第3話 エヘッ! 3

「私の名前はおみっちゃん! 夢はお江戸で歌姫になることです!」

 おみっちゃんの夢は歌姫になること。ちなみに歌姫とはアイドルみたいなものである。

「いらっしゃいませ! 美味しい! 美味しい! お茶とお団子ですよ!」

 夢を叶えるために茶店で看板娘のアルバイトをして銭を貯めている。

「実は私、幽霊なんですけど。エヘッ!」

 おみっちゃんはエヘ幽霊である。


「重い荷物を持っているおばあちゃんがいたら荷物を持ってあげよう! ああ~良いことしたな!」

 おみっちゃんは純粋な心の持ち主。

「何言ってるんだい? あんた幽霊だから荷物は持てないだろう。」

 茶店の女将さんがツッコム。

「そうでした。私が可愛いから許してください。エヘッ!」

 おみっちゃんは可愛い幽霊でした。

「せっかく茶店で働く仲間が増えたので自己紹介でもしましょう。」

 おみっちゃんは新しく茶店で働くことになったガッキーとテンテンと親睦を深めたい。

「私は幽霊のおみっちゃん。夢はお江戸で歌姫になることです。エヘッ!」

 歌姫になって煌びやかで輝く世界に行きたいエヘ幽霊。

(えっ!? おみっちゃんが江戸に行って歌ったら江戸が壊滅しちゃうよ!?)

 ガッキーとテンテンはおみっちゃんの夢に恐怖を覚えてガクガク・ブルブルした。

「はい。次はガッキーの番よ。」

 おみっちゃんはガッキーにふる。

「はい。私の名前は餓鬼のガッキー。私の夢はお腹いっぱいに食べることです。どれだけ食べてもお腹が空くの。ガハッ!」

 ガッキーは無限食欲の持ち主。別名、爆食女王ガッキーである。

(呪われた体質だな。可哀そうに。)

