が入り、彼女は一緒に帰る友達がいなくなる。ちなみにこれには魔王の魔法によるものだから、一定の時間が経つと解除されるから安心していい。でもだからといって…………新?聞いてる?』

 

 柊の最終確認に耳を傾ける俺は、内心それどころではないほどに緊張していた。

 心臓が周りの音よりも煩く、バクバクと血液を送り出している。

 未だ夏は先だというのに全身がありえないほどに熱を持ち、額から汗が出てきた。

 

 「聞いてるひょ?」

 『全然聞けてないね、それ…………』

 ほんと、すみません。

 

 『だからね?これはどう繕ってもチート業だ。本来なら僕達の協力なしでしなければならないんだよ?』

 

  『まあ、僕は面白いから別にいいけど」

 おい。それお前の願望じゃねえか。

 

 「まあ、でも、うん。わかってるよ。俺が今すごく恵まれているのは」

 ちゃんと理解している。

 本当なら俺は今もパソコンに向かうだけの生活を送っていただろう。

 雅と再び話すことはなくって、二人に出会うことのなかった俺。

 

 それを想像すると、無性に恐ろしく感じる。

 

 『ならいいんだよ。それで、今回の目標は別にリア充への階段を二段飛ばしで進んでいくことじゃないんだからさ。あまり気負わないでいこう』

 柊はそうやって、励ますように声をかける。

 

 『ほら、魔王も何か新が前向きになるような言葉をちょうだいよ』

 『なんだ、我は今忙しいのだ』

 相変わらずの不遜な態度。元はと言えば俺の学校生活に関しての変化はあいつのせいだというのに。それに、柊には悪いがそんなことで魔王が何か気の利いたセリフを俺に授けてくれるとは思えない。

 

 『ああ…………まあ、なんだ。我もたまには下界に言葉のひとつやふたつ恵んでやらねばな』

もつと一蹴されると思っていたが、魔王の意外な反応に俺は内心驚く。

 めずらしいな。魔王がこうも口を止めるのは。

 いつもなら、そのままゲーム画面へと帰っていくはずなのに、本当に驚きだ。

よし、たまにはいくら傍若無人の魔王でも良心が顔を出す時があるのだろう。ここは、彼の言葉をちゃんと胸の内に留めておこう。


 『盛っても、交尾はしすぎるなよ』

 お前のせいで台無しだよ、クソ魔王。

 

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