第4話


                  4


 午後2時過ぎ、あれから近くの大型の書籍店舗があるショッピングモールに、匠斗は来ていた。

 ここの書店は、近所では一番規模が大きいので、良く利用している。


 小説の好きな匠斗は、コミックコーナーには目もくれず、いつもの書籍があるコーナーに向かう。 いろんなジャンルの小説が、匠斗の心に癒しを与える この空間が大好物だ。


「さてさて、今日はどの小説に手を付けようかな?」

 独り言を言いながら、書籍の 背 にある、題名を人差し指で刺し、その先に目線を合わせながら、ゆっくりと左に移動していく。


 後ろから、小股で歩きながら近寄って来る足音がして、匠斗のすぐ後ろで止まった。


「匠斗くん」


 自分の名前を呼ばれたので、振り返って見ると。


「あ!なんで?  凪穂」

 黒い瞳で、大きな目をした凪穂の目線と、匠斗の目線が合い、言葉が詰まった。


「あの後の用事ってここなの?」

 まだ固まった匠斗だったが、今の呼びかけにハッと正気に戻った。


「って、凪穂もココなのか?」

「そう、わたしの行きたい所って、この書店のこのコーナーなの」

 匠斗は驚いた。 あれから分かれて、まだ1時間経ってないのに、またこの様な、しかもピンスポットで会うとは、思いもしなかった。


「私も探していいかな」

「いいよ、どうぞ」

「って言っても、すぐ隣だね」

「ははは、そうだな.....」


 それからは、二人無言で気になった書籍を取っては、走り読みをして元に戻す。 それの繰り返しで、かれこれ30分近く二人で一緒の場所に留まった。


 凪穂の方は、時々書籍を片手にスマホで何かを検索しているようだ。そして

、本を手にしては色んな表情をしている、そんな姿を横目で時々見て、その表情に、匠斗は少しだけ クスっと微笑してしまった。


「なに? なんか可笑しかった?」

 本の詮索中に視線とクスリと微笑された事を感じ、凪穂は少しだけ機嫌悪そうに、匠斗に問いただした。


「いや別に....、ただ表情がいちいち変わるな~って思ったら、少しカワイイな、なんて思ってしまって....、ゴメン、決して子馬鹿にはしてないから」

「そんな風に見ていたの? なんか恥ずかしいな」

「はは、ごめん」

 匠斗の会話の中に カワイイ と言う言葉が入っていたため、凪穂は少しだけ頬をピンクに染めた。

 

 それからまた書籍の捜索は続き、暫く経ったところで、先に口を開いたのは、凪穂の方だった、とは言っても、殆ど独り言のように放った。


「無いか~.....」


 その呟くような一言に、匠斗が反応する。


「目当ての本が無いの?」

 すぐさま、凪穂が答える。

「う~ん、ちょっと古いんで、やっぱ、置いてないや」

「題名は?」

「あ、いいのいいの、気にしないで」

「うわ、気になるな~その言い方」

「うふ、でもいいの、絶対に欲しい本じゃなかったんで。それで、匠斗くんの方は見つかったの?」

「はは、どうやらこっちも今日は終了のようだ」


 二人残念な雰囲気だったが、コレで帰るにはまだ早いと思い、匠斗は凪穂に声を掛けた。


「あのさ良かったら、フードコートで、休憩して行かない?」

 思いもよらない言葉に、凪穂は目を見張って言葉を返した。


「お姉さん、ヒマ? だったら、お茶でも行こうよ.....的な 感じかな?匠斗くん」

「まあ、そんなところかな」


 匠斗が気恥ずかしがっていると。


「いいよ、この後は家に帰るだけだから」

「やった~、お姉さんのナンパに成功したぞ~....的な」


「うふふふふ.....」

「あはははは.....」


 