 同情するおみっちゃんとテンテン。

「次はテンテンよ。」

 おみっちゃんはテンテンにふる。

「私は天狗のテンテン。私の夢は天狗で一番偉い大天狗になることです。私は強くなって最強の天狗になるんだ。」 

 天狗のテンテンは大天狗になることが夢であった。そのために強くなりたい。

「みんなで夢に向かってがんばろう!」

「エイエイオー!」

 気合を入れるおみっちゃん、ガッキー、テンテン。

「そんなことはどうでもいいから仕事をしな! ただ飯は食わせないよ。イヒッ!」

 守銭奴の女将さん。

「女将さんって、夢の無い寂しい大人なんですね。」

 お金の話に嫌気がさしているおみっちゃん。

「世の中、銭が全てだよ! イヒッ!」

 年季の違いを見せつける女将さん。

「私たちが頑張れば、お茶とお団子以外に他の商品も茶店で出せそうな気がする。」

 良い所に気がついたおみっちゃん。

「残飯は私に任せて。何でも食べるし、いくら食べてもお腹は空いたままだから。ガハッ!」

 無限食欲のガッキーは茶店の廃棄ロス・ゼロを達成している地球に優しい存在である。

「私の風と火なら焼き鳥とかカツオのたたきなんかもできるから茶店で出せるわよ。」

 テンテンは風と火を使えるので茶店の商品の種類が広がる。

「だからうちはお茶とお団子の茶店だよ! もっと焼き団子とかみたらし団子とかの発想はないのかい?」

 茶々を入れる女将さん。

「大火力! 焦がし団子!」

 テンテン自信作のお団子。

「マニア騒然! 私の涎みたらし団子!」

 ガッキー自信作のお団子。

「おまえたち! 新作のお団子を考える気があるのかい?」

 女将さんは怒りだす。

「ガッキーとテンテンに新しいお団子を考えさせるのが間違いですよ。」

 その通り。

「なら、おみっちゃんは何か新作のお団子を思いついたのかい?」

 女将さんは尋ねてみた。

「私は女将さんの作る昔ながらのお団子が好きです。エヘッ!」

 汚いエヘ幽霊。

「さすが! おみっちゃん! 良いこと言うね! イヒッ!」

 上機嫌な女将さん。

「裏切り者!」

 ガッキーとテンテンは怒る。

「女将さん! 褒めてあげたので自給を上げて下さい! エヘッ!」

 嘆願するエヘ幽霊。

「はいはい。お話はここまで。話してるとキリがないからね。無駄口は一銭にもならないよ。」

 仕切る女将さん。

「女将さんのイケズ。」

 悲しむおみっちゃん。

「いいのかい? おみっちゃん。文句を言っていると給料を減らすよ。夢が叶うのが遠のくよ。それでもいいのかい?」

 子供の弱みに付け込むパワハラ・オーナーの女将さん。

「それだけはご勘弁を! 私が悪うございました! お許しください! 神様! 仏様! 女将さん様!」

 時給を人質に取るオーナーに弱いアルバイトのおみっちゃん。

「分かればいいんだよ。真面目に働きな!」

 包容力のある女将さん。

「いらっしゃいませ! 美味しい! 美味しい! 焼き鳥ですよ!」

 てんぱりながらも働くおみっちゃん。

「うちはやきとり屋じゃないよ!」

 女将さんの厳しい激が飛ぶ。

「間違えちゃった。私が可愛いから許してください。エヘッ!」

 エヘ幽霊はこういう奴である。


「私にもお茶とお団子を寄こせ! 私の名前は河童だ!」

 河童が茶店に現れてお茶とお団子を要求してくる。

「商売の邪魔だね。おみっちゃん、退治しちゃいな。」

 女将さんはおみっちゃんに倒す様に言う。

「ええー!? また私ですか!? テンテンに言ってくださいよ!?」

 お友達を売る薄情なおみっちゃん。

「私はお皿を洗うのに忙しいんだ。」

 戦いに興味のないテンテン。 

(良かった。私の出番が奪われないで済んだ。エヘッ!)

 内心は腹黒いエヘ幽霊。。

「分かった。時給を2円上げてやろう。夢の叶う日が近づいてきたね。」

 女将さんは銭儲けに忙しいので戦いには興味が無かった。

「やります! やらせていただきます! 例え2円でも時給が上がるなら! 夢を叶えるために私は戦います!」

 時給アップと夢を叶えるために簡単に釣られるおみっちゃん。


「私の名前はおみっちゃん! 私がお相手致します!」

 おみっちゃんが河童に立ち塞がる。

「何を! 止めれるものなら止めてみろ!」

 河童はおみっちゃんに襲い掛かる。

「これでもくらえ! 必殺! 水鉄砲!」

 河童は水を出して、おみっちゃんを攻撃する。

「ギャアアアアアアー!」

 河童の攻撃を食らったおみっちゃん。

「口ほどにもない。」

 渋い天狗。

「誰が口ほどにもないんですか。エヘッ!」

 倒されたはずのおみっちゃんが笑って立っていた。

「なに!? 確かに倒したはず!? どうしておまえがそこにいる!?」

 河童には理解できなかった。

「私、幽霊なので攻撃を食らわないんです。エヘッ!」

 幽霊のスキルのスルーが自動発生し、河童の攻撃はおみっちゃんには当たらなかった。

「バカな!? そんなのありか!? イカサマだ!?」

 河童はクレームを言う。

「私が可愛いから許してください。エヘッ!」

 可愛い子ぶるエヘ幽霊。

「クソッ! こうなったら妖力を上げてやる! 必殺! 渦潮! ドドドドドドドドドー!」

 河童は妖力を上げておみっちゃんを攻撃する。

「なんだか怖いのでステルス!」

 おみっちゃんは幽霊のスキルのステルスで透明になり姿を消した。

「どこに行った!? おみっちゃん!?」

 河童にはおみっちゃんの姿が見えないので攻撃を当てる術がない。

「おみっちゃん。茶店とお客様が水没しちゃうから降参しておきな。」

 女将さんがおみっちゃんに茶店とお客さんの安全が第一だと降参を命令する。

「参りました。私の負けです。」

 姿を現しておみっちゃんは河童に降参する。

「やったー! おみっちゃんに勝ったぞ! これでお茶とお団子は私のものだ! わ~い!」

 大喜びの河童。

「あの~お願いがあるのですが、私の夢はお江戸で歌姫になることなんですが、最後に歌を歌わせてもらっても良いでしょうか?」

 謙虚にお願いするおみっちゃん。

「まあ、いいだろう。歌ぐらい歌わせてやろう。ワッハッハー!」

 勝利して上機嫌な河童。

「ありがとうございます。それじゃあ、思いっきり歌わせてもらいますね。エヘッ!」

 歌が大好きなエヘ幽霊。

「耳栓用意!」

 女将さんは耳に耳栓をして衝撃に備える。

「1番! おみっちゃんが歌います! 曲は川の流れに巻き込まれて! 聞いてください! どうぞ!」

 おみっちゃんが歌い始めた。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 おみっちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主であった。

「ギャアアアアアアー!? なんだ!? この歌声は!? 頭が砕けそうだ!?」

 河童はおみっちゃんの歌声に耐えられないで苦しんでいる。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 更に気持ちよく歌を歌い続けるおみっちゃん。

