第5話


                  5


 ピンコ~ン。


 翌日、以外に早起きした匠斗が、スマホでゲームをしていると、ポップが出た。


『おはよう。今から出るけど、いいかな?』


 と言うメッセージが凪穂から来た。

 即座に返信する。


『おはよう。いいよ、待ってる』

『じゃあ、今から行くからね』

『分かった、玄関で待ってる』

 そう残して、やり取りは終了した。

 そしてすぐに匠斗は2階にある自分の部屋から降りていき、メッセージどうりに玄関で凪穂を待とうと思っていたところ、母親の恵(めぐみ)が玄関の掃除をしていた。

 (うわ!これは不味い) と思ったが、時はすでに遅かった。


 ピ~ン ポ~ン


「あら誰かしら?、はぁい」 

と母親が玄関ドアを開けた瞬間に、出くわしたお互いが一瞬固まった。


 そして、一瞬の間が空いてから、先に言葉を発したのは凪穂だった。


「あ、おはようございます」

「おはようございます。って、あら?、舞の友達かしら?」


 さらに少しの間があって。


「あ、いえ、私 、村上 凪穂 と言います。匠斗くんのクラスメイトで、今日は用事があって、匠斗くんと今日約束して呼ばれたので、お邪魔しに来ました」


 恵が目を大きくして、凪穂の所持万端(外見)を見てから。

「あらら、匠斗のお友達なのね、今待っててね...って、匠斗 居るじゃない、お友達よ」

 恵が振り向いた時に、一瞬 ニヤっとされた。


「う...、うん、分かってるよ母さん」

「何してるの、早くお部屋に案内して、あとで飲み物持って行くから」


 リイングに居た舞が玄関での喧騒に気が付いて、少しだけ玄関のやり取りを見てから、正にその中に突入して来て、それを見た凪穂が。


「あ、舞ちゃん」

「あ、凪穂ちゃん」


「あら、お互い知っているのね、あなた達」

「うん、お母さん。きのうね、お兄ちゃんと朝行った店で、偶然に仲良くなったんだ、よね? 凪穂ちゃん」

「そうなんです、お母さん」


「あらら、お母さんなんて....ウフフフ、さあさあ上がってね」

 言ってしまった言葉に、凪穂は少し照れる。


 玄関から上がるときに、凪穂が抱えていた、包みを恵に渡しながら言った。


「これ皆さんでどうぞ」

 と、小さく可愛らしい包みに入った和菓子セットを、恵に渡した。


「あら、気を使っていただいて、ありがとう、じゃあ遠慮なくいただくわね」

「はい」

 と、凪穂が返事をした。

「じゃあ、後で飲み物持って行くから、匠斗、凪穂ちゃんを案内して」

「分かった」


 そう言って、二人で2階に上がっていくのだが、その後に舞もついていった。



                  △



「あ~びっくりした。 まさかお母さんが玄関に居るなんて、私、てっきり匠斗だけが玄関先に居るものと思っていたから、お母さんと鉢合わせになった時には、びっくりして一瞬、固まっちゃたわ」

「それを見たオレも、階段途中で固まってたけどな、はは....」

 匠斗の部屋に来ての凪穂の一言目に、匠斗は答えた。



「でも片付いているね~、アレから頑張ったのかな?片付け」

「そりゃ、初めて身内以外の女子が来るんで、少しは片づけた....って、なんで居るんだ?舞」


「えへへ、いいじゃん。 凪穂ちゃんが折角来てくれたんだから、ね」

 凪穂に向かいながら、相槌を促す 舞。


「私はいいわよ、男の子と二人きりになるよりも、舞ちゃんが居てくれると、何か気が楽になるわ」

「それって、オレの事を信頼してないって事か?」

「ちがうよ、私が 恥ずかし気まず って感じになるの」


 慌てて否定する凪穂。


「だよな、ハッキリ言って、オレたち昨日からの友人だからな」

「でもね、昨日もだけど、あなたたち兄妹二人って、何処かしら落ち着ける雰囲気があるの、何でなんだろう?不思議ね、殆ど初対面だったのに」

「わあ、ありがとう、凪穂ちゃん、そんな事言ってくれると、私も嬉しい」

「だって、ホントの事なんだもん」


「あの....、良いかな?凪穂」


 話を一度 リセットして。


「凪穂は.....この本だよな」

 そう言って、昨日言っていた本を手渡す。


「あ!そうそう、これなの、結構気長に探してたんだけど、意外に身近な人が持っていたのね、良かった」

「何なら貸すよ」

「あ、それはいいから。 半日くらいで読破出来るスペックだから」

「あ~はいはい、そう言ってたな」

「なあに、匠斗 その返事。 私、読むのそんなに遅くないから、ホントだよ」


 そう言っていると、母親の恵がトレーにお茶セットを持って来た。


「匠斗、入るわよ~」

 そう言って舞がドアを開けると恵が3人を見て


「へえ、仲が良いのねあなた達って。 何か雰囲気が、ずっと前からの付き合いって感じがするわね」

(付き合いって...。)

