第10話


                 10


「いらっしゃい、凪穂ちゃん、来るって聞いてたよ~」


 ここは青木家、あの後、会社を二人で出て、家路に着くのだが、今日は匠斗の車で一度は村上家に行き、凪穂の簡単なお泊り用品を持ち、そのまま青木家に来たのだ。

 玄関で待っていたのは、妹の舞と、母親の恵だった。

「こんばんは、お邪魔します」

「待ってたわよ、凪穂ちゃん、匠斗から連絡受けてたから、さあ上がってね」

「はい、ありがとうございます」


 匠斗の事は一切眼中になく、 ただいま をも言わせてもらえない状況だった。 随分と失礼な青木家の女性陣だった。


 二人は一度、匠斗の部屋に行き、手荷物を置いた後、お互いにリラックスできる部屋着に同時に着替え、リビングへ降りてきた。


 すでに帰っている父の一樹は、もう時期に風呂から上がってくるので、そうなったら夕飯だ。 

 大学時代の凪穂のお泊りの時は、夕飯まで恵の手伝いをして、皆が揃うのを恵とキッチンで待つと言うのは、いつもの事で、時々舞も含めた女子3人で、楽しく夕飯の支度をしている時もある。


「凪穂ちゃん、ずいぶん久しぶりね、こうやって一緒に夕飯作るのは」

「はい。 とっても楽しいです、お母さん」

「あら、久しぶりに聞いたわ、 お母さんって言ってもらうの」

 舞がその話の中に挟み込む。


「凪穂ちゃん、お兄ちゃんのお嫁さんまで、秒読みかな~?」

「な、何言ってるの、舞ちゃん」

「そうね~、凪穂ちゃんならいいお嫁さんになれると思うわよ、ウチの匠斗も

いい女の子を見つけてきたわね」

「お母さん、始めはお兄ちゃんと言ったハンバーガーショップだったんだよ、私も当事者だし」

「あら、そうだったわね。 馴れ初め時から3人一緒だったのよね」

「はい、あの時に、私があのバーガーショッに行かなければ、こんな素敵な出会いは無かったと思っています。それと、舞ちゃんにも感謝しています」

「え? そうなの? 凪穂ちゃん」

「そうよ。 あの時、匠斗くんが一人だけだったり、男子達だけだったら、いくら空いている席がっても、聞かなかったわ」


 懐かしい高校時代のあの日の出来事を思い出す凪穂。


「でも、最初は私の事、お兄ちゃんの彼女みたいな言い方だったけど、それなのに、何で声掛けたの?」

 

