三話 月曜日って変な気分になるよね

 本日は晴天なり。と聞けば、大勢の人はマイクのテストがしたいのだと思うだろう。

 

 だけれど俺に言わせてみれば、そいつはコミュ障の一端であると言わざるを得ない。一々晴天とか言わなくてもいいことまでも言ってしまうのがコミュ障だからだ。

相手が言ったことを繰り返してしまって、こいつ何言ってんだ?と思われてしまったり。

 

 逆に相手がそう思っていなくとも自身の中での相手とは話相手のミスに厳しいと思い込んでいたりと、案外自分に対しての評価は八割が偏見やイメージ上の産物だったりする。そもそも、月曜日という憂鬱を体現したかのような今日に変な妄想に花咲かせて少しでも現実から逃避しようとしている俺自身が何よりコミュ障である。

 

 まったくもって恥ずかしい。

 

 小鳥のさえずりを聞いて、一日の始まりを告げる美しい鐘の音だと喜ぶのと、家の外で鳴く声がうるさいのは何瑕疵なんだ?訴えてやる、と、思うのでは一日の質は明らかであろう。

 

 懐は深く人にやさしくありたい今日この頃である。

 けれどもいつも通りの月曜日とはいかない。現在の俺には一つの懸念点があったのだ。

 

 それはもちろん昨日のこと。

 夕食以降もある程度構えてはいたが特にあの二人が現れるということはついにはなかった。

 

 俺の幻だったのだろうか。

 そう思って考えを止めるのは簡単だがそれにしてはあまりにリアルすぎて、自身の想像力が臨界突破したのかと自らの能力の高さに感服してしまう。

 

 違う、そうじゃない。

 

 あれは実際に目の前にいた魔王とイケメン野郎だ。

 

 正真正銘の主人公。

 

 消えたとすると魔王の透過魔法を使っているのか、瞬間移動でどこかへ行ってしまったのか、そもそも本当に元の世界へと戻ってしまったのか。

 多分元の世界へ還ったということはない。

 

 昨日確認した二人が出てきたライトノベルを調べたところ、一巻の表紙に映っていた二人のイラストがすっかり抜け落ちていたのだ。

 

 どんな手品かは知らないがヒロインだけが取り残されたのを見るとどことなくかわいそうだった。

 やはり元の世界に還る方法でも探っているのだろうか?

 俺もどこか情報収集をした方が良いのだろうか。

 

 「うーん、図書室にそんな小説あるか……?あったら参考にしたいけど」

 

 と、ぶつぶつ呟いているとふと耳元に声がかけられた。

 

 「何考えこんでるの?阿久津君?」

 

 ふー、と吹きかけられた吐息のような甘やかな声音に俺の体は起き上がる。

 

 「え、いやっ、吉原さん!?いや、何でもない………です」

 

 いきなりの対話にビビり散らかして大声を出してしまうも辺りの目線が一身に集まりどんどん声が小さくなって消えていった。

 

 「あははは、驚かしたつもりはなかったんだけど、ごめんね?」

 

 胸の前で手を合わして謝ってくる彼女。

 そんな彼女のことを俺は知っていた。

 

 吉原渚(よしわらなぎさ)

 眉目秀麗、才色兼備、文武両道。そんな四字熟語を幾つ並べても矛盾が見えない完璧女子。同じクラスであることを除いてほとんど接点のない俺でもそれぐらいのことは知っている。

 性格も非の打ち所がないほどに純真で、人とのコミュニケーションで彼女よりも得意な人を俺は知らない。何でもできる彼女のことをひがむことはなぜかないのだ。どこか安心感のある雰囲気でたとえ嫌味らしい嫌味を言ったところで「吉原渚なら仕方がないか」と思わせてくる。とにかく能力面でも性格面でもピカピカに磨かれた珠のごとく文字通り完璧が似合う彼女である。

 