 ちょっと照れる匠斗。


 3人の馴染んでいる雰囲気を見て、恵が言う。


「あ、お母さん、私もそう思うんです。 昨日会った時から、何か波長が合うって言うか、反りが合うっていうか、今まで話した事のない彼だったのに、話始めると、舞ちゃんまで、雰囲気が 合うわ~ 馴染むわ~ って感じで」

「そう、ありがとう。 ウチの子をそんな風に思い感じてもらって、親として嬉しいわ。 凪穂ちゃんゆっくりしていってね」


「ありがとうございます」


 そう言うと、恵は部屋から出て行った。


「じゃあ、私も自分の部屋に行くね、お兄ちゃん」

「そうか」

「でも、ちょくちょく見に来るからね」

「オレは何もしないぞ」

「分かってるよ、そう言う意味じゃないよ」

「分かった、でも、静かに来いよ、凪穂が読書してるからな」

「うん」


 と言って、凪穂に手を振り、舞は自分の部屋に戻って行った。





 何となく、二人きりになって、気まずくなるかと思いきや、凪穂の方を見ると、すでに本の世界にドップリと浸かっていた。


(は~....、二人になって、気を使うかと思ったら、意外に何か居心地がいいな、この娘(こ)は)

 そんな事を思う匠斗だった。



                  △



 暫く無言な時間が続き、時々飲み物を飲む音と、凪穂がページをめくる音がするくらいで、それ以外は殆ど無音だ。 匠斗はと言うと、スマホを弄っている。

 なのに、二人っきりで一緒に居るのに、なぜか息苦しく無く、気を使わせない空気を出しているのは、きっとお互いの何かだろう。


 その時


「ふう~.....」

 と言いながら、あたりを見回す 凪穂。


「あ、ごめ~ん。息が詰まる感じをさせたかな?」


 言われて気が付いた匠斗が、凪穂に顔を向ける。

 スマホに集中している匠斗は、気が付くのが遅れた。


「え? 何か言った?」

「あれ?聞いてなかったの?」

「うん」

「だから、息が詰まる感じをさせたかな?って...」


「あ~、いや、ぜんぜん。オレもスマホいじってたし。いいよ、気にしなくても」

(うわ!優しい 匠斗 なんか、癒される~ )