 そうなのだ、男女が一緒に居るテーブルなのに、声を掛けたのは何故か腑に落ちない舞だった。


「それはね、簡単よ」

「え?....」


「あのね、舞ちゃんが、匠斗ととても似ていて、可愛いかったから、コレは兄妹なんだろうなって思ったの」

「な~んだ、納得。 実は、近所で偶に、 兄妹似てるわね~ なんて言われた時期があったな~」

「あら、今でもあなた達は似ているわよ。 美人とイケメンだし....、ね?、凪穂ちゃん」

「そうなんです。だから、最初は私なんかの地味女子なんかと....、って言っていたら、匠斗くんに怒られました」

「何て言ってたの?匠斗は」


 ココで凪穂は少しばかり躊躇する。


「カ、カワイイって、言ってくれました」

 言いながら、顔を赤く染め、両手でその顔を覆ってしまった。

「あらまあ、聞いてるこっちが恥ずかしいわ。 でも、凪穂ちゃんありがとう、匠斗と出会ってくれて、本当に感謝しているわ」

「じゃあ私、ずっと匠斗くんとお付き合いしていていいんですね?」


 恵は一旦 フゥー....、と、溜息をついて、その口から衝撃の一言が出た。


「もうね、匠斗のお嫁さんでいいんじゃない? ねえ舞」

「それ決定で良いよ」

「じゃあ決定でよろしくね、凪穂ちゃん」

 どうやら匠斗の配偶者は決定事項になったみたいだ。


 そこへタイミングよく、空のペットボトルを持って、匠斗がキッチンに入って来た。


「あのさ~」

「あ! お兄ちゃん」

「さっきから少し聞いているけど、見ろよ、凪穂、さっきから顔と頭が、2回ほど超爆してるぞ」

「あら聞いてたの?」

「聞こえたんだ。あんな大きな声で、父さんも聞こえたかも」

「あらやだ! 失礼しました~....、って、あら、あなた」


 匠斗のすぐ後ろで、一樹が半凝固になっている。 どこからキッチンでの女性陣の会話を聞いていたのだろう。

 そんな各々の状況を感じてか、舞が全員を招集・着席させた。


「はいはいみんな、夕ご飯なので、座って下さいよ~」

 その一言で、一樹が解凍し始め、各々キッチンテーブルに着席した。


 その後、久しぶりに、凪穂もテーブルに交えての夕食となり、楽しい夕べ + 女子3人のはしゃぐ声が、特に耳に響く一食時となった。



               ◇


「そりゃもう婚姻の許可が下りたんだな、良かったじゃないか、匠斗」

「そりゃオレはメッチャ嬉しいけど、その時の凪穂の顔と言ったら、花火を近づけたら、危ない状態だったんだぞ、亮」


 次の土曜日、就職してから、久々の2カップル、4人の姿が、ファミレスの昼食のテーブルにあった。

 久しぶりという事で、日ごろのメッセージでのやり取りとは違い、実際に面と向かっての会話は特に弾む。


「やだ匠斗。 サラッと言われたけど、嬉しい」

「出た出た、場所を選ばない、ドコでも惚気が。 でも、いいな~、凪穂は、もう双方の両親に了解を得たのも同然なんだよね。 それに比べて、私達って、まだまだよね、亮」

 少しつまらなさそうに、葵が亮に言い放った。

「でも、オレは絶対に、葵と一緒になるからな」

「おいおい、さっきの ドコでも惚気がって言うのは、お前たちだろうが....」

「そう言えば、いい勝負ね、凪穂、うふふ」

「お互い様よね、葵、うふふふ」

「でもさ....」


 ちょっと真剣になる匠斗。


「でも俺たち23だろ、オレが一人前になるまでは、あと何年かかるんだろ、そうなると、もし結婚しても、凪穂を養っていくと言う先がまだ見えないんだ」

「それはオレ達にも言えるかな。 この先今のまま会社に居て、葵と結婚してやっていけるか心配はしている」

「あら、亮。 わたしならまだ暫くは、今のままで働くから大丈夫よ。 でも、出来ればもう1~2年は、カップルのままがいいな~」

「なになに? 葵。 しっかり結婚の準備をしているんじゃない、そちらこそいいな~」

「凪穂たちみたいに、双方の両親の公認って訳じゃあ無いから、私たちは今からが、準備の段階よ」

「でも、高校時代から、4人の部屋に行ってたんだから、そこはお互いの両親、薄々分かっているさ、絶対に」

「そうかな~」

「確かに、交際はお互いの両親に認めては貰っているけど、結婚となるとな~」

「それ、多分大丈夫だと思う」


 突然、凪穂が言う。

「だって、4年以上もお互い一途なんだよ、いまだにお互いの家に入り浸ているのなら、無言の公認よ」

「だったらいいけどな」

「凪穂、根拠は?」 

 匠斗が凪穂に問うと。

「ありませぇん。 ごめんなさぁい」


 無責任な返事が帰って来て、一同大爆笑だった。




 久しぶりの4人での楽しい昼食に時間も忘れた各々は、夕方前になりやっと解散になった。

 次回の予定の時期をある程度決めて、2組になって別れた。


「葵たちも、何となく結婚を意識してるんだね、話していて分かった」

「俺たちに誘発されたのかな?」

「そうかもね」


 ファミレスの帰りの車中で、村上家の向かっていて、今回は、凪穂の部屋に泊まることにしている。

 昨日、会社帰りの時に、凪穂の父 駿との事があって、少しだけ照れ臭い匠斗であった。







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