 書籍が並ぶ店舗を後にして、二人はそのまま、モール内のフードコートに向かった。



                 △



 二人だけが座れる小さなテーブル席で、注文したものを飲みながら、匠斗と凪穂が向かい合い、今日あった事を話す。


「今日一日でこんなに凪穂と仲良くなれたのには、自分でも驚いた」

「そうだね。朝 舞ちゃんと一緒に居た時から、殆ど匠斗くんと、一緒だったからね、ホントにこんなに打ち解けるなんて、思っても見なかったよ」

「凪穂、もう 匠斗でいいよ。そう呼んでくれ」

「でも、私 生まれてから今までに、親戚以外で男の子を呼び捨てにした事がないから....」

「でも、結構一日で亮と葵とも仲良くなったし、コレから毎週末4人で会うんだから、ホントに匠斗でいいから」


 少し躊躇していた凪穂だが、意を決して。


「じゃあ、これからもよろしくね。 た、く、と、.....きゃ~! 恥ずかしい」

「ま、最初はそうだろうけど、そのうち慣れるさ」

「が、頑張る...から」


 凪穂ってこんな風にはしゃぐ一面もあるんだなと、匠斗は何か先ほどとはまた違う感覚に、気が付いた。



 その後も、今日あった出来事など、色々と話して、最後に 連絡先を交換して、ショッピングモールを後にした。




                  ◇



 凪穂と別れた後、匠斗は書店で探しあてる事が出来なかった本が、帰りの途中にある中古メディアなど取り扱っている店へと向かった。

 別段どうしても欲しいモノは無かったが、何か気になっていたので、帰り道にあるその店舗へと足を向けた。


 到着すると、駐車場には結構車が埋まっていて、この店舗の人気度が分かる。


 店舗に入ってすぐに、未だ人気のあるゲームソフトが置いてある。 暫くそれを見てから、古本コーナーに向かった。


 人は結構いて、店内も商品がびっしりと奇麗に陳列されている。それで言って小奇麗なので、探しやすい。 目的の本があるか、順を追って見ていくと、欲しい書籍がまだ新書と言って良いほどきれいな外見で書棚に挟まっていた。

 匠斗がその書籍に手を伸ばした。


「匠斗?」


 いきなり呼ばれたので、直ぐに振り返る。


 まさか、有り得ないと思うほどの状況がまだ続いた。


「凪穂?」


 匠斗が続ける。

「なんで居るの? 凪穂」


 驚いたまま少し固まった凪穂に言う。


「さっきモールで無かった本がここにあるかな?と思って、来てみたの」

「そう言う事か~.....、って言うか、さっきのモールの本屋と言い、ココの店と言い、良く出くわすな俺たち」


 少し笑顔になって凪穂が答える。


「ホントにそうだね、何か 匠斗とは、行動パターンが良く似ているのかな?」

「それもあるけど、趣味が本の部類ではよく似ているのかな?」


 匠斗と凪穂の趣味・行動パターンが類似しているために、今日3度目の鉢合わせが起きていると、思ってしまう。 偶然なのかそうなのか。


「で、欲しい本ってあったのか?」

「無かった、残念」


 少し残念な様子の凪穂。


「本の題名言ってみな、もう少しオレも探すの協力するから」

「ほんと?」


 そう言う事で、匠斗は凪穂から題名を教えてもらった。


「あ!その本なら家にあるけど」

「え! そうなの?」

「うん、去年の暮れに買ったんだ、もう読破してしまったから、良かったら週明けにでも貸すよ」

「わ、嬉しい。 じゃあお願いしようか.....」

そう言いかけた凪穂だったが、次の言葉に匠斗が驚いた。


「明日、日曜日でしょ? だから、匠斗の家に行って読んでもいい?....かな」


「・・・・・」

 匠斗が一瞬固まった。 人生17年、自分の部屋に女性など、母親 妹意外にだれも入れた事のない男子だったので、躊躇した。


「ダメかなぁ」


 色々と頭を巡らせるが、なにを困っているのか、悩んでいるのか分からない、ただ NO と言う答えは見つからなかった。


「いいよ、何時にする?」


「いいの?じゃあ....、えっと.....、あの本って、私なら多分半日くらいあれば、読み切れると思うから、朝早いけど、9時ってどうかな?、早いかな?」


「ああ、そうだね、早めに来て、読み切れれば、早く帰れるしね。 分かった9時だな、で、家は分かるの?」

「コレを使えば」


 そう言って、凪穂がスマホを取り出し、地図アプリのアイコンをタップした。


「匠斗の家って、どこ?」

 可愛らしい携帯カバーに収まっているスマホの画面に、現在地が映っている。その画面に俺がスワイプして、家の位置を示した時、凪穂の顔が引きつった。


「こ、ココなの? 匠斗の家...」

「そうだけど」


「.......」

「なにか?」


「ココが私の家」

 そう言って、画面を全く動かさずに指を指した。


「え!? 」

 匠斗の顔も固まった。


「殆ど近所じゃん、凪穂の家」


 そうなのだ、匠斗と凪穂の家の距離が200mも離れていない。


「どうして?こんなに近いのに、今まで何で会ってなかったのかしら」


「多分だが、通学路が違う為だと思う。ほら、オレと凪穂の家では、道通りが違うからだな」

「でも、匠斗の家に行くには、この裏通りを通って行けば、ホントに2~3分で着きそうね、でも、じゃあなんで、小学校は居なかったの?」


「それは、俺んちの裏から、違う小学校区だったからだな」

「納得」



 こんなにお互いの家が近いなんて、どうなっちゃてるんだ と言う思いが、お互いにあった。


「それじゃあ、明日9時だね、家出たら連絡するから」

「分かった、じゃあ明日」

「うん、バイバイ」

「バ~イ」



 本当に今日一日は驚きの連続だった。まさかの鉢合わせに、驚く他なかった。


 明日は朝早くから凪穂が来るので、匠斗は今日中に部屋の片づけをしておかなければと思い、せっせと行うのであった。



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