 凪穂はそう思った。


「優しんだね 匠斗」

「はは....」


 そこで、凪穂が少しだけ首を傾げて言う。


「今もそうだけど、匠斗って、学校でもよく休憩時間にスマホ開いてるね」

「そんなん普通だろ?他のヤツらだってよくやってるぞ」

「いいえ、そうじゃあないの」

「何が?」


「普通ゲームなら、画面をタップしたりスワイプしたりしているけど、匠斗は何か読んでいる感じだから、もしかして、コミックか小説かな~? と思って」


「なるほど、まあ確かにそうなんだけどな」

「当たったかな?」

「うん、当たりだ。 実は いつも小説を読んでいるんだ」

「やっぱり」

「分かっていたのか?」


 大きく頷く凪穂。


「だって、前見た時、私も有る アイコン だったもん」

「え!?」

「わたしもそれ、ダウンロードしているの。 しかも...あ! いえいえ...」

「なんだ最後、何か隠してるな?」

「な~んもないよ、ないから~」

「気になるな~、いいから言ってみな」

「........」

「言いたくなかったら、いいから....、ゴメンな」


 少し間を置き、恥ずかしさを込めて。


「匠斗も同じアプリをダウンロードしてるから、正直に言うね」

「何かゴメンな」

「ううん、いいの....。 実はね、このアプリのリンクサイトで私、小説書いてるの....、えへ、なんか恥ずかしいな」

 この打ち明けを聞いて、匠斗は目を見開いた。 その表情を見て、さらに凪穂がさらに問う。

「なに? ビックリしたような顔つきだけど、どうしたの?」

「あの........、あのさ、実はオレもこのリンクサイトで、小説書いているんだ」

 この匠斗の打ち明けに、凪穂も目を見開く。 驚いたと言わんばかりの表情に、匠斗が苦笑いをし始めた。


「ははは....」

 それに連鎖する様に、凪穂も照れ笑いをし始める。

「えへへ~....」

 その後は、お互いが、昨日からの動向が類似している事も含め、共感してしまい、苦笑い染みた照れ笑いをしてしまった。


「あ~可笑しい。 匠斗も書いて投稿してたんだ。 何か匠斗とは結構マッチする事が多いな~」

「ホントだな。 今までこれほどマッチした女の子とは関わった事が無いので、なんか不思議な気分だな」

「うふふ。 で、匠斗は何作くらい投稿してるの~?」

「うわ!、いきなり照れる事聞いてくるなぁ....」

「いいじゃない、教えてよ~、うふ...」

 この言葉の最後の、うふ、に、匠斗は凪穂に対して、また違う感情を抱いた。


「なにが、うふ、だよ。 結構突っ込んでくるんだな」

「ねえねえ教えてよ、いいじゃない」

 グイグイ来るいつもと違った凪穂の表情に、降参した匠斗は、正直に答えるしかなかった。


「先日ので、6作品だよ。 凪穂はどうなんだ?」

「え~! 恥ずかしいよ~....」

「なに、それズルい! オレ言ったじゃんか」 

「嘘よ。 あのね、私は最近の投稿作で、今11作目なの。 半分以上は短編だけどね」

「へえ、すごいな。 オレなんか時々連載途中で半月とか止まっちゃう時があるけど、凪穂はどうなんんだ?」

「う~~ん、それは無いかな。 若干名でも、私の作品を読みに来てくれる人が居るので、あまり間隔は開けないようにしているの」

「大したもんだな。 オレって出たとこ勝負の連載だから、たまに途切れるんだ、だけど、絶対に最終話までは責任を持つ事だけは、自慢かな」

「あ~...、あるある。 連載途中で、放棄する人って」

「そうなんだよな。 結構気に入ったのに、 あれ? ココで途切れちゃうの?って作品。 あれって、どうなんだろ?」

「まあ、いろいろ事情はあるんじゃないのかな。 それよりも、匠斗の最近の作品って....、見て見たいな~....、なんてね」

 ちょっと引いた匠斗。


「ハズイから........、でも、凪穂ならいいかな」

 了解を得た凪穂は、子供みたいに歓喜する。

「わ~い、読みたい読みたい」

「なんか、凪穂、性格変わってきてないか?」

「えへ、私は変身することが出来るんだよ~」

「あ、変身した」


 そんな会話をしながら、匠と凪穂は、ペンネームを教え合い、後日お互いの作品を閲覧する事にした。 今日の凪穂は、今読んでいる小説を読破するのが先決なので、そちらを優先した。



 そうしてまた凪穂は、残りの読書を進めるのだった。



                 △



 暫くしてその後、凪穂は本当に正午前には読破していた。


「へえ、いくらページ数が少ないからと言って、早いんだな、読むの」

「えへへ、まあね.....」


 手を組んで、背伸びするように、両腕を上に向かって伸ばした。

「ん~~~~~~....と」


 それを見た匠斗が聞こえない様な小さい声で。

「か、かわいい...」

 と言う小声が漏れてしまった。


 少し照れた凪穂が、匠斗に目線を合わして。


「そ、そんな、カワイイなんて.....」

「うわ!聞こえてたのか?」

「うん、聞こえちゃった」


 ペロっと舌を出す凪穂。


「ゴメン」

「謝らないで、訂正に聞こえるから」

「え?」

「あ! いえ...」


 今になって、二人だけになっている事に、緊張してきた二人。


「でも、匠斗も、昨日今日で、優しいのが良く分かったよ」

「はは、何か照れるな」


「だからね、何で私のような 陰キャ に優しくしてくれるのかな?って」

「?...ちょっと何言ってるんだか分からないけど、オレ凪穂の事 陰キャだとは微塵も思って無いから、むしろ、一緒に居て気を使わせない、癒しの女の子だなって思ってるんだ」

「あ、それ私も匠斗に感じた、 同じだね」

「オレって女の子を癒せる事が出来るんだ、なんか自信ついたな~」


 この匠斗の言葉に少しモヤッとする凪穂。

「あまり大勢の女の子を癒さないでね、匠斗」

「何か妬いてる?」

「や!........」

 黙ってしまった凪穂、怒らせてしまったと思った匠斗が、すぐに謝った。


「ゴメン。 気 悪くした? なら、本当にごめんなさい」

(あ。 この人は上下関係を作らず、普通に謝ってくれる人なんだ)