「こうなったら私の水でおみっちゃんの歌を洗い流してやる! おみっちゃんの夢を消し去ってやる! 必殺! 河童の川流れ!」

 河童はおみっちゃんの歌声に水をぶつける。

「そんな!? 私の歌声が!?」

 おみっちゃんの歌声が水に洗い流されていく。

「見たか! 私の水芸を! どれだけ歌おうとも全て洗い流してやる! おまえの夢は叶わない! 歌姫になるのは諦めろ! この音痴!」

 音痴。それはおみっちゃんには言ってはいけないワードである。

(音痴・・・・・・・音痴・・・・・・音痴・・・・・・私は歌姫になりたいのに実は音痴・・・・・・。)

 おみっちゃんの中で何かが弾ける。夢と現実の狭間で何かが覚醒する。

「誰が音痴だ! 音痴の何が悪い! 私は夢を諦めない! 夢は見る物じゃない! 夢は叶えるものなんだ! 私は絶対に歌姫になるんだー!!!」

 おみっちゃんは気合をいれてフルスロットルで歌を歌う。

「おみっちゃんの夢が強大に膨らんでいく!? どこにそんな力があるというのだ!?」

 思わず天狗もたじろぐ。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 もう誰にもおみっちゃんの歌は止められない。

「ギャアアアアアアー! 私の水をもってしてもおみっちゃんの歌を消しきれない!?」

 気圧される天狗。

「分かるまい! 他人の夢をバカにするおまえには! 私の夢は誰にも奪われない! 夢を見るのは自由だ! 夢は努力で手に入れるものだ! 私の心が諦めない限り、私の夢は終わらない! 私は絶対に歌姫になるんだー! うおおおおおおおー!」

 おみっちゃんは絶対に歌姫になりたいという強い気持ちが自分を強くしてくれている。

「なんという執念だ!? これがおみっちゃんの夢を叶えたいという思い!? ・・・・・・参りました! 私の負けです! 何でも言うとおりにしますから、どうか命ばかりはお助け下さい! ギャアアアアアアー!」

 河童は無条件降伏した。

「ご清聴ありがとうございました! ああ~気持ち良かった! エヘッ!」

 歌を歌い終えてご満悦なエヘ幽霊。

「それではカッカッ。」

 おみっちゃんは河童のことをカッカッと名付ける。

「カッカッ!? 私はデーモン閣下ですか?」

 河童はカッカッと呼ばれることになった。

「カッカッ。早速お皿洗いから始めてもらうわよ。」

 おみっちゃんはカッカッに皿洗いを命じる。

「任せて! お皿洗いは得意なの! エイ!

 起用に水を扱いお皿をピカピカにしていくカッカッ。

「超便利。まるで食器洗濯機みたい。」

 思わずおみっちゃんも脱帽した。

「新作のお団子も作ってみました。水餃子があるので水団子を作ってみました。カッカッカ!」

 水が扱えるカッカッは料理もできて優秀だった。

「美味しい! カッカッは何でもできるのね!」

 おみっちゃんも大喜び。

「いいね。さすが河童だよ。これで洗い物や閉店作業の水掃除も時間短縮は間違いなし! その分、片付けのアルバイトを雇わなくていいからね。働きやすい職場の完成だよ! 銭の匂いがするね! イヒッ!」

 労働時間の短縮に機嫌がよくなる女将さん。

「それに比べて不器用な奴ら。」

 冷たい目でガッキーとテンテンを見る女将さん。

「お残しは私が食べます! ガハッ!」

 廃棄ゼロを目指すみたらし団子ならぬ涎団子の創設者のガッキー。

「直火で焼いた焦がし団子はいかがですか! 私の名前はテンテン。今度、肉まんやシュウマイでも作ってみるかな? テンッ!」

 火力の加減ができない天狗だけど中国料理派のテンテン。  

「私たちは私たちなりに頑張っているんだ!」

「そうだ! そうだ!」

 ガッキーとテンテンは反論する。

「抵抗するなら、もう一曲歌おうか?」

 おみっちゃんは文句を言うガッキーとテンテンに尋ねてみた。

「結構です。」

「静かにしてます。」

 それほどおみっちゃんの音痴な歌を聞きたくないガッキーとテンテン。

「これにて一件落着! エヘッ!」

 勝ち誇るおみっちゃん。

「終わったんなら働きな。お茶とお団子をお客様に持っていきな。」

 仕事には厳しい女将さん。

「は~い! 喜んで!」

 おみっちゃんの夢はいつ叶うのか。

 つづく。

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