第20話 鵺

「私にかかれば八岐大蛇さんもイチコロでしたよ。エヘッ!」

 恐るべし! エヘ幽霊。

「コン。」

 美味しそうに油揚げを食べているコンコン。

「だろうね。あんたは呪いが解けない方がいいんじゃないかい?」

 女将さんはおみっちゃんに一生音痴でいろと言う。

「嫌です! 私の夢はお江戸で歌姫になるです! 音痴じゃ歌姫にはなれません!」

 本人も自分が音痴だと知っている。

「はいはい。分かったよ。八岐大蛇の次は鵺が暴れて人々を困らせているから、鵺を退治して善行を積むんだね。そうすれば、きっと神様が音痴を治してくれるよ。」

 音痴が治るのは神頼みである。

「分かりました。鵺さんを倒してきますね。行こう。コンコン。」

「コン。」

 おみっちゃんとコンコンは鵺退治に出かける。


「歌って素晴らしい! 歌はみんなを笑顔にする! 歌はみんなに勇気をくれる! こういう路線の方がいいのかな?」

 戦いモノからアイドルモノに路線変更を探るおみっちゃん。

「私は歌が上手に歌えない! みんなの前だと恥ずかしい! 歌なんか楽しくないやい! からの歌が歌えるようになるんです下克上ストーリーの方がいいのかしら?」

 乙女の悩みは尽きない。

「それとも妖怪の学校が廃校になるから妖怪学園アイドルになってコンテストで優勝して、学校の廃校を阻止する定番の物語の方がいいのかしら?」

 物語やストーリーはどうでもいいのかもしれない。

「要するに私が歌って事件を解決すれば、茶店の歌姫になるのだから! エヘッ!」

 これがエヘ幽霊の出した結論である。既存のヒットアニメもそんなものだから。

「コン。」

 油揚げが食べられる物語ならなんでもいいコンコン。


「鵺さん! どこですか?」

 おみっちゃんは鵺を探していた。

「コン。」

 こっちだよとコンコンが言っている。

「うちの子はなんて優秀なのかしら。エヘッ!」

 バカ親ならぬ、バカ飼い主のエヘ幽霊。

「ガオー!」

 鵺が現れた。

「おまえが鵺だな! 私は魔王で、日本の4大妖怪の一人! カワイイおみっちゃんだ! おまえを退治してやる!」

 おみっちゃんは鵺を退治しようと思った。

「コン。」

 しかし、コンコンがおみっちゃんを止める。

「どうしたの? コンコン。」

 おみっちゃんはコンコンに尋ねてみた。

「コン。」

 鵺はお腹が空いているだけだって、餌を上げれば悪さはしないよとコンコンは言っている。

「な~んだ。お腹が空いているだけなんだ。エサは何をあげればいいの?」

 おみっちゃんは通訳のコンコンに聞く。

「コンコン。」

「ガオー!」

 コンコンと鵺は会話をする。

「コン。」

 神戸牛か米沢牛が食べたいと言っているとコンコンは通訳する。

「高い肉ばかり要求しおって!?」

 意外にグルメな鵺。

「ガオー!」

「コンコン。」

 更に契約の会話が続く。

「おいおい。ここはメジャーリーグかよ。」

 おみっちゃんは外国人と話しているみたいだった。

「コン。」

 新たな鵺の要望をおみっちゃんに伝えるコンコン。

「コン。」

 鵺は松坂牛でもまけてあげようと言っていると通訳するコンコン。

「ま、ま、松坂牛!? 鵺さん! あなたは何様ですか!?」

 おみっちゃんの堪忍袋の緒が切れる。

「私の歌で殺処分してあげましょう。鵺さん、あなたはトリ・ウイルスに感染しているに違いありません。」

 おみっちゃんは歌を歌うことに決めた。

「コン。」

 耳栓をするコンコン。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 おみっちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主であった。

「ガオー!」

 鵺は断末魔の叫び声を上げて消え去った。

「コン。」

 高い肉が食べたかったと鵺の最後の声を通訳するコンコン。

「ご清聴ありがとうございました! ああ~気持ち良かった! 歌って素晴らしい! エヘッ!」

 大好きな歌が歌えてご満悦なエヘ幽霊。

「カアー!」

 その時、カラスが鳴いた。

「コンコン。カラスが鳴くから帰ろうか。」

「コン。」

 おみっちゃんたちはカラスが鳴いたので茶店に帰ることにした。

「私が歌えば事件が解決できるって、麻酔針指しておじさんを眠らせて子供が推理して事件を解決する毎回不幸が起こる物語と一緒だよね。なら私も探偵になろうかな? 幽霊デカとか、幽霊探偵おみっちゃんとか、どう?」

 おみっちゃんは未だに路線を決めかねていた。

「コン。」

 油揚げが食べたいですと話は聞いていないコンコンであった。

 つづく。

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