 そう思った凪穂は。


「ううん、怒ってないよ。 むしろ....」

 黙ってしまった凪穂。


「むしろ何?」

「........」

「えっと....」

「いいから言ってよ、凪穂」


「あ、あのね....、なんか私ね....、匠斗の事が好きみたいなの」

 言ってしまったという、赤みを帯びた頬を隠す凪穂。

 それを聞いて、匠斗も昨日からの心の奥底の思いが、表面に一気に浮かび上がり、その浮かび上がった言葉をそのまま凪穂に伝えた。


「オレ、昨日の午後からの連続鉢合わせの時、フードコートで、この娘かわいい、って思っていた事に気が付いたんだ。 それからはもう........、たった二日しか経ってないけれど、こんなフィーリングの合う女の子なんて、そうそういないと思うんだ」


「匠斗、もしかして、私に 告るの?」

「あ! そう言う雰囲気になってる? オレ人生で告った事ないけど」

「あれ? もしかして、匠斗って、今まで彼女って居た事が無いの? まさかでしょ?....」

「無いけど」


 サクッと匠斗が言うと。


「ええ!? こんなにカッコいいのに。不思議?」

「オレがカッコいい? まっさか~」


 少し顔を赤くして、凪穂が。


「実はね、わたしさっき逆告しそうになったの」


 さらに顔が赤くなる凪穂。

 匠斗はキョトンとする。


「ええ? マジで?、本気?」

「本気だよ」


「これって、オレどうしたらいいの?受け取っていいの?」

「出来れば受け取って欲しいな」

「でもオレって、普通な男子なんだけどいいのか?」

「私だって何処にでもいる、ありふれた女子だけど」

「こんなオレのどこが良いの?」


 凪穂が改まって、匠斗に向き、言い出す。


「私ね、今まで結構クラスでは大人しくして、周りを見てきたんだけど、殆どの男子女子の会話が、その場限りの盛り上がりが出来ていればシラケないし、逸(はぐ)れる事は無いと、そう言う薄っぺらい会話が殆どで、上手く打ち解けなかったんだけど、このクラスになって、初めてなにかいいな~って思えるグループの男女が居たの」

「それって....」

「そう、いつも会話しているあなた達3人なの。 何か他のグループとは違い、人の悪口は言わない、話題にも出ない、誰もが話しかけてきても、相手の事を思いやる様に会話をして、他愛もない会話でも、結構笑って話し合っている3人が、傍らから見ていて、ちょっと羨ましかったんだ」

「じゃあ、直ぐに声掛けてくれればよかったのに」

「でもね、もうその頃には、あちこちでグループが決まっていて、あなた達3人がいつも固まって、本当に色んな話で盛り上がったり、慰め合ったりと、何かあったかい雰囲気がいいなと思い始めたのは、ごく最近の事なの」

「葵なんか、隣のクラスなのに、いつも来るんだぞ」

「それは、あなた達 男子二人が、女子からでも、心を許せる相手だと思うからよ」


 実際にそうなのだ。匠斗と亮は、クラスの男女問わず、話しかけられても、だれでも愛想よく返事しているので、クラスメイト受けは良い。


「でもそこに、私のような陰キャなんて、負の女子が混ざったら、雰囲気だだ下がりでしょ?」

「そ~かな~? 凪穂って結構オレ達と似ているところがあると思うけどな~」


 少し微笑む凪穂。


「ありがとう、そう思っていてくれると嬉しいな」

「思ってるから、オレ」



 凪穂が改まっていきなり。

「私ね、やっぱり匠斗が好き。 まだ出会って間もないけど、大好き!だから、私と正式に付き合ってください」


「こんな普通なオレでいいのか?」

「返事して、匠斗」

 改まる匠斗。


「はい、村上 凪穂さん、オレも好きです、ぜひ付き合っていきましょう」


「なに?付き合っていきましょう...って」

「え~~~、そこ指摘する?」

「だって~~~」


「あははは・・・」


「うふふふ・・・」


「コレからは、彼氏彼女だな、よろしくな オレの彼女」

「こちらこそよろしくね、私の彼氏さん」


 初めて凪穂の手を握った匠斗は、女の子の手って、小さくて柔らかいんだと、心臓の鼓動と共に、実感した。




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