 何より盛大に取り乱した俺にも機嫌を悪くすることもなく話してくれる。

 いや、その奥にある胸は見てないよ?まじで。

 

 「それで、な、なに?」

 

 声の大きさが調節できなくて、少しどもりながらも彼女に問いかける。

 

 「いや、特に何でもないよ?なんだか考え込んでるなーって思って」

 

 「あ、うん。いや、別に何かあったわけじゃなくて…………」

  

 ああ、だめだ。

 話そうとはしているものの、喋り始めにどのくらいの声をだしていいのかわからずに、喉がつっかえて思うように声が出せていない。

 できることなら咳をしたいところではあるが、それも彼女の前では憚られる。

 

 「そうなんだ。てっきり、悩み事でもあるのかと思っちゃったんだけどなー」

 

 はきはきとした口調で「思春期だしね」と少し冗談めかしてくる吉原さん。


 しかし、リア充と呼ばれる人たちは皆滑舌が良いのはなぜだろうか。比較しているのが俺なので確証なんてのはまったくないものだが、声も良く通るし、聞き手としてもとてもわかりやすくて、話上手な気がする。

 

 そういうところがどことなく他の人とは違うのかもしれないなー、と小学生見たいな感想ではあるが、そこで吉原さんの方を変に見つめていたことに気づく。

 

 「どしたの?」

 吉原さんがこちらを真っ直ぐと見つめて問いかけてくる。

 

 「あ、えと…………」

 「…………?」

 こちらがだんまりしていると、吉原さんが小首をかしげる。

 あたまに?が浮かんでいるようで可愛らしさがあったが、それどころではない。

 どう切り出そうかと思案していると、

 

 「渚、何してんだ?早く行くぞ」


 少し離れた教室内から、ふと聞き覚えのある声がかかる。

 まあ、同じクラスの人の声くらい誰だって聞いたことがあるのだろうけれど、飛び切り耳に残る声が耳朶を打つ。

 呼び止めた声の方向をちらと見ると、二人組の男子がこちらに向けて視線を送っていた。きっと、次の授業が移動教室だからだろう。次は美術選択だ。

  

 「あ、オッケー。今行くー。じゃ、またね阿久津君」

 あどけない笑顔を見せると、そのまま彼らのいる教室の後方へと移動する。

 

 「阿久津と何話してたんだ?」

 「ふふっ、内緒ー」

 「なんだそりゃ」

 

 まあだよな。

 学校でも飛び切り人気の美少女で、こんな俺に話しかけてくれることのほうが不思議なのだ。確か名前は藤堂と竹内だったか?

 クラス内でもトップカーストに君臨する彼らは当然の如く女子カーストのトップである吉原さんとも仲が良く、よく話していることがある。

  

 そのあれだ。適材適所というか類は友を呼ぶというか、相応しい集まりにはふさわしい人が集まるものなのだろう。

 事実藤堂と竹内も部活やクラス行事でも活躍しており、一定数の人気がある。

 

 そこに俺がいないのは必然であり当然の結果だ。別段それを羨んだりはしない。

 そんな雲の上の存在である人と話せて光栄とすら思うね。

 

 学校一の美少女と会話できてしまった俺は、その後の授業を全うしてウキウキ気分で帰宅した。

 いつもなら、先に授業が終わり、リビングのソファで寝転んでいる妹も今日は部活があって帰りが遅い。

 少しの鼻歌を口ずさみながら、冷蔵庫から残り半分ほどになっているジュースを取り出して、自分の部屋へと向かう。

 今日は気分もいいし、ラノベ書く前に溜まっていた本でも消化しようかな~。

 俺はにやにやと気持ち悪い顔をしながら(たぶん)戸を開けた。

 「―――――――――え」


 「うぉお!敵が、敵が迫ってくるぞ!こやつは黒龍ではないか!」

 「また、焦って被弾してるぞー」

 ゲームをする魔王。

 その横で指示を出しているイケメン。

 

 ―――――――――何あんたら遊んどんの


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